2014年 07月 20日
書店不屈宣言――わたしたちはへこたれない 田口久美子著 筑摩書房 2014年7月 本体1,500円 四六判並製240頁 ISBN978-4-480-81840-9 版元紹介文より:ジュンク堂池袋本店の副店長として活躍する著者による最新の書店ドキュメント。現場で働く書店員は厳しい現状の中で、何を考え、日々の仕事に向かっているのか。 推薦文より(谷川俊太郎):田口さんは愛する本を甘やかさずに注意深く見守る母親のような存在だ。 目次: はじめに 〈こうなりたい私〉なんですよ――ノーベル賞と文芸書 言葉には力の序列がある――「国語・日本語学」の棚から 書店人生は「雑誌」で始まった――雑誌売場の今昔 ネコ日和 私はこの業界で生きていきます――コミック・ライトノベルの置き方 田口さん、『女子会』よく売れていますよ――人文書と「女子」書店員 子どもをバカにしちゃいけません――児童書という希望 池袋とどう違うの?――書店再編とシステム マリコとトラジャ 『本』と『売れる本』――ネット書店その他 電子書籍はどこまできたのか 書店不屈宣言(わたしたちはへこたれない) あとがき ★発売済。『書店風雲録』(本の雑誌社、2003年;ちくま文庫、2007年)でリブロを、『書店繁盛記』(ポプラ社、2006年;ポプラ文庫、2010年)でジュンク堂書店を題材に、御自身を含めたそこで働く人々の証言の丁寧な蒐集を通じて見事に「売場の歴史」を再構成されてきた田口さんが、ふたたびジュンク堂の書店員さんの活躍を紹介して下さいます。これまでほとんど活字化されなかった「現場」のインサイド・ストーリーは、私は何度接しても感動を覚えます。本書の「はじめに」にはこんな意外な言葉があります。「私の贖罪の源は、私がこの書店業界に入り、その後の私の書店人生を活気づけてくれた「熱気」を次の世代に伝えられなかった、という悔恨に尽きる」(13頁)。ほかならぬ田口さんの三冊こそ熱気の一端をこれまで私たちに届けてくださったわけで、今後も聞き書きを可能なかぎりずっと続けていただけたらと願わずにいられません。 黒の文化史 ジョン・ハーヴェイ著 富岡由美訳 東洋書林 2014年7月 本体5,000円 A5判上製368頁 ISBN978-4-88721-818-5 帯文より:それは、色彩なのか、虚無なのか? 眼のゆらぎ、想念のうつろいが紡ぎ出すヴィジュアルと言葉の森を渉猟し、芸術、光学、人種、宗教、政治、産業、ファッションを軸に論じる、宙と世界を包む色ならぬ色の精神史。カラー64点を含む図版109点!《巻末寄稿》戸田ツトム 目次: はじめに――黒はいかにして黒となるのか 第1章 最古の色 第2章 古典古代の黒 第3章 神の黒 第4章 社会における黒――アラビアとヨーロッパ 第5章 二人の黒い芸術家 第6章 メランコリー、あるいは黒い胆汁 第7章 奴隷であること、また黒人であること 第8章 啓蒙主義における黒 第9章 イギリスの黒い世紀 第10章 私たちの色は? 附記――チェス盤、死、そして白であること 《巻末寄稿》黒の断章(戸田ツトム) 原註 索引 ★まもなく発売。原書は、The Story of Black(Reakition Books, 2013)です。Men in Black (Reaktion Books, 1995;『黒服』太田良子訳、研究社、1997年) 以来の「黒」をめぐる研究書で、著者の最新作になります。ジョン・ハーヴェイ(John Robert Harvey, 1942-)は英国ケンブリッジ大学エマニュエル校の名誉フェロー。複数の既訳書がある同名の小説家(John Harvey, 1938-)や、ウェールズ大学アバラストウィス校の美術史家(John Harvey, 1959-)とは別人ですが、三名とも英国人で、本書のハーヴェイは未訳ながら小説も三冊上梓している上に、年下の美術史家と研究分野が重複し、さらにこの年少の著作『心霊写真――メディアとスピリチュアル』(松田和也訳、青土社、2009年)が原書ではリアクション・ブックスから刊行されているため、非常にややこしいことになっています。