静岡県伊豆の国市のNPO法人「伊豆学研究会」の橋本敬之理事長(62)は1988年から、地元の名主や庄屋などが私蔵してきた古文書をデータ化して保存する事業を続けている。「地元の貴重な歴史資料が失われている」。危機感に突き動かされ、ほぼ手弁当で取り組んでいる。
橋本さんは静岡県伊豆市出身。大学時代に日本史を学び、図書館司書や中学校教諭を務めながら主に江戸時代の農民の暮らしなど歴史研究を続けてきた。「地元のことを生徒たちに教えたかったが、整理された史料がなかった」と振り返る。
橋本さんが12年以上にわたり保存作業に携わり、今春に整理を終えたのが静岡県函南町の仁田家の史料だ。先祖には鎌倉時代に源頼家に仕えた武士仁田四郎忠常がいる。
鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」によると、頼家から富士山周辺にある洞窟の探検を命じられた忠常ら家来6人は、穴の中で富士山信仰の中心「浅間大菩薩(せんげんだいぼさつ)」に出合う。
仁田家に残された史料や書籍は約2600点。整理番号をつけ、一枚一枚撮影してデータ保存する。ほとんどが江戸~明治時代のものだったが、中には豊臣秀吉が実施した太閤検地について記録した1594年の古文書などもあった。
橋本さんは「それぞれの地域で、地元の財産がなくなっている。古文書が整理されて独自の歴史が広く知られるようになれば、その土地に住むことを人々があらためて誇りに思えるようになるだろう」と話している。
〔共同〕
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