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サザンクロスシティ はてな村の考察

YahooはAdTruth社と戦略協定を結んでユーザー行動履歴の追跡技術を開発中

意外と知らない人が多いようなので、記事を書いてみます。

今まで行動ターゲティング広告配信技術において、ユーザーの行動履歴の捕捉にはサードパーティーCookieが使われてきました。クレジットカードや何かの商品の広告をクリックしたら、違うサイトに行ってもその広告が表示された経験は誰もがあるでしょう。

あの広告はブラウザ側にサードパーティーCookieを埋め込んでいて、それによってユーザーの同一性を特定して、興味関心にあった広告を配信しています。ちなみにそのユーザーに何回その商品の広告が表示されたか(インプレッション数)などもアドネットワーク側では計測しています。

いわゆるDSP(Demand Side Platform)広告では、このように特定されたユーザーに対して、各メディアのSSP(Supply Side Platform)にいくらで入札するかという、RTB(Real Time Bidding)を行って配信する広告を行っています。大手DSPはGDN(Googleのアドネットワーク)への繋ぎ込みも行っていますし、YahooのアドネットワークもDSPとの連携にシフトしてきています。

これらは前提知識がないと理解しにくいかも。あなたがどこかのサイトを訪問して広告が表示されるまでの0.5秒の間に、以下の図のような複数のアクタの広告入札処理が行われているのです。

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DSP/RTBの基本的な仕組み

ここで肝となっているのは、行動ターゲティング広告において、ユーザーの同一性を担保するためにCookie IDが用いられていることです。サードパーティークッキーをユーザーに食わせることによって、複数の媒体間でも同一ユーザーに同一(またはそれに近い属性の)の広告配信を実現しているのです。

ただ、このDSP広告の仕組みにも転機が訪れようとしています。それはブラウザ側のサードパーティーCookieの禁止の流れです。プライバシー保護を目的として、Safariではサードパーティークッキー埋め込みの禁止が行われました(iOSデバイスにも影響)。Firefoxでも禁止される流れです。IEでも近々禁止されるのではないかと言われています。こうなるとアド業界ではユーザーを識別して行動ターゲティング広告を出せなくなるので、大打撃を受けます。

そのため、サードパーティークッキーに代わりうるユーザー特定手段の開発が進んでいます。Device Fingerprintもその一つです。

簡単に言えば、Web サイトにアクセスしてきたユーザーから簡単に取得できる情報、例えば、OS やブラウザは何使ってるかとか、ヘッダ情報、使っているプラグイン、タイムゾーン...... などなどを使って、ユーザーを個々に識別してみようっていう仕組み。

2010年に米国のプライバシー擁護団体、EFF (Electronic Frontier Foundation) が立ち上げて、 ボランティアを対象にこの仕組みをテストし、結果、全ユーザーのうち、84% までが識別可能 だったっていう結果が発表されています。

それを伝える、INTERNET Watch の記事を引用すると下記のような感じ。

調査は、EFFの開設したWebサイトを訪れたボランティアを対象に行われた。 匿名の状態で、閲覧者のOS、ブラウザー、ブラウザープラグインの設定、バージョンなどの情報を記録していった。

その結果、全ユーザーのうち84%が、ユニークで識別可能だった。また、Adobe FlashまたはJavaプラグインがインストールされている場合、 94%がユニークで識別可能だった。2回以上同じ設定が現れた割合はわずかに1%だったという。 EFFではこれらの情報を"フィンガープリント(指紋)"と呼んでいる。 (サードパーティ Cookie 無効でもトラッキングする行動ターゲティング広告?

FingerPrintingなどと類似の技術を使ったユーザートラッキング手法は、AdTruth社でも開発が進んでいます。このAdTruth社の巨大なスポンサーになっているのがYahoo!Japanです。

AdTruth社

AdTruth社 パートナー企業

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ユーザーにも広告主にも有益で、かつ高い効果が求められるネット広告において、行動ターゲティングなどにより効果を高めるためにはCookie情報を補完できるデバイス推定技術は不可欠です。Yahoo! JAPANはこの革新的な技術の発展のために、強力にAdTruthをサポートします。

ヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニー エグゼクティブユニットマネージャー 高田 徹 様

NEWS: Yahoo!JAPANが米AdTruth社と戦略提携、複数デバイス間のユーザー識別により精度の高い広告配信を実現

近年、スマートフォンユーザーの拡大にともない、Cookie非対応の端末からのユーザー行動の分析やターゲティング技術の制限が、広告主のROIや媒体社のeCPM最適化を妨げる課題とされてきた。モバイルユーザーのユニークを特定する技術として、モバイル端末の個体識別情報(uid)の活用が一般的であったが、個人情報保護の観点で課題が残っていた。

今回Yahoo!JAPANが導入を決定したAdTruthのテクノロジーは、クライアントのシステム環境にインストールするオンプレミス形式で、デバイスを識別する際には、PII(個人を特定できるような情報)を収集せず、デバイスに痕跡を残さないなど、ユーザーのプライバシーを配慮し、データが外部へ漏洩するリスクが少ないのが特徴。

つまり、どういうこと?

あなたのプライバシーを守るために、ブラウザ側ではサードパーティークッキーを禁止しようとする動きが起きています。しかし、Yahooなどいくつかの企業が中心となって、ユーザーを特定する代替技術の開発が進んでいます。その開発によって、あなたの行動履歴が再び捕捉されるようになります。私達はそのような動きに対してNo!を突きつけるべきです。