九州道バスジャック:運転手が「SOS表示」 生きた対策
毎日新聞 2014年07月20日 22時28分(最終更新 07月21日 07時54分)
九州自動車道で20日発生したバスジャック事件で、乗客は座席に身をすくめて隠れるなど恐怖に陥った。福岡県警機動捜査隊員が発生から約30分後に突入し、幸い負傷者は出なかった。2000年の西鉄高速バス乗っ取り事件後に導入された車両の「SOS表示」で多くの110番が寄せられるなど、対策が生きた。
「後ろから出てきた赤いTシャツに黒い帽子をかぶった男が運転手にナイフを突き付け『警察に110番しろ』と言って(バスジャックが)始まった」。福岡県直方市を出発し約25分後、若宮インターチェンジ(IC、福岡県宮若市)付近を走行中、北九州市八幡西区の60代女性は最前列の席で目撃した。00年5月の西鉄高速バス乗っ取り事件が頭をよぎり「怖かった」。
バスには男性運転手(32)と18〜82歳の乗客24人(女性20人、男性4人)が乗っていた。車内の中央付近に座っていた70代女性は「怖くて座席にうずくまって隠れた」。小林優之容疑者(26)は刃物を向けたまま「警察に電話しろ」「サービスエリアについたら自分が対応する」と声を上げていた。直方市から福岡・天神に買い物に行く途中だったという女性(33)は「いきなり大声を上げたり、怖かった」と振り返る。
だが、運転手は冷静に対応した。発生後間もなく緊急連絡装置を押して会社に伝え、同時に車両後部にSOSを表示させた。無線で「バスジャックされた。まっすぐ進めと言われた」と伝えた。
福岡県太宰府市の渋滞でバスが減速した時だった。乗客が非常ドアを開け、車内で異音がした。「何の音だ」。小林容疑者に尋ねられた運転手はとっさに「外に出ないと分からない」と答えた。小林容疑者の指示で運転手が降りたところで、後ろの車両にいた機動捜査隊員が突入した。
県警によると、110番はSOS表示を見た後続車両などの目撃者から十数件あった。捜査関係者は「通報でバスのナンバーも分かり早く特定できた」と振り返る。記者会見した西鉄の森慎二業務部長は「容疑者を刺激しないように、交信は1回だけだったが、速やかなSOSが容疑者の身柄の確保につながった。バスジャックマニュアル通りの対応だった」と話した。