笠原一輝のユビキタス情報局
Windows/RT/Phoneを1つのOSに統合するMicrosoft戦略の意味
(2014/7/24 12:38)
Microsoftは、7月22日(現地時間)に会計年度2014年度第4四半期(暦年2014年4月〜6月)の決算を明らかにした。そのニュースは別記事に譲るとして、ここではその会見の中で同社のCEOであるサティア・ナデラ氏が明らかにした、Windows OSに関する新戦略について触れていきたい。
この会見の中でナデラ氏は「我々は次期Windowsにおいて3つあるOSを1つにしていく。その1つのOSはすべてのスクリーンサイズをサポートする」と述べ、開発中の次期Windowsにおいて、現在Windows、Windows RT、Windows Phoneと3つが併存しているWindows OSを1つのOSにまとめることを明らかにした。
この実現により、Microsoftは現在直接のライバルとなりつつあるGoogleがAndroidとChrome OSと2つのプラットフォームを抱えていることに比べて、より柔軟な戦略をとりやすくなる。
8.1、RT、Phoneという3つのWindowsが1つに統合される
Microsoftの四半期決算の発表というのは、通常はさほど面白いモノでは無い。というのも、何か新しいことがこの中で発表されることは希だし、決算の数字に興味があるような投資家でもない限りはさほど注目されていないのも事実だ。しかし、今回の四半期決算の発表は明らかにそうではなかった。Microsoftの今後の道筋を示すような内容が、さらっと発表されたのだ。
まずはその発表を見ていこう。同社のWebサイトに、決算発表の会見の文字起こしが公開されているので、その中からもっとも重要な部分を引用したい。
Microsoft Earnings Release FY14 Q4 Earnings Call Transcriptより抜粋
In the year ahead, we are investing in ways that will ensure our Device OS and first party hardware align to our core. We will streamline the next version of Windows from three Operating Systems into one, single converged Operating System for screens of all sizes. We will unify our stores, commerce and developer platforms to drive a more coherent user experiences and a broader developer opportunity. We look forward to sharing more about our next major wave of Windows enhancements in the coming months.(日本語訳)我々はデバイスOSと自社ハードウェアを我々のコアビジネスとすべく、これからも投資を行なっていく。次世代Windowsでは、現在3つあるOSを、すべてのディスプレイサイズをサポートする1つの統合OSに合理化していく。それだけでなく、アプリケーションストア、流通、開発環境なども1つにして、より首尾一貫したユーザー体験を実現しや開発者のチャンスを増やしていきたい。次世代Windowsの詳細に関しては今後数カ月の間に公開する予定だ。
現在Microsoftはクライアントデバイス向けに3つのOSを提供している。1つはWindows 8.1で、x86プロセッサが動作するPCやタブレット向けとして提供されている。2つ目がWindows RT 8.1で、こちらはARMプロセッサが動作するタブレット向けとして提供されている。そして3つ目がWindows Phone 8.1で、ARMプロセッサ(ただしQualcomm製SoCに限る)が動作するスマートフォン向けとして提供される。
これをデバイスのディスプレイサイズで切ると、概ねWindows Phone 8.1は4〜6型を、Windows RT 8.1は7〜11型を、Windows 8.1は7型以上となっており、ディスプレイのサイズで利用できるOSが切り分けられる形になっている。
これを、次世代Windows、Microsoftの開発コードネームで「Threshold」(スレッジショルド、日本語では敷居を意味する英単語)で知られる製品では1つのWindows OSへと統合し、4型〜果ては80型や100型のTVサイズのディスプレイまで、すべてのディスプレイサイズで利用できるOSへと進化させる、ナデラ氏が言っているのはこういうことなのだ。
アプリが共通で使えないという問題を解決するUniversal Windows Apps
Microsoftのクライアント用OSがこうした3つのOSに分離してしまっているのには、それぞれ歴史的な経緯がある。最も有名なのはWindows Phoneだが、Windows Phoneは元々Windwos Mobileという組み込み向けWindowsをベースになっており、これまでは完全に別系統のOSとして開発が続けられてきた。
これに対してWindows RTはWindows 8の世代で、Windows On ARM(WOA)としてARMプロセッサが動作するWindowsとして開発されてきた新しいOS。x86プロセッサ用のWindows 8/8.1が従来版のWindowsアプリケーションも動くのに対して、Windows RTはWindowsストアアプリと呼ばれるWindows 8世代で新しく導入されたスマートアプリだけが動くというのが大きな違いとなる。このため、主にタブレット用のOSと位置づけられており、実際に登場した製品もほとんどがタブレットになっていた。
ユーザーにとって大きな問題だったのは、Windows 8/RT世代でWindowsストアアプリというスマートアプリが導入されたのだが、そのWindowsストアアプリはWindows Phoneでは動かなかったという事態だ。例えば、Windows Phoneのスマートフォンと、Windows RTないしはWindows 8.1のタブレットを持っているユーザーがいたとすると、せっかくWinodws 8.1でお気に入りのアプリを見つけても、Windows Phoneにはそれが使えない(ないしはその逆)という事態が発生していた。Androidで言えば、スマートフォンとタブレットで同じアプリが使えないようなことと言えばわかりやすいだろう(厳密に言えばそれはあるのだが本論とは関係ないのでおいておく……)。
