インドネシアの人々は次の大統領にジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏を選んだ。軍出身や政治家一族ではない庶民派大統領である。

 スハルト独裁政権が倒れてから16年になる。ジョコ氏が民主化をさらに進め、成長が続く南の大国の隅々にまで、その成果を届けることを期待する。

 現職のユドヨノ大統領は10年の任期中に、テロの根を断って治安回復に努め、アチェの独立紛争を平和的に収めた。汚職の摘発にも力を入れた。ただ経済は安定を取り戻したものの、貧富の格差は大きくなった。

 その国を引き継ぐジョコ氏は貧しい家庭に生まれ、中部ジャワの市長からジャカルタ特別州知事になった。

 教育や医療分野で弱者に優しい政策をとり、行政に競争や透明性をもたらそうと努めた。腰軽く現場に出かけて住民と話す姿勢が人気を集め、大統領候補に駆け上がった。

 スハルト政権は、この国に長く腐敗、癒着、縁故主義をはびこらせ、その体質はいまも社会のいたるところに巣くう。

 大統領選で猛追したプラボウォ氏は、国軍の幹部としてスハルト元大統領を支えた人物である。国民の中には強い指導者を好む気持ちも残る。

 だが選挙結果が示すのは、権威主義とは無縁の非エリートの新大統領に、既得権益を崩す改革が託されたということだ。

 ただ、ジョコ氏には不安材料も多い。国政の経験はなく、大統領選で支持した政党が国会に占める議席は4割以下だ。

 選挙で大きな差をつけられなかったことは、ジョコ氏の政治的立場を弱いものにするかもしれない。外交手腕もまったく未知数だ。

 インドネシアは、世界4位の2億5千万人の人口をもつ。その半数は30歳以下で、2030年ごろまで生産年齢人口が増え続けるとみられている。

 日本にとっては援助と投資の重要な対象であり、成長する市場でもある。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は来年の共同体設立を目指している。タイの政治混乱が続くなかで、盟主を自任するインドネシアの指導力がより問われる。

 インドネシアはASEANの一体性とアジア地域のバランスをもっとも重視する。日本と中国との対立に巻き込まれるようなことは好まない。

 日本はそうした立場を理解したうえで、ジョコ新政権が民主化と改革への新たな階段を上っていくのを助けるべきだ。