米国など先進国を中心とした国際金融秩序に対する、異議申し立てと言えるだろう。

 BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳が、途上国のインフラ整備などに融資する銀行「新開発銀行」の設立を決めた。金融危機の際に外貨を融通するための基金も設立する。

 途上国の開発を後押ししてきた世界銀行と、国際的な経済・通貨危機の火消し役である国際通貨基金(IMF)という既存の機関に相当する組織を、BRICS主導で新設するものだ。

 新興・途上国の資金需要は旺盛で、現行組織を補完する余地はある。開発資金の融資を通じ、中国などが自らの発展の経験を他の新興・途上国に伝えることにも意義はある。

 しかし実現は容易ではない。インフラ整備への融資では、その経済効果、環境に対する悪影響などを事前に評価し、融資後も事業が計画通りに進んでいるかなどを点検しなければならない。どういう人材でどういう組織をつくるのか。十分なノウハウがあるとは言い難い。

 そもそも動機が心配だ。新興国や途上国をどう発展させ、世界経済の安定にどう寄与するのかといった価値観を、5カ国は共有しているだろうか。

 明確なのは、自分たちの経済発展に応じた影響力を、国際金融の舞台で発揮できないことへのいらだちだ。第2次大戦後に設立されて以来、世銀のトップは米国、IMFのトップは欧州が占めてきた。BRICS5カ国の経済規模の合計は世界の2割を占めるのに、IMFでの投票権は計1割に過ぎない。

 IMFは新興国の発言力が増すよう投票権を配分し直す改革案を決めている。しかし影響力の低下を懸念する米国議会の反対で実現していない。

 IMFの融資は財政再建などの条件が厳し過ぎる、世銀の融資先は米国の意向に左右されているのではないか、といった不満も新興・途上国にはある。一定の基準は欠かせないが、融資先の理解を得る努力が必要だ。

 BRICS5カ国も加わっているG20などでIMF改革などを論議し、協調体制を築くべきだ。そうすれば、新組織ができても、建設的に役割を分担できるだろう。

 21世紀になって、グローバリゼーションは深化した。世銀とIMFの設立を決めたブレトンウッズ会議から70年。世界経済を支える仕組みも制度疲労が否めない。それを補正する機会として、BRICSの異議申し立てをとらえるべきだ。