佐賀県武雄市。人口5万人の小都市がここ数年注目を浴びている。毎日のように企業や自治体関係者が「武雄詣で」をする。
理由は、図書館。公立図書館を大改装し、運営を全面民間委託した結果、半年で100万人を集客する「ヒットコンテンツ」になった。地方自治体の「経営」に辣腕を振るうのは、同市出身で総務省の官僚から武雄市長に転じた樋渡啓祐(ひわたし・けいすけ)氏。
人口減少が進む地方活性化の成功事例として賞賛を浴びる一方、公立図書館の民間委託の手法などに批判もある。同図書館が完成するまでを綴った『沸騰!図書館』を書いた樋渡市長に聞いた。(片瀬 京子)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営し、スターバックスのカフェが併設された武雄市図書館は、2013年4月オープン以来、全国的な話題を呼んでいますね。そもそも、どうして図書館を民間企業に委託しようと思ったんですか?
佐賀県武雄市長。1969年佐賀県武雄市生まれ。総務庁(当時)、内閣官房などを経て2006年、武雄市長選に立候補し、当選。
樋渡:あらゆる公共施設の中でも、住民からすると、図書館って、いちばん敷居が低いじゃないですか。市役所や病院って用事のあるときにしか行きませんよね。誰もが気軽に寄る場所じゃない。その点、図書館は、子どもも浪人生も学生もサラリーマンも主婦もお年寄りも、あらゆる人に門戸が開かれた、皆が気軽に使える公共の場です。
だったら、図書館をもっと元気のある場所にできないか。武雄市の図書館もそうだったんですが、図書館そのものは、多くの人にとって決して居心地のいい場じゃなかった。だいたい午後6時には閉まっちゃうし、休館日も多い。なんだかカビくさいし、照明も暗い。一方で、住民の要求に一方的に従って、ベストセラーばかりが何冊も置いてあって、民間書店のビジネスを圧迫したりしている。
現実を動かせば、人も街も変わる
樋渡:どうすれば、図書館を利用者目線でプロデュースし直せるだろう。そう思ったとき、2011年12月の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)で代官山蔦屋書店の特集を見た。で、番組に登場したCCCの人たちの魅力にやられちゃった。ああ、この人たちと一緒に仕事をしたいな、と。で、代官山蔦屋に足を運んだら、なんと偶然、増田宗昭社長とばったり出会った。これはチャンスだ、とばかりに「増田さん、武雄市で図書館、やりませんか?」と声をかけたんです。さすがにトップの決断は早い。瞬時に担当が決まり、同社とタッグを組むことになりました。
図書館改革で最初にぶつかった「壁」はなんですか?
樋渡:図書館を今までの形で続けたい方々の「図書館道(としょかんどう)」です。図書館を作り直す過程でも、オープンしてからも、たくさんの批判を受けましたが、その内容をひとことでいうと「民間委託する武雄市図書館は、本当の図書館じゃない」というものでした。
僕に言わせると、批判される方たちは皆、こうした「図書館道」を口にする。日本人の悪いクセです。茶道や華道のように、なんでも道(どう)にしたがる。伝統芸能はさておき、公共施設に「道」はいらない。にもかかわらず、図書館はこうあるべし、という「道」をつくって、図書館を狭い箱に閉じ込めて、大半の人にとっては居心地の悪い場所にしてしまう。そこで僕は図書館道から離れて、徹底的に利用者目線で作り直そうとしました。
計画から約2年4カ月でオープンにこぎつけました。一番苦しかった時期はいつですか。