これは隠れた名著。ぜひ多くの方に読んでもらいたい作品です。


「吃音(どもり)」をテーマにしたマンガ

ヒリヒリ青春漫画のマエストロが贈る、もどかしくて、でもそれだけじゃない、疾走焦燥ガールズ・ストーリー。

"自分の名前が言えない"大島志乃。そんな彼女にも、高校に入って初めての友達が出来た。ぎこちなさ100%コミュニケーションが始まるーー。いつも後から遅れて浮かぶ、ぴったりな言葉。さて、青春は不器用なヤツにも光り輝く……のか?

志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は今大活躍中の押見修造氏が描く短編マンガ。「吃音」をテーマにした異色の作品です。

新しいクラス、志乃ちゃんは早速自分の名前を言えません。冒頭の描写がすばらしいので、8ページほど引用いたします。

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うーむ…これ、すごいリアルで心が苦しくなります。こんな感じで、志乃ちゃんは新生活にあたって相当な苦労を強いられるわけです。

が、少ないながらも友だちができて、なんと一緒に歌うことになります。志乃ちゃんは日常会話は苦手ですが、歌になるとスムーズに発声できるのです。

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しかし、なかなかどうしてうまくいかない。一緒に歌う仲間(彼も『空気が読めない』というコミュニケーション上の悩みを抱えているタイプ)とも、言葉が出てこず話し合えない。

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押見修造作品ということで、ひょっとしたらこのままダークなオチで終わるのか…?とハラハラしますが、物語は静かに、幸せに幕を閉じます。一巻完結、安心して読めるストーリーなので、老若男女におすすめです。


「あとがき」もすばらしく、実は作者も吃音で悩んだ過去があることが語られています。

友だちと話していても、突然発音できなくなるので、皆に笑われました。友だちは、僕がふざけているんだと思っていたようです。

(中略)よく覚えているのは、数学の授業のときです。指されたぼくは、答えをわかっていました。答えは「1」でした。でも、その「1」が言えない。「い」が出てこない。出そうとすればするほど、顔はゆがみ、目は見開き、力が入る。するとますます言えなくなる。そのあまりの様子に、教室が爆笑に包まれました。

(中略)今でも、一番怖いのは自己紹介のときです。「お名前は?」と聞かれると、胸が恐怖に満たされます。それが電話だとなおさらです。名前が言えず、相手の心配の気配や、不審の目を見てしまうと、その場から逃げ出したくなります。

しかし、作者は「悪いことばかりではなく」、「吃音だからこそ」漫画家という道に入っていくことができた、とも語っています。

ひとつは、相手の気持ちにすごく敏感になるということです。(中略)人の表情や仕草から感情を読み取る能力が発達しました。これは、マンガで表情を描くとき、すごく力になっていると思います。

もうひとつは、言いたかったことや、想いが、心の中に封じ込められていったお陰で、マンガという形にしてそれを爆発させられたということです。

つまり、吃音じゃなかったら、僕は漫画家にはなれなかったかもしれないということです。


名著「天才と発達障害」のなかに記されていた、「不思議の国のアリス」の作者であるルイス・キャロルは「吃音」と「相貌失認」があったため、家業の牧師を継ぐことができず、小説家となったという話を思い出しました。

キャロルの相貌失認は、吃音障害以上に職業の選択にも影響をおよぼしたのではないかとも考えられます。父親と同様、聖職者の牧師になったならば、キャロルは村の牧師館に住まい、村人の相談や教育を担う必要が生じます。

相貌失認の人は、不特定多数といった人前での説教はたやすいのですが、村人との一対一での心通うコミュニケーションは、むずかしくなります。

そういったこともあり、上級の牧師になるチャンスはありながら、執事という自由な表現ができる身分に留まり、写真の中の奥行きある顔の美しさに魅了され、吃音に悩まされることのない言葉の世界へ、筆を走らせたのではないかと、推測されるのです。

ぼくも軽い相貌失認があったり(ホント、人の顔覚えられないんです)、組織で働くのが苦手だったり、色々なマイナスがあった上でブロガーという仕事をしているので、こういった話は勇気を得られます。これからの社会においては、いかに弱みを受け入れ、強みを磨くかが大切なのでしょう。そう考えて前向きに生きていけば、結果的に弱みも改善していくものですし(志乃ちゃんは周囲の助けを上手く借りられるようになりました)。


そんなわけで、良質なストーリーと、作者の想いのこもった簡潔なあとがき。これはホント、若いうちに読んでおくと価値観が変わってしまう作品です。これで500円は安いです。

吃音は全人口の1%程度と言われ、男性に多いそうです。ぼくにも吃音の友人が5人くらいいますね。身近な話なので、これはもう教科書として学校で題材にしてもいいレベルだと思います。



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