株式会社ネットコンシェルジェ

JUL
22

2014

アパレルのスタートアップ「Outlier」が短期間でブランド化できた理由

「クラシック」や「定番」とされるファッションの中には、お洒落とはあまり関係のないルーツをもつものも少なくない。

たとえば、リーバイス501のジーンズは、もともとは炭鉱でのきつい労働に耐えられるように作られた作業服だった。また、現在では世界中で愛用されているバーバリーのトレンチコートは、第1次世界大戦の塹壕(トレンチ)戦に対応できるように工夫された英国軍御用達のコートを起源としている。

2008年にブルックリンで誕生した「Outlier」は、リーバイス501やバーバリーのトレンチコートのように機能的で、しかもスタンダードとなり得るアパレル製品を世に送り出すことを理想としている。ちなみに英語の「outlier」には、「働く場所から離れて住んでいる人」「異常値(統計において他の値から大きく外れた値)」といった意味がある。

同サイトの共同創設者2人はいずれもアパレルのデザインや作り方について正式な教育を受けたことはない。また、外部の投資を受けないというポリシーに基づき、自己資金のみで運営している。

しかし創設以来、Outlierはクチコミでファン層を拡大していき、2012年に売上270億ドル(約2億7000万円)を達成。すでにブランドとして認知されるまでになった。

以下では、アパレル業界のアウトサイダーだった彼らがどのようにしてこのブランドを育てたのかを見ていこう。

自転車通勤に適したスラックスを求めて

ニューヨークで生まれ育ったAbe Burmeister (上写真、以下バーマイスター)氏はグラフィックデザイナー兼IT技術者として、起きている時間の多くをコンピューター画面と向き合って過ごしていた。

あるときから、彼はオフィスと自宅までの往復に自転車を使うようになる。ブルックリン橋を自転車で走るのは爽快だ。運動になるだけでなく、精神的にもリフレッシュできる。

しかししばらくすると、問題が生じた。自転車に乗るためにジーンズを履いていたのだが、6週間から2カ月で、お尻の部分が擦り切れてしまうのだ。通勤の途中で雨が降り出したときも、ジーンズではなかなか乾かない。オフィスに着いた後もずっと不快だ。またクライアントとのミーティングがある日には、ジーンズでは出席できないため、サイクリング日和であっても、ラッシュの地下鉄に乗らなければならない。

そこで伸縮性や耐久性、撥水性があり、汚れがすぐに落ち、そのままクライアントの前に出てもおかしくないスラックスを買おうと、あちこちの店を訪れた。だがいくら探しても、要求を満たすスラックスは見つからなかった。アウトドア用と謳っているアパレルは機能性は高いが、目立つ位置にロゴがついていたり派手すぎて、とてもミーティングには着用できない。

しかし発見もあった。スイスのSchoeller社が開発したハイテク素材を使ったショーツは、化学繊維なのに、それをまったく感じさせない快適な履き心地だったのだ。バーマイスター氏はこの素材でスラックスも作られているに違いないと考え、Schoeller社に問い合わせたが、残念ながら答えはノーだった。

物色を始めて1年後、バーマイスター氏は探しているスラックスはまだこの世に存在していないという結論に達し、ならば自分で作ろうと決意する。

マンハッタンには「ガーメント・ディストリクト(Garment District)」と呼ばれる、アパレル産業地区がある。その地区にあるThe Fashion Center Information Kioskというブースを訪れ、「スラックスを1本作りたいのだけれど......」と相談し、この地区内で営業を続けている縫製関係の業者のリストを手に入れた。

リストに載っている業者に1軒ずつアプローチをかけたところ、まったく相手にしてもらえないこともあったが、親切に助言をくれる人もいて、スラックス1本でも製造を引き受けてくれる縫製工場が見つかった。そこで再びSchoeller社に連絡を取り、交渉の末、例の素材を少量だけ分けてもらうことができた。

その後、デザインを決めて、工場に発注し、特注スラックス1本が完成した。防水性があり、汚れもすぐに取れ、嫌な臭いもしない。十分満足できる仕上がりだった。

次の1年はほぼこのスラックスだけで通したが、磨耗しなかった。しかし、ここでふと思う。

"いくら何でも、このスラックスだけでずっと過ごすことはできない。1、2本予備があった方がいい。できれば、色違いや違ったスタイルも欲しい。もしこのスラックスを他にも欲しいという人がいれば、さまざまなバリエーションが作れる......"

