名目賃金の下方硬直性が失業の原因の一つとする考え方があります。労働市場の需給を均衡させる賃金が低下しているにもかかわらず、労働者が低下を受け入れることを拒むため、需給のミスマッチ→失業が発生するというものです。
この考え方を「結婚市場」に適用すると、結婚相手に求める要求水準が高過ぎる→未婚率が高まることになります。
1980年頃から晩婚化・非婚化の傾向が強まっていますが、この仮説が当てはまるのかについて、国立社会保障・人口問題研究所の『独身調査』*1を基に検証します。
『独身調査』では、女のライフコースを
- 専業主婦:結婚し子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない
- 再就職:結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ
- 両立:結婚し子どもを持つが、仕事も一生続ける
- DINKS:結婚するが子どもは持たず、仕事を一生続ける
- 非婚就業:結婚せず、仕事を一生続ける
の5つに分類し、「女性の理想」「女性の予定(実際になりそうと考える)」「男性の期待(パートナーとなる女性に望む)」の3つについて調査しています。*2
2000年代に入って、
- 専業主婦希望が約2割の「下方硬直性」を示す
- 専業主婦予定は減少を続ける
- そのギャップを非婚就業が埋めて増加
となっています。
女の専業主婦希望と男の専業主婦期待は2002年まではほぼ一致していましたが、その後は乖離しています。そのギャップを女の非婚就業が埋めています。
以上からは、未婚女の約2割を占める専業主婦希望者(の約半数)が「働き続けなければならないのであれば、結婚するよりも独身を選ぶ」と考えていることが示唆されます。「自分を専業主婦にするだけの経済力の無い男と結婚するよりも、独身のほうが望ましい」ということでしょう*3。「賃金など条件が悪い→自発的失業」と同様の「自発的独身」と言えます。男の所得水準低下が非婚化・少子化の一因であることも示唆されます。
男の経済力低下とは逆に、女が男に求める要求水準はインフレの一途にあります。2010年調査では経済力、職業を重視する割合が急増したほか、家事・育児の能力重視も顕著な増大傾向にあります。女の要求水準の高さは、男と比べると明瞭です。
まとめると、
すなわち、
- 女の労働市場進出→男に求める要求水準の上昇→クリアできない男の増加→未婚者増加
ということになります。女の要求水準は「下方硬直」どころか、インフレを起こしているわけです。男への要求水準を高めた結果、「剰女」が増えた香港と同じ構図です。
- 香港女性の不毛な「いい男」取り競争
- Hong Kong's Troubling Shortage of Men (The Atlantic)
“Hong Kong women are highly qualified and independent, but the marriage norm of men marrying down and women marrying up has remained largely intact. So some men may be unable to find a local wife due to their comparative socioeconomic disadvantages.
Dr. Choi also feels that women expect far more from marriages than in the past when the need for financial security was often a defining factor.
So if the man’s merely hard working, that may not be enough. He also needs to be romantic and the couple needs to have chemistry.”
Leftover Women: The Resurgence of Gender Inequality in China (Asian Arguments)
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"Highly qualified and independent"な「輝く女性」*4を増やす安倍政権の政策はそれ自体は結構なことなのですが、日本全体を香港化(→少子化)する可能性があることには留意が必要でしょう。
参考記事
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