コラム:撃墜事件がウクライナに与えた「3つの変化」=ブレマー氏
国際政治学者イアン・ブレマー
[18日 ロイター] - ウクライナ東部で17日、マレーシア航空の旅客機MH17便が地対空ミサイルに撃墜された事件を受けて、ウクライナの紛争は急速に深刻化することになった。
この事件では、ウクライナ問題の当事者らが互いに双方の責任だと糾弾し合っている。ウクライナ政府は、事件が親ロシア派の「テロリスト」の仕業だとし、同派に情報や武器を提供しているとしてロシアにも責任があると非難。これに対し、親ロ派の分離主義者らは関与を否定、ウクライナ軍が2001年にシベリア航空機を誤爆した事故にも言及して、同国政府側が攻撃したと訴えている。また、ロシアのプーチン大統領はウクライナ政府が撃墜したとは明言してないものの、ロシア政府はこうした暴力的状況に親ロ派を追い込んだのはウクライナ政府の責任だと主張している。
事態は混乱しているが、この事件が意味することは明白だ。それは、紛争が劇的に深刻さを増し、さらに戦火が拡大する恐れが出てきたということだ。
一部のアナリストや評論家は、この事件をきっかけにプーチン大統領は親ロ派への支援を手控えざるを得なくなるとみている。親ロ派の犯行を示すより明白な証拠は、本来ならプーチン氏にそう決断させる理由を与えるはずだが、ロシア側がそのように出る可能性は非常に低い。
プーチン氏は引き続き、ウクライナに対する影響力と、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟にさせないことを自国の安全保障の最重要課題としてみている。それは、イランの核兵器開発をイスラエルが阻止しようとするのと同じことだ。マレーシア機撃墜を受けても、同氏の関心は少しも変わっていない。実際、この事件が生んだ3つの大きな変化が、事態のさらなる深刻化を示している。
第一に、プーチン氏がウクライナを非難した声明は撤回が極めて難しい。なおはっきりしないのは、親ロ派が旅客機を撃墜したとロシアが認めるのか、それとも否定するのか、曖昧にごまかすのか、証拠に異議を唱えるのかという点だ。しかし、ロシア政府はいずれにせよ、ウクライナ政府に暴力激化や地域不安定化の責任があるという主張は曲げないだろう。国営メディアを駆使して、自らの主張を訴えるはずだ。
次に、親ロ派による犯行が確実になれば、欧州各国や米国による制裁が強化されることになる。ドイツのメルケル首相は18日、「ウクライナで今起きていることの責任はロシアにある」と明言。米国も金融・エネルギー面での追加制裁のほか、他分野で新たな措置を取る可能性がもある。制裁強化は紛争の方向性を変えるわけではなく、問題をエスカレートさせることになる。こうした制裁はこれまでの制裁と同様に、ロシア経済や投資家心理に大きなインパクトを与えるが、ウクライナにおけるプーチン氏の思惑を変える可能性は極めて小さい。 続く...