欧州連合(EU)は、欧州の国々を一つに束ねる歴史的な試みを続ける枠組みである。

 その首相にあたる「欧州委員長」が11月に交代する。

 ルクセンブルク前首相のジャンクロード・ユンケル氏が、2期10年務めたバローゾ氏から、かじ取り役を引き継ぐ。

 移民や社会政策、職員数が2万人を超える欧州委員会のスリム化など、課題は山積みだ。

 世界では近年、中国やインド、ロシア、ブラジルといった新興国が台頭している。ダイナミックな経済力を誇るこれらの国は、しかし時に、力に任せ、国際社会のルールを軽んじる態度も見せる。

 そんなとき、法の支配や人権擁護、民主主義の実現といった原理原則をEUは掲げてきた。その役割は今も貴重である。

 ユンケル氏はその中心に立つ。新興国にむやみにすり寄らず、時には断固として苦言を呈する役目も担ってほしい。

 EUでは最近、加盟28カ国の意見や立場の違いが目立つ。

 ギリシャの財政問題に端を発した債務危機では、苦境に陥った南欧と、比較的好調な経済を維持したドイツなどとの間で、対応をめぐる論争が起きた。

 ウクライナ情勢では、ロシアへの強硬な姿勢を求めた旧東欧やバルト諸国と、ロシアとの経済的なつながりを重視する独伊などとの間で、考え方の違いがしばしば浮き彫りになった。

 また、欧州ではEUへの懐疑的な世論も根強い。5月の欧州議会選では、欧州統合に反対する右翼などが勢力を伸ばした。英国は、EU脱退の賛否を問う国民投票も辞さない構えだ。

 旧東欧諸国などを取り込んでひたすら拡大を目指していた10年前とは、EUは異なる環境にある。苦しい時代だけに、加盟国の足並みをそろえる力が、欧州委員長には欠かせない。

 ユンケル氏はルクセンブルク首相を19年近く務め、EUの方針決定にも長年かかわった。筋金入りの欧州統合推進派で、その手腕に期待がかかる。

 一方、統合をためらう世論が広がる今、統合推進派の立場をどこまで発揮できるか、疑問の声もある。英国などはユンケル氏の選出に公然と反対した。

 ユンケル氏は、そのような批判も受け止めつつ、EUの一体性を保つ努力が求められる。

 EUが「5億人の市場」としての存在感を示すためにも、人権や民主主義といった欧州伝統の理念を訴えるためにも、何より大切なのは、結束だ。その軸となり得るか。ベテラン政治家の力量が問われる。