『黒の文化史』(原題は『黒の物語』)はまぎれもなくユニークな研究書で、主に西洋における古代から現代に至る「黒」の表象を博捜し、瞠目すべき時間旅行を果たしています。終盤ではかの有名なスーパードライホールが取り上げられていますが、日本でのあの不名誉な呼び方はむろん問題にはなっていません。 コダクロームフィルムで見るハートマウンテン日系人強制収容所 ビル・マンボ写真 エリック・L・ミューラー編 岡村ひとみ訳 紀伊國屋書店 2014年7月 本体2,900円 A5判並製151頁 ISBN978-4-314-01119-8 帯文より:70年の時を経て発見された、有刺鉄線の向こう側の日常。1941年12月の真珠湾攻撃の半年後、日系二世の写真愛好家ビル・マンボは、カリフォルニア州の自宅からワイオミング州の強制収容所に連行された。当時きわめて珍しいカラーで残された63点のスライド全収録。 ★発売済。原書は、Colors of Confinement: Rare Kodachrome Photographes of Japanese American Incarceration in World War II(The University of North California Press, 2012)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。背後に壮麗な山脈を望む広大な敷地の日系人収容所の全景や、そこにおける家族のポートレイトの数々、収容所で行われた盆踊りや相撲、アイススケートなどの風景などが、大変鮮明なカラー写真で収められており、歴史の一頁がありありと目前に迫ります。見るからに残酷な光景は一枚もありませんが、日系人史や写真史の研究者による考察や、元収容者のエッセイが併録されており、収容所の現実をつぶさに教えてくれます。かの大戦の一面を胸に刻むために欠かせない貴重な記録だと思います。 ◎平凡社さんの新刊より 『HUMAN 06 日本の魑魅魍魎』人間文化研究機構監修、平凡社、2014年7月、本体1,500円、A5判並製152頁、ISBN978-4-582-21236-5 『ディアギレフ・バレエ年代記 1909-1929』セルゲイ・グリゴリエフ著、薄井憲二監訳、森瑠依子+香月圭訳、平凡社、2014年7月、本体2,800円、ISBN978-4-582-83665-3 ★『HUMAN』第06号はまもなく発売で、特集が「日本の魑魅魍魎」。小松和彦さんと夢枕獏さんの対談「日本人は妖怪がお好き」に始まり、京極夏彦さんの「妖怪らしさ」、アダム・カバットさん「化物たちの暮らしぶり」、武田雅哉さん「〈魑魅魍魎〉から〈毛人水怪〉へ――中国は戦慄にことかかぬ」、東雅夫さん「死者との再会――震災と階段をめぐる覚書」、武村政春さん「ウイルスの姿に妖怪を見る」など、興味深い書き下ろし16篇を読むことができ、この季節にぴったりの内容となっています。随所に挟まれた図版も涼しいものが揃っていて楽しいです。 ★『ディアギレフ・バレエ年代記 1909-1929』はまもなく発売。原書は、The Diaghilev Ballet 1909-1929(Translated and Edited by Vera Brown, Constable, 1953)です。著者は、ディアギレフ率いるバレエ・リュスの最初から最後の作品まで、舞台監督を務めた人物で、黄金期のロシア・バレエ界の貴重な証言録となっています。巻末には「ディアギレフ・バレエの作品リスト」「「バレエ・リュス」のプログラム」「ディアギレフ関連年表」などの資料が添えられています。振付師フォーキンや、稀代の踊り手ニジンスキーをはじめ、瞠目すべき群像が登場します。『ニジンスキーの手記』(市川雅訳、現代思潮社、1971年;完全版、鈴木晶訳、新書館、1998年)を併読されるといっそう感銘が深まるかと思います。 ◎ナカニシヤ出版さんの新刊より 『立法学のフロンティア(1)立法学の哲学的再編』井上達夫編、ナカニシヤ出版、2014年7月、本体3,800円、A5判上製328頁、ISBN978-4-7795-0869-1 『立法学のフロンティア(2)立法システムの再構築』西原博史編、ナカニシヤ出版、2014年7月、本体3,800円、A5判上製298頁、ISBN978-4-7795-0871-4 『立法学のフロンティア(3)立法実践の変革』井田良・松原芳博編、ナカニシヤ出版、2014年7月、本体3,800円、A5判上製298頁、ISBN978-4-7795-0872-1 ★『立法学のフロンティア』全3巻はまもなく3冊同時発売。辺州代表の井上達夫さんによる巻頭言「『立法学のフロンティア』刊行にあたって」によれば、この論集は「法と政治を対象とする多様な分野の研究者(実践家も含む)が、〔・・・〕民主社会における立法システム、特に現代日本の立法システムが孕む問題点を摘出・分析し、その改善のための的確な指針を提示しうる学として立法学を再構築することを目的とした学際的な協働の企て」であるとのことです。第1巻『立法学の哲学的再編』は「原理論であり、立法学の哲学的バックボーンを強化するために、立法の法哲学的・政治哲学的・経済理論的基礎に関わる諸問題を、思想史的背景も視野に入れつつ、考察」します。第2巻『立法システムの再構築』は「立法システムを校正する統治機構とその動態たる政治過程を考察し、原理論を制度的な具体化の問題に則して再検討するとともに、立法に関わる諸制度の現実的機能を解明」します。第3巻『立法実践の変革』は「現代日本の実定法各分野で活発化している具体的な法改正実践に則して、それらが孕む共通問題と分野固有問題とを解明し、法改正実践の改善のための指針を提示」するとのことです。まさにこんにちこの国でもっとも必要とされている議論がこの三冊に集約されていると言えそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 ◎水声社さんの新刊より 『チュチュ――世紀末風俗奇譚』プランセス・サッフォー著、野呂康+安井亜希子訳、水声社、2014年6月、本体3,500円、46判並製函入278頁、ISBN978-4-8010-0007-0 『アナーキストの大泥棒――アレクサンドル・ジャコブの生涯』アラン・セルジャン著、高橋治男訳、水声社、2014年6月、本体3,200円、46判上製304頁、ISBN978-4-8010-0045-2 『ホロコーストを逃れて――ウクライナのレジスタンス』ジェニー・ウィテリック著、池田年穂訳、水声社、2014年7月、本体2,500円、46判上製224頁、ISBN978-4-8010-0043-8 『レメディオス・バロ――絵画のエクリチュール・フェミニン』カトリーヌ・ガルシア著、湯原かの子訳、水声社、2014年7月、本体4,000円、A5判上製272頁、ISBN978-4-8010-0044-5 ★『チュチュ――世紀末風俗奇譚』は発売済。原書は、Le Tutu: Mœurs fin de siècle(Léon Genonceaux, 1891)です。発刊後忘れ去られた本書が再びフランスで再評価されたのが1960年代半ばで、作家や出版者の素性については共訳者の野呂さんによる巻末解題「小説とそのモデル――プランセス・サッフォー『チュチュ』について」で説明されていますが、作家の方は諸説あって正体がはっきり分かっていないようです。函に記してある本書の内容はこうです。「世紀末のパリを舞台に俗悪ブルジョワの主人公モーリ・ド・ノワロフが繰り広げる、キッチュで奇矯な行動の数々。奇想天外にして荒唐無稽な想像世界が現出する。エログロ、近親姦、フリークス、腐猫の宴、糞尿譚、罵詈雑言がいたるところ鏤められた露悪趣味の極北。知られざる傑作、珍書中の珍書を本邦初紹介」。この謳い文句にたがわず、エグい内容です。なのに(だから?)目が離せません。終幕を飾る登場人物二人の「最後」もまたため息が出るほどひどいので、最悪の読後感を味わえます(むろん褒め言葉です)。 ★『アナーキストの大泥棒――アレクサンドル・ジャコブの生涯』は発売済。原書は、Un Anarchiste de la belle époque: Alexandre Marius Jacob(Seuil, 1950)です。