最高裁:「甚だしく不当」求刑1.5倍の裁判員判決を破棄

毎日新聞 2014年07月24日 22時13分(最終更新 07月25日 00時00分)

判決言い渡し後に報道陣の取材に答える岸本美杏被告の弁護団=最高裁前で2014年7月24日、島田信幸撮影
判決言い渡し後に報道陣の取材に答える岸本美杏被告の弁護団=最高裁前で2014年7月24日、島田信幸撮影

 検察側の求刑の1.5倍に当たる裁判員裁判の判決の是非が争われた1歳児虐待死事件の上告審判決で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は24日、裁判員裁判について「他の裁判結果との公平性が保たれた適正なものでなければならず、過去の量刑傾向を共通認識として評議を深めることが求められる」との初判断を示した。その上で、傷害致死罪に問われた両親をいずれも懲役15年(求刑・懲役10年)とした1、2審判決を破棄、父の岸本憲(あきら)被告(31)に懲役10年、母美杏(みき)被告(32)に懲役8年を言い渡した。

 最高裁が裁判員裁判の判決を破棄して量刑を見直したのは初めて。最高裁が過去の量刑傾向を重視する姿勢を明確にした形で、今後の裁判員裁判に大きな影響を与えそうだ。

 判決は裁判官5人全員一致の意見。小法廷は「裁判員裁判の役割として、これまでの傾向を変える量刑が直ちに否定されるものではない」としつつ、「そうした量刑判断をする場合は、従来の量刑傾向を前提とすべきでない事情が具体的、説得的に示されるべきだ」と指摘した。その上で、1審・大阪地裁判決(2012年3月)を「求刑を大幅に超える具体的、説得的根拠が示されているとは言い難く、甚だしく不当」と批判。1審を支持した2審・大阪高裁判決(13年4月)も「合理的な理由がない」と破棄した。

 評議では、従来の傾向を示す量刑検索システムが参考にされるが、地裁判決はシステムは妥当性が検証できないなどとした上で「殺人罪と傷害致死罪の境界線に近い事件。求刑は長期にわたる虐待の悪質性を十分に評価しておらず、児童虐待には今まで以上に厳しい罰を科すことが社会情勢に合う」と述べていた。

 1、2審判決によると両被告は共謀し、10年1月に大阪府寝屋川市内の自宅で、憲被告が三女瑠奈(るな)ちゃんの頭を平手で強打し、急性硬膜下血腫で同年3月に死亡させ、美杏被告も黙認した。【川名壮志】

 ◇最高裁判決の骨子

・裁判員裁判も、他の裁判結果との公平性が保たれた適正なものでなければならない

・これまでの傾向を変える量刑判断をする際には、従来の傾向を前提とすべきではない事情を具体的に示すべきだ

・1審判決には、求刑を大幅に超える量刑の具体的、説得的な根拠が示されておらず、これを是認した2審判決は甚だしく不当である

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