世界制作の方法 ネルソン・グッドマン
第一章 言葉、作品、世界
1 いくつかの問い
- 多くの世界があるというのは、正確にはどういう意味でなのか
- 本物の世界をいつわりの世界から区別するものは何なのか
- 世界は何からつくられているのか
- 世界はどのようにつくられるのか
- その制作にさいして記号はどのような役割をはたしているのか
- 世界制作は知識とどのように関連しているのか
2 ヴァージョンとヴィジョン
エルンスト・カッシーラーは世界の多数性を強調した。多数の実現世界について語っている。
- 太陽はつねに動いてる
- 太陽は決して動かない
この相容れない記述は、記述されたものではなく、記述の体系に属する。記述する方法に縛られている。
科学、芸術に結実したヴァージョンやヴィジョンははなはだ多種多彩である。
「世界」は正しさに依存する。「世界」とは正しいヴァージョンが記述するものである。だからどんなヴァージョンが正しいかを決定することは「世界」について学ぶことである。
それぞれが正しくて、しかも対照をなし、唯一のものへ還元されない多くのヴァージョンが存在する。それらの統一は、それらのヴァージョンを包む「全体の編成」のなかで求められるべきだ。
3 基礎はどれだけ堅固か
世界を作っている材料 ― 物質、エネルギー、波動、現象 ― は世界といっしょに作られる。
それは「他の世界」から作られる。制作とはリメイクなのだ。本書の関心は、ある世界を他の世界から構築する際の「プロセス」にある。
堅固な基礎を求めたいという希望は誤りだ。世界なるものは、ヴァージョンにすぎないさまざまな「世界たち」であり、実体は「関数」であり、与えられたものとは「把握されたもの」である。
4 さまざまな世界制作の方法
世界制作の方法の例として「合成と分解」「重みづけ」「順序づけ」「削除と補充」「変形」の5つを解説する。
(a) 合成と分解
- 時間的にバラバラな出来事の積み重ねで「一人の人物」像を作り出す(合成)
- エスキモーは雪を何種類にも分類している(分解)
(b) 重みづけ
雪の分類のように、ある世界では有意な分類(種)が、別の世界では存在していないことがある。存在していないと言うより、存在しているが強調されていない、重みがつけられていないということである。
(c) 順序づけ
ゴンブリッチは歴史的時間を10年、100年、1000年で周期化する方式を論じている。順序には隣接性とともに周期性が含まれる。
(d) 削除と補充
見つけようと構えているもの、期待に強く訴えるものを、我々は見出す。逆に自らの追究を助けも妨げもしないものには、盲目になりがちだ。科学者も身の周りの出来事を思い切って捨てたり純化したりする一方、少ないデータの示唆する隙間を線で埋めたりする。
(e) 変形
ピカソはベラスケスの「ラス・メニーナス(宮廷の侍女たち)」から出発し、同名の作品を作った。ブラームスは「ハイドンの主題による変奏曲」を作った。いずれも単なる変形の域を超えて独自の天啓に達している。
5 真理とのいざこざ
ヴァージョンは固まった信念や指針に対して、何も矛盾することがない場合、「真」であるとみなされる。それが「世界」と合致しているかどうかを検証する術はない。真理の探究に献身していると思っている科学者は自分を欺いている。真理は語られたものに属しているに過ぎない。
モンドリアンの絵は何一つ語らず、外延指示も描写もない。真でも偽でもない。しかし多くのことを示している。その絵が存在することは意味を持っている。何かを啓示している。それは「正しさ」である。
6 相対的実存
物理学者は、自らがいる世界が「実在する世界」とみなし、他のヴァージョンに加えられた変更(削除、付加、不規則性、強調)は、知覚の不完全さ・現実的な必要性・詩的放縦のせいだとする。
現象主義者は、知覚世界が基本的だとみなし、他のヴァージョンに加えられた変更(切除、抽象、単純化、歪曲)は、科学や現実の生活や芸術上の関心から生じるとする。
市井の人々は、馴染みの便利な世界と、科学・芸術・知覚に由来するヴァージョンとは、異なるものだと思っている。
世間一般の人のようにものを見る画家は、芸術上の成功はともかく、人気は得るだろう。
代替可能な世界を進んで認める態度は、探究の新しい大道を開くが、あらゆる世界を何でも歓迎する態度からは何一つ世界は作り出されない。寛容な心は辛い仕事の代わりにはならない。
7 知ることについての注
知ることは、真が何かを決定することではありえない。発見はフィットするものを見つける行為である。
知ることは信念の形成とも別である。以前は弁別できなかった絵や音楽や論文の特徴・構造が分かるようになること。洞察が鋭くなること。理解の幅が増大することである。
知ることは発見することだが、発見はパターンを発明し押し付けることでもある。理解と創造は手を携えている。
第二章 様式の地位
1 定説への異議
様式(Style)は、芸術家がいくつかの選択肢のなかから意識的に選択する、という見解に反対したい。