岡山での少女誘拐事件で警察が踏み込んだときの状況から、「寝転んでアニメを見てたなんて誘拐じゃない、同意の上なんだ」「都合よく少女の家出に利用されただけ」という犯人無罪論または少女同罪論がネットの一部ではまかり通っていました。

もちろん、「監禁したのは確かだし、悪いことに変わりがない」という反対認識のほうが圧倒的だったし、その後、犯人の自供で、少女を刃物で脅しての「強制連行」だったことが判明、家出に利用されたという弁護論は拠り所を奪われたのですが。
ここまでわかった以上、「犯人はやさしかった」「家出だった」「同意の上」などと擁護する人はいないと思います。ところが同じほど弁護が困難な状況にありながら、「加害側に落ち度はなかった」と居直る人たちがいるのです。
国際的に非難される日本軍従軍慰安婦制度について、「強制ではなかったから責められるいわれはない」となおも食い下がる日本の極右集団です。

慰安婦問題でも、これまで数えきれない資料や証言によって「強制性」が裏付けられてきました。
それに対し、まったく代わり映えのしない屁理屈と資料の曲解によって「そんなことはなかった」で片付けようとする者が後を絶ちません。まあ国内の一部の人だけですが。

「性奴隷と呼ぶのは不適切」「過酷な状況で束縛されたわけではない」「高給で優遇されていた」……彼らが呪文のごとく唱える、この使えない口上。
なぜ国際社会では通用しないのか?
実は、あまりにも多くの似通った先例があるからです。

オスマントルコの例を挙げて説明してみようと思います。
オスマン朝トルコの皇帝のハーレムでは、奴隷として売られた女性たちが身の自由を奪われ暮らしていました。とはいえ彼女らは、一般人より衣食住において恵まれたし、皇帝の寵を得れば宝石など高価な贈り物ももらえました。皇帝の世継ぎを産み、皇后にまでなった女性さえいたほどです。
しかし……。
そうした事実があるからといって今日、ハーレム制度を擁護する人は西側にはおらず、「性奴隷」として認識されることに変わりありません。

またオスマントルコには、支配地から連れてきた子供たちを官吏や軍人に育てる(彼らはデヴシルメと呼ばれた)徴用制度がありました。
デヴシルメも農民などより暮らしは良く、とりわけイェニチェリと呼ばれるデヴシルメからなる軍団は、幼時からの洗脳教育で皇帝のため捨て身の奮闘も厭わぬ強者揃い、戦場でも厚遇されました。デヴシルメから大臣にまで成り上った者もいたほどです。
しかしこれも、今では擁護する人のいない制度です。

さて。
日本軍慰安婦制度についても、国連の対応を見るまでもなく、国際社会ではすでに「性奴隷」という認識が行き渡っています。
これに対し、「大事にされた」とか「金持ちになれた」とか「出世できた」などと、オスマントルコでの何百年も前の状況を擁護するのとあまりにも酷似した言い訳を持ちだして反論しても、まったく歯が立たないということです。
ではどうしたら慰安婦制度を弁護できるかというと、弁護できないという答えしか出てきません。認めるしかない、そのことをもって二度と繰り返さないという確約とする。それ以外に選ぶ余地がないのです。

なぜなら、慰安婦制度の非道性は日本のアジア侵略の罪深さとまさに表裏一体のものとして捉えられているから、なんとしても軍国時代の過去を賛美しようと必死でいる連中がどう小細工を弄そうとも、第二次大戦に対する世界的評価を変えるのとおなじほど至難(というか不可能)なことだからです。
しかし、こんな当たり前のことを言うために、21世紀のネオファシストの主張を封じるために、オスマントルコの例まで持ち出さねばならないとは。いやはや、トルコにとってはいい面の皮でしょう。

それにしても、「将軍なみの高収入」とネット右翼がさかんに吹聴する慰安婦の待遇ですが、彼女らの中で実際に「巨万の富を得て、皇位に列せられた」女性って、一人でもいたでしょうか?
(ハーレムの女性の中にはいました)
え? 「売春婦ごときを皇紀2600年の家柄と結び付けるとは何事か、無礼者!」ですって?
ということは。
大日本帝国の人権意識って、オスマントルコ以下ということになるのですか? そうですね? ええ、わかります。

最後に。
まったく蛇足ながら。
トルコ皇帝の親衛隊イェニチェリについて。
イェニチェリの兵士は東欧のトルコ領土から徴用されました。つまり東欧人ばかりで成り立つ軍団がトルコ帝国の尖兵となって東欧を支配、さらに中欧へと攻め込んでいったわけですが。
だからといって、「東欧の人々はトルコに支配されたと文句を言えない、むしろトルコとは欧州侵略の共犯関係だ」などと無茶苦茶な論法を振りまわす人を見たことがありません。
西側世界にサンケイ新聞はないからです、はい。







にほんブログ村 歴史ブログ 近代・現代史(日本史)へ この記事を気に入ってくれた人、よろしくね