学力だけではなく、貧困対策の面からも、幼稚園や保育所の幼児教育の役割は大きい。

 年収360万円未満の家庭の5歳児に限り、幼稚園や保育所を無償にする。文部科学省が方針を示した。今も生活保護世帯などは無償だが、これで5歳児の23%に対象が広がる。

 本来の目標は3~5歳児全員の無償化だが、それには年間で7800億円、5歳児だけでも2600億円かかり、難しい。まずは一歩前に進むという判断は現実的だ。

 今後は所得制限をゆるめ、5歳児全体へと対象を横に広げていくのが、政府の基本的な考え方だ。教育再生実行会議は「5歳児の義務教育化検討を」とふみこんでいる。

 だが、財政難の中で優先順位を考えると、低所得家庭への支援を4歳、3歳と下に広げてゆくのが先決ではないか。

 子どもの貧困率は16%を超えて過去最悪を更新した。内閣府が専門家を集めて開いた対策検討会では「教育投資の中では幼児教育が最も効果的だ」という意見が強かった。幼いうちの貧困ほど、成人後への影響が大きいとの指摘もあった。

 幼児教育の充実というと、文字や数を読み書きする勉強の前倒しを想像するが、必ずしもそうではない。むしろ集中力や好奇心、話す力や聞く力のような学びの土台を、小学校入学前に作っておく役割が大きい。

 通園は親にも利点がある。育児や生活の相談相手ができる。行政の支援につながる窓口にもなる。貧困率の高いひとり親家庭の親にとっては、子どもの通園は安定した仕事をさがすために欠かせない条件だろう。

 5歳児は約99%が通園しているが、4歳、3歳と年が下がると通っていない子は増える。政府の「すべての子に幼児教育の機会を」との理念を実現するには、経済的理由で通えない子はなくさなくてはならない。

 「子どもへの投資は未来への投資」。子どもの貧困対策に取り組む人からよく聞く言葉だ。この子らが将来自立できれば本人はもちろん、社会保障のコストが下がって社会のみんなの利益になるという意味だ。

 裏返せば、そこまで説明しないと必要性を納得してもらえない現実があるといえる。

 高齢者はますます増え、年金や介護、医療費は膨らむ。一方で子どもは減る。その中で子どもや教育への投資を増やすことに理解を得るのは簡単でない。教育者だけでなく、高齢者福祉や財政の専門家と知恵を出し合う場が要るのではないか。