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2012年12月30日 (日)

北斎の原子炉大爆発図

    葛飾北斎(1760-1849)が描く原子炉大爆発の図である。天蓋は吹っ飛び建屋は粉みじんとなって、恐ろしく鋭利な放射線が四方八方に飛び散っている。周りで人々は驚倒するのみで、なす術もない。閃光の影には異形の魔物が見えて、これから地上で起こるであろうとんでもない厄災を予見させている。

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「新編水滸画伝」(文化ニ年)の物語の発端にあたる「伏魔殿壊(やぶれ)て百八の悪星世に出」の場面である。仁宗皇帝の嘉祐3年、竜虎山に派遣された太尉の洪進は、宮司らの制止も聞かず「伏魔殿」を開けさせたために、大爆発とともに百八つの悪霊が世界に飛び出した。

「百千の雷半夜に落つるごとき音して、雲か煙か陰々と一道の黒氣、穴の内より立ちのぼり、殿の棟桁衝破りて、半天にたな引つつ、砕て百余道の金光と変じ、四面八方に飛び去りぬ」という下りである。

北斎に原子力の知識が有ったわけがないが、彼が活躍した時代は近代と前近代の断層で怪しげな乱気流が渦巻いていた。西洋の文明は、長崎という細い電線を通じて、江戸時代の日本に何万ボルトもの高電圧をかけていた。北斎もオランダ人と交流し蘭書を読んでいたと言われる。平賀源内が摩擦発電機を組み立て、エレキテルを発生させたのは、北斎16歳の1776年の事である。北斎という天才の神秘的な直感力が、来るべき文明の持つ巨大なエネルギーとその破壊力を予見し、それをこの絵にこめたものと思える。百八の悪霊とはウランの核分裂によって生じた無数の放射性元素を暗喩している。

北斎の類似の放射線図は「椿説弓張月」の挿絵にも見られる。水滸伝でドジを踏んだ洪進は、おっちょこちょいで少し頭の弱い官僚だったが、滝沢馬琴のこの小説では、琉球の暗愚帝尚寧王がその役割を演ずる。彼は忠臣の諌めを聞かず、昔、妖魔を封じたという塚をあばかせる。掘り当てた石櫃を開かせると、大音響とともに石櫃は砕け散り、中から悪霊曚雲が現れた。日本国の暗愚な総理が、経済界の目先の利益のために危険な原発を再稼働し、ふたたび地上に悪霊を呼び出してくれない事を切に祈る(ガロア)。

参考図書

  辻惟雄 「奇想の図譜」ちくま学芸文庫 、筑摩書房 2005年

 

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