夏に文庫を読むならコレ! 全国の書店に
広がる話題のフェア「ナツヨム」って何?
書店の系列を超えた「ナツヨム」という文庫フェアが全国の書店に広がっている。ターゲットは、日頃から本を読んでいる人。その狙いはどこにあるのでしょうか?
50人の選者による渾身のオビ推薦文
夏の本屋、といったら一番最初に何を思い浮かべるでしょうか? たぶんほとんどのかたが、新潮社・集英社・角川書店の3社で展開する夏の文庫100冊フェアをあげるのではないかと思います。古典名作やロングセラー、夏の定番、その年の新刊などなど、ラインナップの入れ替えはもちろんありますが、売場で毎年見ているとどうしても同じような銘柄ばかりに見えてきたりします。
そんなある日、文庫売場で常連のお客さまとお話をしていて「夏の本屋はどこに行っても同じでおもしろくない」と言われたことがありました。理由は夏の100冊でした。何を読んだらいいかわからない、あまり本を読まないといったお客さまにとっては「最初の1冊」としてとてもよいのですが、では定期的に来店してくださっている、自分でいくらでも本を選べるお客さまにとってはどうなのだろうかと。そのときに、じゃあ自分で何か夏のフェアを作ってしまおうと思ったのが、いまのナツヨムの最初のきっかけとなりました。
ナツヨムは、出版業界に関わる(具体的には、書店員・出版社・取次・印刷会社)50人による選書と手作りオビの、オリジナルの夏文庫フェア。今回で3回目で、北は北海道から南は福岡まで、地域も規模も会社も越えた19店舗で開催されます(7/9時点)。今年の選書のテーマは「記憶」。買切商品でなく現在流通している文庫、という条件のみで自由に選書していただいていて、小説やエッセイ、ノンフィクション、学術的なものなど、とてもバラエティに富んでおり、本のタイトルだけを追っていくと一見ばらばらにも見えますが、「記憶」というテーマのもとにコメントを書きこまれたオビを巻くと、不思議とフェアとしての統一感が出てくるのです。
ナツヨムでいちばん力を入れているのは、そのオビ。なぜ選者がこの本を選んだのか、この本をおススメしたい!という強い想いのこめられたオビで、できるだけ手書きでコメントをお願いしています。空いたスペースにまでイラストも使ってびっしり書きこむかた、とてもシンプルに直球勝負のかた、本当にさまざまなオビで、ひとつ読み始めると次から次へ手が伸び、結局店頭で50点ぜんぶオビの文章を読んでしまったというかたも例年いらっしゃいます。必ず選者の名前が入っているので、1冊の本から何か新しいつながりが生まれたらそれはまたおもしろいですよね。
「この本おもしろいよ!」とだれかに伝えたい
「棚回転はしているけれどなかなか平積み・面陳はできない」「その文庫レーベルの棚を常設していない」といった本が(ヤマケイ文庫や徳間アニメージュ文庫など)、多くのフェア開催店の売上ベストに入ってくるのを見ていると、わたしたちはまだまだたくさんの「可能性」と一緒に仕事をしているのではないかと思うのです。「この本おもしろいよ!」とだれかに伝えたい、それはわたしの書店員としての原点なんだと改めて感じます。
たとえば、今年の啓文堂書店三鷹店のナツヨム売上ベスト3をご紹介しますと、1位『絞首刑』(青木理/講談社文庫)、2位『しずく』(西加奈子/光文社文庫)、3位『たとへば君』(河野裕子、永田和宏/文春文庫)と、いわゆる夏っぽいランキングではまったくありません。1位の本は、なんと死刑制度のルポルタージュです。おそらく最初はオビの文章に惹かれて手に取って、ページをめくってみておもしろそうだ、と内容に興味を持たれるのだと思いますが、ノンフィクションや硬めの本がよく売れる三鷹と相性がいいのでしょうか。選者はこのあたりにご縁のあるかたなので、そのあたりの影響ももちろんあるのでしょう。
ただもちろん理想だけで仕事はできませんので、ナツヨムが必ずしもすべての開催店で成功しているわけではないこと、まだまだ各店担当者の個人的レベルでの想いに頼ったフェアになっていること、は書いておいたほうがいいのかもしれません。それでもナツヨムに興味を持った、ぜひ一緒になにかやってみたい、というかたがいらっしゃったら、とてもとてもうれしいです。次につなげていけるようにと、考えてゆく夏にしたいです。
西ヶ谷由佳
本がなければ生きていけない、文芸書担当書店員。趣味は読書と本屋巡り。SFをこよなく愛している。啓文堂書店三鷹店勤務。