【藤本順一、上杉隆の言いたい放談】2013年2月23日掲載紙面から
安倍政権が発足2か月を前に怒とうの外交攻勢を仕掛けている。麻生太郎財務相(72)がギャングスタイルでG20に乗り込んだのを皮切りに、森喜朗元首相(75)がロシアのプーチン大統領(60)と会談し、安倍晋三首相(58)とオバマ米大統領(51)の日米首脳会談も実現した。本紙「永田町ワイドショー」藤本順一氏、元ジャーナリストで公益社団法人自由報道協会理事長の上杉隆氏が、安倍外交と20年東京五輪招致をジャッジした。
藤本:安倍政権は民主党政権下で混乱を極めた外交の立て直しに乗り出している。首相特使としてロシアに派遣した森元首相とプーチン大統領の会談では、北方領土返還の交渉再開で合意しました。公約だった政府主催の「竹島の日」の式典も韓国側に配慮して見送りましたし、海自護衛艦へのレーダー照射事件では当初、中国を激しく批判していましたが、途中からトーンダウンさせています。
上杉:普天間問題で迷走した鳩山政権、原発事故の戦犯ともいえる菅政権、放射性物質が漏れ続けているのに事故の収束宣言した野田政権と、不信感を抱えたままのリーダーは国際社会からは評価されずに孤立しましたから。ただ安倍首相も一度、病気を理由に政権を投げ出していますから、リベンジといってもマイナスからのスタート。
藤本:オバマ大統領との日米首脳会談が早期に実現したのは、著しく弱体化した日米同盟の強化につながるので評価したい。TPP問題は与野党とも、党内に農林族を中心にした抵抗勢力を抱えていますが、隠れた焦点は医療・保険分野です。こちらも厚生族議員が抵抗している。
上杉:世界に誇る国民皆保険制度が崩壊していいのかとキャンペーンを張っていますが、自分たちの既得権益が崩壊するから自由化に反対しているようにもみえる。
藤本:高齢化社会を迎え、国の医療費負担が財政を圧迫しています。このまま現行の国民皆保険制度を維持するのは不可能です。いずれは交渉参加に踏み出すしかないわけですし、むしろ自由化した方が、国民の選択肢が広がり、利便性が向上するんじゃないかな。安倍首相の胆力が問われるところです。
上杉:TPPはメディアの問題でもあります。項目ごとに損得があり、また地域によって異なるのに「産業全体が損をする」と単純な議論に押し込めている。国と国との交渉で片方が100%損するシステムなんてありませんよ。
藤本:外交でいえば先週、スペインのガルシア・マルガージョ外相が来日し、上杉さんと2人、日本―スペイン交流400周年のレセプションに出席してきました。スペインは20年の五輪招致で日本のライバル国でもありますが、残念ながら客観情勢はマドリードが有利。五輪の開催で財政悪化が伝えられるスペインの経済立て直しにつながりますから、EUの支持を得られるでしょうし、中南米のラテン諸国も味方につく。それに欧米人は放射能汚染に敏感ですからね。
上杉:決定的なのは柔道の暴行事件が世界で大きく報道されたことですね。日本には体罰という言葉があるが、欧米にはなく、バイオレンス=暴力となっている。当初は私も東京五輪招致の先頭に立つ気概でしたが、スペインでのゴルフ競技が、私の敬愛する故セベ・バレステロス設計のコースで行われると決まったと聞き、もう心は揺らいでいます(笑い)。
藤本:東京都は五輪招致に莫大なカネを使ってきているから、今さら引っ込みがつかない(笑い)。次善の策としてはギリギリのところでスペイン支持を打ち出し、次の24年の開催を目指す手はある。それにしてもレセプションでお会いしたスペイン女性は皆さん魅力的でしたね。われわれも積極的に交流、相互理解を深めることにしましょう(笑い)。
☆ふじもと・じゅんいち=1958年、福岡県生まれ。新聞、雑誌記者を経て独立、取材執筆集団「メディアフォーラム」代表。「建設業界・談合が崩壊する日」「永田町奇譚 もしニッポンの総理が東スポを愛読してたら…」など著書多数。本紙で「永田町ワイドショー」好評連載中。
☆うえすぎ・たかし=1968年、福岡県生まれ。テレビ局、衆院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ取材記者、フリージャーナリストを経て、公益法人自由報道協会理事長。ミドルメディア「NO BORDER」代表。近著に森達也氏との共著「誰がこの国を壊すのか」など多数。