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今の自衛隊を瞬時に100万人という大兵力に拡大できる魔法がある。それがクリュンパーシステムである。第一次世界大戦に敗北したドイツは、ベルサイユ条約で兵力を最大10万人と厳しく制限された。しかし頭のいいドイツ人は、10万人の兵員を士官や下士官など軍の基幹要員として養成し、ベルサイユ条約を破棄するや,直ちに徴兵制を復活させた。そして10万人の兵士のうち、下士官は士官に、小隊長は中隊長に、中隊長は大隊長に昇任させ、その下に徴兵制で集めた市民や農民を振り分けた。こうしてナチス・ドイツ軍は短期間に10万の兵力を200万人の大兵力に築き上げた。またクリュンパーシステムには、平時に兵員数を少なくして、その分、最新兵器を充実させる効果もある。
自衛隊の兵員数(現員)は、陸上16,4万人、海が4.6万人、空が4.7万人で、総勢26万人というのが現状である。しかし自衛隊員の階級構成を見ると、じつは自衛隊もこのクリュンパーシステムを採用した編成をとっていることがわかる。図を見ると一目瞭然なのだが、今の自衛隊は幹部(士官)が1に対し、下士官(曹)は3でしかしない。特に兵(士)は4という低い割合である。米軍の編成など見ても、近代軍は士官1に、下士官4、兵は10という割合が一般的である。自衛隊は兵士の割合が低いのが大きな特徴である。これはクリュンパーシステムを考慮しているからだ。
今は予備兵力が予備自衛官や即応予備自衛官など約5万人であるが、自衛隊そのものは短期間(1年程度)で100万人を超える規模拡大が可能な体制を維持している。仮に100万人体制の自衛隊の動員を想定してみよう。そのためにはあらかじめ民間人の技術や特技、あるいは経歴などを記入し、自衛隊の召集登録カードに記入しておく必要がある。これはわが国の有時には、自衛隊の動員に応じるという意思表示である。(これが米国の場合は選抜徴兵制度だった)
まず幹部は現在の4.3万人から、これに召集登録カードから、医師や看護婦などの医療関係者、弁護士、会計士、建設・土木技術者、IT技術者、通訳など、「幹部職に匹敵する特技」を持っているものを加えて7万人程度とする。下士官は8.5万人だから、さらに登録カードから「特技」を参考にして下士官の20万人を選抜する。このクラスは半年〜10ヶ月程度の軍事訓練で、部下10名程度を動かすことができる資質が求められる。これで下士官28万人体制が生まれる。兵士の大部分は現員の11万人に、登録カードから特に「健康」を重視して兵クラス54万人程度を選抜する。この54万人は基礎軍事訓練を3ヶ月程度で終了する。要するに自衛隊の訓練システムは3ヶ月間で、銃が扱え、初歩の軍事行動が可能な兵士に変えることができる。自衛隊が一旦有事の体制をとると、兵士や下士官は、基地の警備や保守、物資の仕分けや輸送、事務処理の要員など、さらに飛行場周辺の草刈まで、高度な軍事技術は必要ないが、普通の労力として必要になる兵士も多数が必要になる。これがクリュンパーシステムで、有時に動員される潜在的予備兵力である。
さらに日本には、民間企業でも軍事転用が可能なものも多い。外洋をクルーズする豪華客船は、わずかな改造で兵員輸送船や病院船に転用できる。また長距離フェリーは物資や車両を海上輸送するのに最適である。小型・中型の石油タンカーは、燃料輸送の重要な手段になる。自動車運搬船なら鉄道や道路が遮断されても、車両を目的地に輸送できる。航空会社の旅客機も重要な潜在的軍事力である。また全国に無数にある建築・土木機材も、潜在的軍事力には欠かせない。むろんこれらは大規模災害にも有効である。だが潜在力を秘めた民間施設も、自衛隊という軍事組織が運用することによって、潜在的軍事力として生まれ変わる。
旧軍のような根こそぎ動員〔徴兵)をかければ、憲法の基本的人権(職業の自由など)に違反するし、日進月歩の技術開発力競争を停止して、国力を著しく損なう危険が生じるからだ。また現在のハイテク兵器は、ただ動員をかけられた市民では使いこなせない。人民の中から生まれたという中国人民解放軍でさえ、徴兵制を段階的に廃止する方向を決めているのはこのためである。2001年9月1日に八王子の駅前に立って、防災訓練に都立高校生をボランテアで参加させるは、自衛隊が徴兵制を復活させるためと叫んでいた皆さん。これが現代の非常時の自衛隊・動員システムです。現実は、まだ自主的な「兵役登録カード」さえできていません。皆さんの主張はちょっと飛躍しすぎています。 (上の図は月刊「スコラ」誌 2001年10月号、特集「日本の潜在的軍事力」よりです。
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