オンラインのニュースメディア事業が盛り上がっている。ベンチャーキャピタルやネット事業で大儲けした資産家までもが、有望市場と見込んでかニュース事業への投資に入れ込んでいる。ソーシャルネットワークやモバイル端末の浸透が追い風になって、オンラインのニュース事業がバブルっぽくなってきた。米国市場だけではなくて日本市場においてもだ。
ここでは、先行している米国のニュースメディアの動きを、特に旋風となっているバイラルメディアの影響を見ながら追ってみた。ニュース記事との接触で、若者を中心にプリントメディアからオンラインメディアへのシフトが加速化している。さらに、オンラインにおいても、ポータルからサーチ、さらにはソーシャルへと主流チャンネルが一気に変わってきている。ニュースサイト(ブランド)に直接アクセスして所望のニュース記事を見つけるよりも、サーチエンジンで探したり、さらにはフェイスブックやツイッターなどのソーシャルネットワークで出会ったニュース記事を閲読することが増えている。Reuters Institute のレポートの図で示されているように、若年層(図の18歳〜24歳)がニュースサイトのホームページにアクセスしなくなってきている。一方で日常的に滞在するフェイスブック上で話題になっているニュース記事と接する機会が増えてきている。
こうした若年層のニュース接触環境の変化を先取りしたのが、バイラルメディアのBuzzFeedである。フェイスブックで話題になりやすい記事作りに注力し、現在では流入トラフィックの75%をフェイスブックから得るまでになった。このフェイスブックの参照トラフィックを爆発的に増やすことにより、ページビューやユニークユーザー数で世界トップクラスのニュースサイトに躍り出たのである。
BuzzFeedに続けと、この1〜2年、バイラルメディア・ラッシュが続いている。図2は、各パブリッシャー(ニュースサイト)の記事がどれくらいフェイスブック上で話題になっているかを比較した時のランキングである。記事のバイラル性の指標として、メディア分析会社NewsWhipが測定しているInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)を用い、各ニュースサイトについて1か月間に投稿した全記事のInteraction総数(表のTotal Facebook)をはじき出している。2014年6月の1か月間でInteraction総数の多かったトップ16のパブリッシャーを、図2に抜き出した。
目立つのはやりバイラルメディアで、buzzfeed.com、ijreview.com、elitedaily.com、upworthy.com、playbuzz.comが上位を占めるようになってきた。一方、フェイスブック対策が遅れていた伝統メディア(新聞サイトやTVサイト)も、バイラルメディアの手法をいくつか参考にして、Interaction数の増加に努めている。この結果、一つ前の記事でも紹介したように、月間Interaction数が100万件を超えたパブリッシャーサイト数が、2013年8月の25サイトから今年5月に80サイトへと一気に跳ね上がった。つまり、ニュースサイトに代表されるパブリッシャーサイトの記事が、この1年少しの間に急速にフェイスブックで拡散され始めているということである。それに合わせてフェイスブックを介してニュースサイトにアクセスする人がドッと増え、今のニュースブームに至っている。スマホのようなモバイル端末を使って、気軽にいつでもニュース記事を閲覧できるようになったことも後押ししている。
これまで新聞や雑誌のプリント中心のニュースとあまり縁のなかった若年層も、ソーシャルネットワークを介してニュース記事と接する機会が増えてきたことは、確かなようだ。そこで気になるのは、どのようなニュースが新たに多く読まれるようになってきているかである。そのためには、どのようなタイプの記事がより多くのInteraction数を獲得してきているかを見ていけば推測できるだろう。
そこで、フェイスブックの月間Interaction数でトップを競っているBuzzFeedとHuffingtonPostの両サイトにおいて、それぞれこの半年間(2014年1月〜6月)に投稿した記事の中で最もInteraction数の多かった記事をまず見ていこう(図3の記事がそれ)。