ここで初めて彼の頭にビジネス化の可能性が浮かんだ。

行き着けのコーヒーショップが取り持った縁

Outlierのもう一方の創設者Tyler Clemens(下写真、以下クレメンス)氏はカナダ出身。イーストビレッジにあるレコード店で働いていたが、同業者が次々と倒産していく状況を見て、経営者を説得し、ECサイトを開設させ、オンラインでのレコード販売事業を軌道に乗せることに成功する。

ファションにも関心をもっていたクレメンス氏はメンズウェアショップでも働き始め、ブルックリンにある自宅から15分かけて自転車で通勤を続けていた。職場に着く頃にはシャツが汗びっしょりになり、その都度着替えなければならないのが面倒だった。そこで汗染みになりにくく、防水性や通気性、伸縮性に優れたシャツを開発しようと志す。

シャツの素材を試し始めたある雨の日、クレメンス氏が行き着けのコーヒーショップでコーヒーを飲み終え、外に出ようとすると、バリスタの女性が傘を差し出してくれた。クレメンス氏は「このシャツの防水性を試す実験をしているところなので、傘はなくても大丈夫」と、サイクリング用のシャツを開発中であることを説明した。すると彼女はこう言った。

「あら、この店のお客さんで、あなたとまったく同じことをしている人がいるわ。ただしシャツじゃなくて、スラックスでだけれどね。あなたたち2人は絶対に知り合いになるべきよ」

彼女を介して、クレメンス氏とバーマイスター氏はメールアドレスを交換し、メールをやり取りした後、顔を合わせた。そして初対面から2カ月後、Outlierを共同で創設することになる。この時点では、バーマイスター氏のプロジェクトの方がやや進んでいたため、まずスラックスのプロジェクトを優先することになった。

サイクリングの愛好者を基盤に拡大していった顧客層

バーマイスター氏が製作したスラックス1本の原価はおよそ75ドル(約7500円)だった。従来の販売網を通じて販売すると、小売価格は214ドル(約2万1400円)程度になる。しかしニューヨークのブティックでの販売となれば、600ドル(約6万円)を超えるのは必至だ。

2人は1度もスラックス1本に600ドルを出したことはなかった。自分たちが絶対に購入しない製品を販売しても意味はない。中間業者を排し、オンラインで顧客に直接販売すれば、高級ジーンズと同程度の180ドル(約1万8000円)で販売できるだろう。高価なことに変わりはないが、価値を認めてくれる人もいるはずだ......

そう計算し、2人はサイトを開設した。ただしこの時点では、まだ本格的に製品をリリースする準備は整っておらず、市場の反応を試す実験というつもりだった。

「サイトのトラフィックが増えるかもしれないよ」と友人から電話が入ったのは、それから間もない2008年9月のことだ。その友人はブロガーのDamon Way氏と交流があり、Way氏がSchoeller社の化学繊維を使ってバッグを開発している企業を取材している最中と知ったので、同じ繊維を使ってサイクリング用アパレルを作っているスタートアップがあるとOutlierを教えた。するとWay氏が興味を示して、ブログ記事にしたのだ。

たった1行の記事だったが、その後、サイクリングやメンズウェア、ストリートウェア、デザインなどをテーマとするブログが連鎖的に記事にしたため、突如、2人のもとには商品の購入を希望する顧客からの問合せが殺到する。

慌ててサイトに「メールを送ってくれたら、販売の準備ができたときにお知らせします」と表示し、商品第1号となる「OG Pant」の製造を工場に発注した。ここまでで2人がかけた投資はおよそ1万5000ドル(約150万円)だった。

2カ月後、製品が完成し、サイトに写真とPayPalボタンをつけて、販売を開始した。価格は当初の予定を少し上回る188ドル(約1万8800円)となったが、売行きは好調だった。