Microsoftはこの問題の解決に向けて徐々に布石を打ってきた。以前の記事で紹介したUniversal Windows Appsはその第一歩で、現在は別々のOSであるWindows 8.1/RTとWindows Phoneだが、開発者が対応することでストアとストアアプリが共通化して提供することが可能になり、ほぼ同じアプリが両方のOSに提供できるようになる。
|
|
Windows Phone 8.1 | Windows RT 8.1 | Windows 8.1 |
|---|---|---|---|
| Windows Phoneアプリ | ○ | - | - |
| Windowsストアアプリ | - | ○ | ○ |
| Universal Windows Apps | ○ | ○ | ○ |
| Windowsデスクトップアプリ | - | - | ○ |
Universal Windows Appsの登場により、今後Windows Phone 8.1とWindows 8.1/RTの親和性はどんどん高まっていくと考えられており、来年登場が計画されているThresholdではついに1つのプラットフォームに統合されることになる。
デスクトップSKUは7型以上、モバイルSKUはすべてのサイズをサポート
今回ナデラ氏は3つのOSが1つになるという情報と、その詳細に関しては今後数カ月の間に発表するとだけ明らかにしただけで、詳細に関しては何も語らなかった。ただ、OEMメーカーにはすでにある程度の情報が公開されており、実際にはモバイル向けSKU(以下モバイルSKU)とデスクトップ向けSKU(以下デスクトップSKU)が存在しているというのは以前の記事でも紹介したとおりだ。
|
|
ISA | Win32 | WinRT | 電話機能 | ディスプレイサイズ |
|---|---|---|---|---|---|
| デスクトップSKU | x86 | ○ | ○ | - | 7型以上 |
| モバイルSKU | x86/ARM | - | ○ | ○ | 制限なし |
デスクトップSKUはx86プロセッサのみに対応して、Win32(Windowsデスクトップアプリが利用しているAPI)とWinRT(Windowsストアアプリが利用しているAPI)をサポートする。これに対してモバイルSKUは、x86とARMに対応するが、APIはWinRTのみをサポートし、かつ電話機能を実装できる。
前回紹介した時との大きな違いは、対象となるディスプレイの違いがわかったことだ。OEMメーカー筋の情報によれば、デスクトップSKUには7型以上という制限がついているが、モバイルSKUにはそういう制限がないという。つまり、デスクトップSKUの方は、IntelのBay TrailやAMDのMullinsなどで実現される7〜8型のWindowsタブレット、HaswellやKaveriなどにより実現される2-in-1デバイスや薄型ノートブックPC、デスクトップPCなどをターゲットにした製品となる。つまり現在Windowsが採用しているようなデバイスをカバーするのがデスクトップSKUとなる。
これに対してモバイルSKUの方にはこうした制限はかかっておらず、すべてのサイズのディスプレイが対象になるという。つまり、4型〜6型のスマートフォン、7〜10型のタブレット、11型以上のクラムシェル型ノートPC、さらにはTVに接続して利用する機器もターゲットになるだろう。これまでのPCライクな機器だけでなく、それ以外の機器にも入っていく、その役目をモバイルSKUが果たすことになる。
柔軟性のあるThresholdは多くのユーザーに受け入れられる可能性を秘めている
こうしたことから見えてくるMicrosoftのユーザーシナリオは、おそらくこうだ。スマートフォンやタブレットでクラウドサービスを使いたいユーザーはモバイルSKUのThresholdを搭載したスマートフォンやタブレットを購入する。アプリケーションはWindowsストアアプリだ。重要なことは、ユーザーが購入したWindowsストアアプリは、ユーザーた自宅に持っているデスクトップSKUのThresholdを搭載したデスクトップPCでも動かせることだ。
スマートフォンとPCを同時に持ち歩くようなアクティブなユーザーは、モバイルSKUのThresholdを搭載したスマートフォンと、デスクトップSKUのThresholdを搭載した2-in-1デバイスを購入すれば良い。そうすれば、スマートフォンで使っているWindowsストアアプリが、そのまま2-in-1デバイスで利用可能となる。タブレットモードにすればコンテンツが楽しめ、必要に応じてクラムシェルモードでWindowsデスクトップアプリを使い、生産性が必要なビジネスで利用できる。
Windowsストアアプリが必要のないPCユーザーはデスクトップ版Thresholdを搭載したクラムシェル型ノートPCを購入すれば良い。Modern UIは使わずWindowsデスクトップで復活するスタートメニューと一緒に、Windowsデスクトップアプリを使えば、従来のWindows 7と何も変わらない感覚で利用できる。
このように、Thresholdでは1つのOSでスマートフォンやタブレットを欲しがるマスのユーザーだけでなく、生産性を重視するビジネスや、既存のエンタープライズも含めてすべてをカバーできるOSになる。
これに対してGoogleは、Androidでスマートフォンとタブレットを、Chrome OSでクラムシェル型PCをカバーすると、プラットフォームが分断する。かつ、GoogleがChrome OSではクラウド型のビジネスワークスタイルしか提供できないのに対して、MicrosoftはデスクトップSKUのThresholdでクラウド型も、ローカル型も、そしてモバイルSKUではクラウドのみのビジネスワークスタイルを提供できるようになる。未だに先進国の市場では、Officeのローカルアプリが一般的であり、この点がMicrosoftの大きなアドバンテージになることは明らかだ。
このように考えていくと、Windows 8から始まったWindowsの大きな変革は、Thresholdで1つの完成形を見ることになると筆者は考えている。だとするなら、Microsoftのバージョン3の法則(Microsoftの製品は3つ目のバージョンで完成度が高まって市場に受け入れられるという、一種の都市伝説。そこまで完成したモノが作れないという揶揄した意味合いもある)がいまだに有効であるならば、Thresholdはまさにそれになる可能性が高いのではないだろうか。
URL
2014年7月24日
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