最初のBuzzfeedの記事「What State Do You Actually Belong In?」(あなたが住むべき州はどこ?)は、なんとInteraction数が387万回で、ページビューが4101万ビューと驚異的な値を残した。1本の記事だけで、ちょっとしたニュースサイトの月間ページビューに匹敵するほどだ。2番目に多くバズった記事は「What Career Should You Actually Have?」(あなたが選ぶべき職業は何?)でInteraction数が298万回で、ページビューが1779万回となっていた。3番目の「Which Classic Rock Band Are You」(あなたはどのクラシック・ロック・バンド派?)はInteraction数が278万回で、ページビューが471万回であった。このBuzzFeedの3本の記事はいずれもクイズで、特にニュース性があるわけではないが、時間つぶしにぴったりの気軽な記事となっている。BuzzFeedでの実績から、クイズはページビューを確実に稼げる定番のバイラル記事となっている。
図4
上の3本のクイズ記事のInteraction数は、合計で963万件。これはNYタイムズ・サイト(nytimes.com)の総Interaction数918万件を上回っている。ちなみにNYタイムズは毎月約9000本の記事を発信している。BuzzFeedのクイズ記事の桁違いのバイラル人気に驚く。
バイラル記事の定番であるペット関連のバイラルビデオである。バイラル記事はネット上の素材をキューレーションしている場合が多く、この動画もHuffPostのオリジナルではない。オリジナルの動画は昨年6月に、撮影者のRodd Scheinerman氏によって YouTubeに投稿されていた。
こうなると伝統メディアもバイラル記事に挑戦したくなる。NYタイムズ・サイトでこの上半期で最もフェイスブック上で話題になった記事は、「52 Places to Go in 2014」(今年、旅で行きたい52のスポット)であった。
Business InsiderがNews Whipの測定データを基に、今年上半期のバイラル記事トップ30(Interaction数の多い記事)をまとめてくれているが、リスト記事やクイズ記事が大半を占めている。リスト記事は日本でもよく見かけるまとめ記事。フェイスブックで話題になりそうなテーマを選び、ネット上からキューレートしたコンテンツを素材にしてまとめた記事である。笑い、愉快、畏敬などの感情に訴えた話が多く、テーマも可愛いペットや素晴らしい絶景などのように思わず「いいよ!」とクリックしたくなる内容が中心である。
縦軸にInteraction数、横軸にInteraction数の多い記事順に並べたロングテールグラフを描くと、ヘッド部分の記事は殆どがバイラルメディアのリスト記事やクイズ記事となっている。こうしたバイラル記事が桁違いのトラフィックをニュースサイトに呼び込んでいることが、今のニュースブームを引き起こしているとなると、本当の”ニュース”ブームなのかとの疑問もわいてくる。政治記事や経済記事のような本流のニュース記事は、ソーシャルサイトでは話題になりにくい。例えばWSJ.comでもサイト全体で月間Interaction数が100万回に届かず、記事1本当たりの平均Interaction数は100件程度と小さい。
どうも今のニュースブームにおいては、ソーシャルサイトで受ける記事(米国ではフェイスブックのInteraction数の多い記事)を、皆で読むべきとみなす流れがある。若い人たちがSNSを介してニュース記事を読むようになったと言っても、命がけで取材した紛争記事(例えばガザからの記事)などがフェイスブックでバズったという話は殆ど聞かない。
ただ、ニュースブームも新しい第2波が押し寄せている。これまでの第1波では、バイラルメディアが中心になって、ニュースもどき記事も含めて面白くわかりやすく提供することにより、若年層を中心に多くの人がニュース記事に接触するように仕向けた。さらに次の第2波では、バイラルメディアなどの新興ニュースメディアも、ニュース記事本流の政治や経済分野も取り込んで、新しいテクノロジーを駆使してもっと面白くわかりやすく提供していこうとしている。コンテンツキューレーション技術、ビッグデータなどのデータジャーナリズム手法、インフォグラフィックなどのビジュアル表現技術・・・、これらをサポートするツールやサービスが次々と出てきている。また簡単な決算発表記事のような定型ニュースならロボット記者に任せられそうだ。
新聞などの伝統メディアも、比較的手軽にページビューを稼げるクイズやリスト記事などのバイラル記事に頼るのも限界がある。やはり本流の小難しい政治記事や経済記事などをもっと楽しく、わかりやすく読ませる工夫が必要で、このためデータジャーナリズムやビジュアル表現などにも注力し始めている。同時に面白くわかりやすく読ませる術に長けている既存バイラルメディアを見習おうとする動きが顕著になってきたのも興味深い。それを象徴するニュースが先週末に飛び込んできた。英国の高級新聞「インディペンデント」(The Independent)がBuzzFeed風のサイト「i100」を立ち上げたのだ。信頼のおけるバイラル記事を提供していくという。このi100については、次の記事で紹介したい。