朝日新聞デジタル トップへ

ビットコインとお金 山形浩生さんが選ぶ本

[掲載]2014年07月20日

ビットコイン取引所の運用を停止した運営会社の前で座り込みをする投資家=2月、東京・渋谷 拡大画像を見る
ビットコイン取引所の運用を停止した運営会社の前で座り込みをする投資家=2月、東京・渋谷

表紙画像 著者:斉藤賢爾  出版社:太郎次郎社エディタス 価格:¥ 1,080

■希少性が引き起こす問題
 昨年あたりから、ビットコインなるものが話題にのぼる。何やらインターネット上の電子マネーの一種らしい。ここ数年で急激に価値があがったとか。でも取引所がサイバー攻撃で破綻(はたん)したともきく。あとマイニングという不思議なシステムで自分でお金を作れたりもするらしい。そしてネット上のお遊びに留(とど)まらず、本当の取引でも使えるし、キプロスや中国の人が自国銀行預金の避難場所に使ったりもしているという。

■ヤバい代物か?
 なぜそんなものが急に出てきたのか? そもそもこれは本当のお金と言っていいの? ヤバい代物なの? これを考えると、そもそもお金って何なのか、という問題も出てくる。が、あまり哲学論に深入りすると、かえって本質が見えにくくなる。
 お金はまずやはり、自分で使ってなんぼのものだ。そのマニュアルとしては斉藤賢爾『これでわかったビットコイン』が簡潔で明快だ。ビットコインの暗号技術はいささか専門的だ。本書は複雑な暗号理論の説明に溺れず、何よりも初心者が知りたいことをきれいにまとめ、技術の詳細は巻末の補遺で詳述。参照資料やURLも詳細だし、お金のそもそも論も手短ながら、かなり深い。
 野口悠紀雄『仮想通貨革命』は、ビットコイン自体の解説やマクロ経済関連の記述には見るべきものはないが、3章以降の類似サービス紹介や、ビットコインなどが可能にする少額送金やその発展形と現実経済への展開の可能性は類書よりはるかに詳細。参照先のウェブサイトの要約にとどまる部分も多いが、プラットフォームとしてのビットコインという発想に触れたのはこの本くらいだ。
 だがビットコインは孤立した突発現象ではない。ネット世界で取引され、現実世界のお金とも連結された仮想通貨は実はすでに大量にある。それをまとめたのがカストロノヴァ『「仮想通貨」の衝撃』だ。巨大ゲームのイブ・オンラインやフェイスブックなどで流通するお金を解説し、その中でビットコインについても、その欠点まで簡潔に指摘。バーチャル世界から見たお金の将来性や政策的な含意まで考察しているのは驚きだ。

■金本位制に近い
 ビットコインの筋の悪さというのは、お金の構造としてはむしろかつての金本位制に近く、インフレを恐れるあまり、将来的にデフレに向かう仕組みになっていること。デフレが実体経済に与える害は過去20年の日本経済停滞を見れば明らかだ。その説明も含めたお金のそもそも論も本書は優秀。お金の哲学論は、どれもなぜかインフレばかり心配するが、本書はデフレもまたお金の破綻なのだと正しく指摘する。これはお金の真の機能を解明したケインズの知見にも通じる。
 でもお金の道徳性は? お金は格差を生み、人間性を破壊するのでは? 実は最初に紹介した『これでわかったビットコイン』のそもそも論末尾が、まさにその問題を論じている。そうした問題は、お金の希少性が引き起こすのだ、という指摘は興味深いし、最後の提言はなかなか示唆的だ。むろんそれを読んでも——そしてビットコインやお金自体について学んでも——お金儲(もう)けには役に立たない。でも、お金で動く経済の中に生きる人々みんなが、どこかでこの問題は考えてほしい。それは、お金を超えた豊かさを考えるということでもあるのだ。

    ◇
やまがた・ひろお 評論家 64年生まれ。訳書にケインズ『お金の改革論』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』(仮題、12月刊)など。

この記事に関する関連書籍

これでわかったビットコイン 生きのこる通貨の条件

著者:斉藤賢爾/ 出版社:太郎次郎社エディタス/ 価格:¥1,080/ 発売時期: 2014年04月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (1


仮想通貨革命 ビットコインは始まりにすぎない

著者:野口悠紀雄/ 出版社:ダイヤモンド社/ 価格:¥1,620/ 発売時期: 2014年06月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (1


「仮想通貨」の衝撃

著者:エドワード・カストロノヴァ、伊能早苗、山本章子/ 出版社:KADOKAWA/ 価格:¥1,512/ 発売時期: 2014年06月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (1


お金の改革論

著者:ジョン・メイナード・ケインズ、山形浩生/ 出版社:講談社/ 価格:¥864/ 発売時期: 2014年07月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (0


ニュースの本棚バックナンバー

この記事に関する関連記事

ここに掲載されている記事や書評などの情報は、原則的に初出時のものです。

ページトップへ戻る

ブック・アサヒ・コム サイトマップ