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翌年には、シャツをリリースした。これも多くのブログやオンラインマガジンで取り上げられ、Outlierの人気を決定づけた。やがて2人は他の仕事をやめ、Outlierの運営に専念するようになる。

男性用より開発に時間がかかったが、女性用の商品もリリースした。

現在198ドル(約1万9800円)で販売されている女性用スラックス(上画像)については、「ジーンズをやめて、このスラックスに切り替えた。ちょっと高いけれど、それだけの価値はある」というレビューを多く見かける。

当初、Outlierは「サイクリング用アパレルのブランド」というレッテルを貼られることが多く、顧客もサイクリングの愛好者が大半を占めていた。しかし現在では、機能性の高さとデザインの良さが評価され、自転車に乗らない人の間にも顧客層は広がっている。

「マーケティング」 < 「プロダクト・コミュニケーション」

現在、Outlierには、約10名のスタッフが存在する。しかしその中に営業の担当者はいない。

営業に力を入れる代わりに、Outlierでは、サイトで製品についてきちんと説明することと、ユニークで魅力的な商品画像を提示することに重点を置いている。

写真の撮影を担当しているカメラマンはもともと同サイトの顧客だったが、商品を気に入り、ぜひ商品画像の撮影を任せてほしいと志願してきたという。彼の写真からは、アクティブなライフスタイルに対応する商品であることが伝わってくる。

"「マーケティング」というと、嘘八百を並べて、商品を売り込むようなイメージがある。21世紀にモノを売るのに大切なのは、「マーケティング」よりも製品について正確に伝える「プロダクト・コミュニケーション」だと思う。"
- バーマイスター氏

毎週金曜日にスタジオを公開

Outlierはオンラインでしか販売していないが、毎週金曜日の午後4時から7時の間、スタジオをオープンにすることで、顧客とオフラインでの接点ももっている。

ファッションブロガーがスタジオを訪問して、ブログでレポートすることも多く、同サイトにとっては顧客との交流のチャンスであると同時に、宣伝にも役立っている。

できる限り高い価値の品物を適正な価格で

Outliersの創設者たちは、業界のアウトサイダーだった自分たちが短期間でブランドを構築できた理由として、アパレル業界の常識とは異なる発想をしたことを挙げている。

彼らによれば、アパレル業界では、「価値(value)」という言葉が、「値段」とほぼ同じ意味で使われており、「できる限り安い価格をつけて顧客にお得感を与える」か、「できる限り高い価格をつけて顧客に優越感や贅沢感を与える」かの2つの発想しか存在していなかった。

一方、Outlierの2人は、世の中には、自分たちと同じように、優れた価値をもつ品物には、ある程度余分の価格を支払ってもよいと感じる消費者がいるはずだと直感し、「できるだけ高い価値の品物を適正な価格で提供する」という戦略を取った。

彼らの直感は正しかったことが証明されたが、ターゲット層に、経済的に余裕があると同時に、「チープな品物を数多く揃えるよりも、価値のある品物を1つだけ持ちたい」と考える人が多いことも、同サイトが成功した要因と言えるかもしれない。

ニューヨークのように地価が高い土地では、1つでさまざまな用途に対応でき、見かけもよく、手入れの手間もかからず、長持ちする衣類は、クロゼットのスペースと時間を節約するのに有効なアイテムであり、最終的には金銭の節約にも通じるだろう。

様々な人のつながりで成功したOutlierは、多くの人が交差するニューヨークらしい事例でもある。たとえオンラインビジネスのみの展開であっても、実生活での繋がりは、事業の成否を左右するほど大事なことであるということがよく分かる。

著者プロフィール
尼口友厚 株式会社ネットコンシェルジェ 代表取締役社長
国内第一線のウェブコンサルティング会社(株)キノトロープで大手通販コスメ会社(現在は上場)のeコマース支援を行う。その後同社の支援を得てeコマース専門のプロデュース会社(株)ネットコンシェルジェを設立。2003年の設立以来、年商○00億円を超える超大手サイトから、スタートアップ企業のeコマース立ち上げまで、その実績は約8年間で125社に上る。

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    株式会社ネットコンシェルジェ代表取締役

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