――主力製品の液晶パネル用偏光板で世界トップシェアを維持しています。
偏光板は数年前までは液晶テレビ用が中心だった。今でもその液晶テレビ用しか手掛けていなかったら、偏光板事業の成長は止まっていたと思う。用途転換していくことが、シェアを保っていく秘訣だ。
偏光板の歴史は古い。もともとは時計やゲームに使われていた。それが液晶テレビの普及で大型化した。しかし液晶テレビはコモディティ化していった。今ではテレビに代わり、スマートフォンやタブレットが用途の中心になっている。
液晶パネルの進化に合わせて、偏光板も進化させていったこともある。たとえば位相を変えるフィルムを加えたり、広視野角にしたりと、液晶パネルではカバーできないところを、偏光板で手伝うようにしていった。顧客にとっても、出来合いの液晶パネルを買ってくるより、開発段階からわれわれ偏光板メーカーと組んだほうがいいというように徐々になってきた。
このように用途転換で製品を進化させていくことが、シェアを保つ秘訣だ。今や液晶パネルだけでなく、タッチパネルに使われる透明導電性フィルムも収益柱になっている。
まずは性能を考える
――デジタル製品にコモディティ化はつきものです。部材のコモディティ化はどうやれば避けられますか。
われわれが製品を展開するうえで、まず考えるのは性能だ。その次が生産キャパシティ。最後が値段だ。ところが製品がコモディティ化すると、その順序が逆になる。まず値段を見られ、次に生産キャパシティ、最後に性能となる。
そうなる前に、どうやって勝ち方を変えるかが重要だ。そのためにわれわれはどこへでも行く。創業95周年だが、今や売り上げの約7割が海外。従業員も日本人は約3割に過ぎない。売り上げ規模が200億円ほどしかないときに、台湾で工場もつくった。その何でもやろう、どこでも行こうという精神が今でも根付いている。
今では70くらいの業界と取引をしている。住宅や自動車、ライフサイエンスなど分野は広いが、すべて祖業のテープの延長線上のビジネスだ。幼児用の紙おむつのテープから墓石用のテープまで、文字通り「揺りかごから墓場まで」の製品をそろえている。
――グローバルニッチトップ戦略を掲げています。改めてどういう意味合いですか。
グローバルニッチトップ戦略の「ニッチ」の意味は、一つは変化して成長している市場に行くということ。それから差別化技術があるか、優位性を発揮できるかということ。これらの条件に当てはまる製品を、われわれはニッチ製品と呼んでいる。一般的な「すき間」という意味合いとは異なる。
日東電工が手掛けるからには、うちらしい差別化要素、優位性がないとダメだ。その優位性はお客さんと接触して決める。たとえば経皮吸収型テープ剤という製品がある。これは粘着剤の中に薬を入れられないかという顧客の要望から生まれた。
つまり差別化というのは技術の問題だけではない。お客さんが困っているときに、どうすれば喜んでもらえるか、その姿勢のようなものだ。その姿勢を積み重ねることが、差別化につながっていく。
だからこそ、われわれはシェアトップを狙っている。シェアトップになれば、最初に顧客に相談される存在になれる。そうすれば新製品開発に向けた情報なども多く入ってくる。
第二ステージは「エリアニッチトップ」
――現在ではグローバルニッチトップ戦略に続き、エリアニッチトップの旗も掲げています。
エリアニッチトップ戦略は、グローバルニッチトップを第1ステージとすると、第2ステージの戦略だ。第1ステージでは顧客は日本人中心だった。日本でシェアトップになって、海外に出ていけばシェアトップになれた。しかしこれからは、それでは勝てない。まず需要がある世界の各エリアで、シェア1位を狙う。そこからグローバルシェアを高めていく。勝ち方は変わってきている。
――1万3500に上る製品群の多さも特徴です。
われわれは経営の「多軸化」を進めている。将来の収益柱の種を探すため、事業部門では将来性が薄いと判断されても、経営陣の判断で投資できる「多軸ファンド」も設定した。その狙いは、集中と選択をあえてしないいうことだ。新しいことはどんどんやろうと。そうしないと、ニッチトップ製品など生まれてこない。製品化につながるのは3割で十分だといっている。大事なのは片足を出すこと。そのとき上司は片目をつぶれと。それが日東電工の文化なんです。
(撮影:ヒラオカスタジオ)