欧州連合(EU)は、欧州の国々を一つに束ねる歴史的な試みを続ける枠組み…[続きを読む]
富岡製糸場の見学者が急増したり、和食が注目されたり。ユネスコ(国連教育…
富岡製糸場の見学者が急増したり、和食が注目されたり。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産、世界無形文化遺産が広く話題を集める。
ユネスコにはもう一つ「世界記憶遺産」という事業がある。歴史的に重要な文書、映像、音声などのより良い保存と活用が目的だ。国宝の古文書と並び、市井の人が残した記録も登録される。私たちが生きる時代と世界を考える手がかりとして、生かしたい取り組みだ。
記憶遺産は1992年に始まった。登録は隔年。これまでにフランス「人権宣言」、ベートーベン自筆の「第九」楽譜、「アンネの日記」、「ベルリンの壁」の記録など、301件が登録されている。
日本では、条約に基づいて政府が取り組む世界遺産・無形文化遺産と比べ、あまり知られていなかったが、2011年に初めて福岡県田川市の「炭坑記録画・文書」が登録され、13年に政府申請の2件が加わった。
国だけでなく地方自治体や団体・個人も申請できる。日本の15年の登録候補は4件。各国2件が上限のため先ごろ国内選考があり、政府申請「東寺(とうじ)百合(ひゃくごう)文書(もんじょ)」と、京都府舞鶴市「シベリア抑留からの引き揚げ記録」に決まった。
17年に向けては、今回選にもれた「知覧特攻遺書」(鹿児島県南九州市)、「全国水平社創立宣言」(奈良人権文化財団など)に加え、水俣病の記録、広島の原爆文学資料など、各地で手が挙がっている。
政府が申請したのはいずれも国宝だが、地域からのそれは、近現代の民衆の記録がほとんどだ。国の文化財保護の枠に入りにくい。申請を目指す人たちには、その価値を広く知ってもらい、史料を長く伝えてゆきたいという思いが強い。登録によって、関心が高まり、保存への追い風が吹くのを期待する。
国内の登録第1号は、炭坑労働者だった山本作兵衛さん(1892~1984)が、仕事や暮らしを描いた絵だ。海外の専門家の助言でユネスコへ申請したが、その前に長い期間、山本さんの絵を貴重な史料だと考え、収集・保存した地元図書館などの活動があった。
地域の記憶に光を当てる。ユネスコへの申請と並行し、国内でもこうした活動を応援する仕組みが出来るといい。
近現代、特に戦争に関わる史料は、立場の異なる人の評価が欠かせない。自分たちの記憶を世界と共有するために、申請を目指す過程で、他者の視点で見つめ直すのも意義深いことだ。
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