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嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え
【第13回】 2014年7月25日
著者・コラム紹介バックナンバー
岸見一郎

「ほめて育てよ」は間違い。
ほめることはその人を見下すことである
宮台真司×神保哲生×岸見一郎 鼎談第2弾(前編)

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37万部のベストセラー『嫌われる勇気』の影響で一気に日本における知名度が高まったアドラー心理学。同書の著者・岸見一郎氏と、社会学者の宮台真司氏、ジャーナリストの神保哲生氏がインターネット放送番組「マル激トーク・オン・ディマンド」で繰り広げたトークセッションを2回に分けて掲載。
前編では現代日本の親子問題、恋愛問題、教育問題などをテーマに、「課題の分離」が不得意な日本人の特徴から、「ほめて育てよ」の嘘までをアドラー心理学を用いて語り尽くす!

すべての悩みは
対人関係の悩みである

神保哲生(以下、神保) 本日は、哲学者・岸見一郎先生をお招きしての「アドラー心理学」第2弾ということになります(第1弾は本連載の第9回第10回をご覧下さい)。

右から宮台氏、神保氏、岸見氏。第1弾と同じく鼎談の収録はビデオニュース・ドットコムのスタジオで行われた。

宮台真司(以下、宮台) 第1弾は、「過去よりも未来」あるいは「トラウマよりも最終目的」という、わりと時間軸に沿った話をしましたが、今回は時間軸というよりも、むしろ人間関係のような空間性が主題になります。それゆえ第2弾が必要だということですね。

神保 人間関係ということでいうと、『嫌われる勇気』によれば「すべての悩みは対人関係である」と書かれています。しかし、自分が抱えている悩みには、対人関係じゃないものもあると感じる方もいるかもしれません。それでもアドラーは、すべては対人関係の悩みだと言い切る。岸見先生これはどういうことでしょうか。

岸見一郎(以下、岸見) 話をすると皆さんわかってくださるのですが、逆に言えば対人関係の問題だととらえないと、少しも問題が解決されないことのほうが多いはずです。対人関係の問題だとわかってしまえば、解決の糸口が見えてくることが多いのです。

神保 ほとんどの自分の悩みは、じつは対人関係の文脈に落とし込めるということですか。

岸見 そうです。

神保 自分だけでただ悩んでいるようなもの、たとえば自分のキャリアのこととか、体型のこととか、そうしたこともやはり対人関係だと。

岸見 体型なんて、人との関係がなければ問題にならないでしょう。

神保 たしかに、一人で生きていればね。

宮台 誰も見ていませんからね。

岸見 性格もそうです。性格は対人関係のなかで決まるものです。もし一人で誰とも接することなく生きているのであれば、性格は問題になりませんし、体型だって誰も気にしない。痩せようとも太ろうとも思わないはずです。

宮台 「共同体感覚」など今回扱う重要な問題と関係するので、裏側から言っておきます。僕は1980年前後に自己啓発セミナー──アメリカで言うアウェアネス・トレーニング──を体験しました。当初は受講者もスーパーエリートが多く、ファシリテイターが、体験の組織化と、理屈の説明を、織り交ぜながら進行するものでした。
 最も重要なものの一つが「過去、一番自分が楽しかったことを、ありありと思い描く」というリマインディング・プログラム。これをやる前にダイアド(二人一組)のセッション等を通じて受講者は変性意識状態に入ります。その後、時間をかけて頭の中の鍵を外し、過去を思い出す。すると、皆がブワーッと声をあげて泣き始めるんです。
 その後、皆で体験をシェアするのですが、それを通じて僕は、最も楽しかったことや幸せだったことも、すべて対人関係に由来することを学びました。どんなに辛い家族関係を生きてきた人も、むしろだからこそ、この上なく幸せだったことや希望を抱いたことを覚えている。それらはすべて対人関係に関わる幸せや希望なのです。
 いつも厳しくて暴力を振るうお父さんが、珍しくこんなことをしてくれた。仲が悪かった両親がたった一度子どもたちを連れて海に行ってくれた。すべての悩みは対人関係の悩みですが、だからこそ、いちばん幸せな記憶もすべて対人関係の幸せです。それがアドラーのいう最終目的に関係するのですね。
前回、岸見先生が説明してくださったけど、アドラーは、究極の最終目的を思い描き、それによるプライミング(先行の学習や記憶が後続の事柄に影響を与えること)で現在の優先順位を変えるよう推奨します。この場合のリスクは、最終目的を他の人に操縦されること。たとえば、アドラーを持ち出す経営者は、従業員の最終目的を操縦しようとします。
 最終目的を他人に操縦されないためには、過去の幸せがもっぱら対人関係に由来していることをわきまえ、自分が過去にいちばん幸せだと感じたことに矛盾しないように最終目的を設定するのが安全です。繰り返すと、悩みや苦しみにおいても、希望や勇気においても、対人関係が最も重要なファクターになります。

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岸見一郎(きしみ・いちろう) 

哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。


嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え

フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨頭とされながら、日本では無名に近いアルフレッド・アドラー。彼はトラウマの存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善する具体策を示してくれます。まさに村社会的空気のなかで対人関係に悩む日本人にこそ必要な思想と言えるでしょう。本連載では、アドラーの教えのポイントを逐次解説することでわかりやすく伝えます。

「嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え」

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