著者のアラン・セルジャン(Alain Sergent)ことアンドレ・マエ(André Mahé, 1908-1982)は作家であり、アナーキズム運動の歴史家です。訳者あとがきによれば、作家としては不遇だったけれど、本書はとても良く売れたのだとか。「稀代の大泥棒にしてフランス最後のアナーキスト」(帯文より)だったアレクサンドル・ジャコブ(1879-1954)の波乱に満ちた人生を本人への直接取材に基づいて活写しており、多くの人々の好奇心を集めたのも頷けます。第1章「人物紹介」で著者はこんなことを欠いています。「彼〔ジャコブ〕は、しばしば私にヴィドックを想起させた。〔・・・〕ヴィドックはアナーキストとしてのジャコブの不倶戴天の敵であった。しかしそれでも、どうしてもこの二人の存在の同一性を感じざるを得ないのである」(19頁)。ヴィドックとはむろんあの、犯罪者から警察官、そして探偵へと転身したあのフランソワ・ヴィドック(1775-1857)で、回想録が日本語でも読めます(『ヴィドック回想録』三宅一郎訳、作品社、1988年)。ちなみにこの比較をジャコブ自身は嫌ったようです。 ★『ホロコーストを逃れて――ウクライナのレジスタンス』は発売済。原書は、My Mother's Secret: A Novel Based on a True Holocaust Story(Putnam Adult, 2013)です。著者のジェニー・ウィテリック(Jenny Witterick, 1961-)は台湾出身のカナダの大手投資顧問会社Sky Investment Counselの経営者であり、デビュー作である本書は世界的なベストセラーとなったそうです。ガリツィア地方(現ウクライナ)の小都市ソカルで15人ものユダヤ人家族と1人のドイツの脱走兵をナチスから匿ったポーランド人女性フランチシカ・ハラマヨーヴァと娘のヘレナの勇気ある行動を、史実に基づいて小説化したのが本書です。著者は2009年に制作されたドキュメンタリー映画「聖母マリア通り四番地(No.4 Street of Our Lady)」(バード+マルツ+シャーマン監督)を見てインスピレーションを受け、本書を執筆したそうです。「どんなに些細なことでもユダヤ人を助けると死刑かそれに近い刑に処せられるという理不尽な時代だ。ユダヤ人にパン一切れ、水いっぱいをやるだけでも、ポーランドでは死刑宣告だ。/それを分かっていながら、知り合いともいえないフランチシカは、僕ら一家を、彼女の家に〔・・・〕匿ってくれるというのだ」(108頁)。史実によれば、ソカルに住んでいたユダヤ人は6000人、そのうち生き延びたのはわずか30人だったそうです。その半分にあたる人数をフランチシカは1年半以上にわたって庇ったのでした。 ★『レメディオス・バロ――絵画のエクリチュール・フェミニン』は発売済。原書は、Remedios Varo, peintre surréaliste ?: Création au féminin: hybridations et métamorphoses(L'Harmattan, 2007)です。著者のCatherine Garciaは本書が初めての単著で、フランスにおける初の本格的バロ研究として認知されているようです。バロ(1908-1963)の絵画作品がふんだんに引用されており、「女性の創造的自由について独自の表現を創りだし」た彼女の実践について分析しています。バロ関連書ではこれまでに、ジャネット・A・カプラン『レメディオス・バロ――予期せぬさすらい』(中野恵津子訳、リブロポート、1992年)や、レメディオス・バロ『夢魔のレシピ――眠れぬ夜のための断片集』(野中雅代訳、工作舎、1999年)があるばかりですが、いずれも品切。本書は久しぶりの新刊なので、待っておられた読者もいらっしゃることでしょう。原題は直訳すると「レメディオス・バロはシュルレアリストか?――女性による創造:異種混淆と変容」となります。 ■
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