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なぜ今、「医療経営コンサルティング」が狙い目なのか?
なぜ今、「医療経営コンサルティング」が狙い目なのか?
経営戦略、IT、組織人事……。現在日本には、ありとあらゆる分野を専門にしたコンサルティングファームが存在する。にもかかわらず、なぜか今まで看過されてきたのが「医療経営コンサルティング」だ。そんな日本の状況を「ビジネスチャンス」と形容するのは、国際医療経済学者(経済学博士)であり、米国カリフォルニア州に本社を置く医療経営コンサルティング会社、Global Health Consultingの創始者にして会長を務めるアキよしかわ氏。なぜ医療経営が今、狙い目なのか。その背景にある、日本特有の事情について同氏に話を聞いた。
カリフォルニア大学バークレー校にて経済学博士号取得後、バークレーで企業戦略論、経済学を担当。同大学国際経済研究所研究部長として、米国議会調査局、世銀、商務省等のアドバイザーを務める。議会調査局ではゲノム計画、バイオテクノロジー、医療政策を担当。1990年にスタンフォード大学へ移籍、スタンフォード大学国際医療政策部を設立し、7年間率いる。2000年より米国グローバルヘルス研究所理事長を務め、米国の全大学病院の経営分析、カリフォルニア州ロスアンジェラス郡立病院の評価、再編、本部機能(MSO)構築を始め、欧米の300病院以上のベンチマーク分析を行ってきた、日本医療界におけるベンチマーク分析のパイオニア
日本の病院経営は今、大きな転換期を迎えている
Q.そもそもなぜ、日本には「医療経営コンサルティング」が根付いていないのでしょうか?
適性人材がいないことが大きな要因です。医療経営に変革をもたらすには、病院で働く現場の医師たちを変えなくてはなりません。つまり医療経営コンサルタントは、まず医師たちとコミュニケーションを図れなくてはならない。そこでは当然ながら、最低限の医療知識が求められます。
さらに言えば、日本が医療経済学の後進国だということも、この問題に拍車をかけている。医療経済学とは、医療に関連して発生するさまざまな経済活動を実証的に分析し、医療政策や病院経営に役立てようとする学問分野であり、わたし自身、医療経済学者の一人です。
アメリカにおいて医療経済学は、実証的にデータを分析する、完全に理系分野の学問。ただ日本は、経済学が文系の学問とされているため、医療を経済学的に分析しようという人が、なかなか生まれない。そうした背景が、日本を医療経営コンサルティングから遠ざけてきたといえます。
Q.では、「日本の状況がビジネスチャンスだ」というのは、日本にはまだ医療経営コンサルティングの競合が少ないという意味なのでしょうか?
そうした一面に加え、日本の医療業界が今、大きな転換期を迎えていることが、医療経営コンサルティングをビジネスチャンスと言ったゆえんです。
日本の医療機関では今まで、投薬や手術、検査などを実施した分だけ診療報酬が得られる「出来高制度」が主流でした。しかし昨今は、病気の種類ごとに1日当たりの入院費用が定められた「DPC(Diagnosis Procedure Combination)」、いわゆる「包括支払い制度」に移行し始めている。
この制度では、特定の医療行為に対する支払いが定額になるため、患者側にとってのメリットが大きい反面、病院側はコスト意識を高め、全く新しい経営的思考を導入しなくてはなりません。そこに、医療経営コンサルティングが入り込むビジネスチャンスがあるのです。
ビジネスチャンスをつかむカギは、「蓄積されたデータ」にアリ
Q.とはいえ、最初にお話しいただいた人材不足のように、参入に当たっての壁は決して低くないかと思われます。医療経営コンサルティングビジネスに参入する上での問題点とは?
さしあたっての問題は、「人材面」での問題と「データ面」での問題の二つです。先述の通り、そもそも医療経営コンサルタントにふさわしいスキルセットを持った人間は少ないほか、他の業種のジェネラルなコンサルタントとは、持つべきスタイルが決定的に異なります。医療経営コンサルタントをやっていく上では、何よりも「医療を良くしたい」という情熱を持っていることが求められます。
このように言うと、他のコンサルタントでもそれは同じだという声が上がるでしょう。しかし、他のコンサルタントに、医師が真剣に患者の命を預かるオペに口を出すほどの度胸がすべからく求められるでしょうか? 医療経営コンサルタントにはそれが必須なのです。
もう一つの問題が「データ」です。われわれが相手にする医師は、皆概して論理的思考に優れた方が多く、彼らを説得するには、データ的な裏付けが必要不可欠になります。しかし日本には、診療にまつわる客観的なデータ、そしてそれを分析した情報が圧倒的に不足しているのです。
医療経営の分野において現在、日本はアメリカよりも20年遅れていると言わざるを得ない状況にあります。そのギャップを埋める作業は決して楽なものではありませんが、取り組み次第では、大きなビジネスチャンスにもなり得ると考えています。
Q.では、日本で今後、医療経営コンサルティングを盛り上げていくためには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか?
それを説明するには、私たちの日本法人のグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの取り組みを例に見ていくと分かりやすいでしょう。
まず当社では、コンサルタントのほとんどが医師や歯科医師、看護師、薬剤師といった医療関連の資格保持者、あるいは製薬企業や医療材料メーカーなど医療関連企業の出身者など、医療にまつわるバックグラウンドを持ち、もともと医療に関する知識を持っています。そうしたスペシャリストに、分析ノウハウを徹底的に教授し、コンサルタントとして育成しています。
次に「データ面」。われわれの場合、もともとがアメリカで創立した企業であることから、日本法人を立ち上げた当初から、アメリカでの事例データを多く有していました。そのおかげもあり、日本でも顧客より支持を得、今や2004年の設立から6年を経て、約700病院での導入事例を抱えるまでに。顧客の病院の経営を分析する上では、それら蓄積されたデータを用いて「ベンチマーク分析」を行っています。
ベンチマーク分析とは、他病院との比較による対象病院の現状分析のことで、最もベーシックな分析手段です。ある優れた病院がある場合、その病院と比較することで、使っている薬品の違いや医師の勤務時間など、どのような点で病院経営の方法に違いがあるのか、具体的に知ることができるのです
このように、人材面とデータ面での課題さえクリアになれば、医療経営コンサルティングへの参入は、大きな可能性をはらんでいると言えます。また、その活動においては社会的な意義も非常に大きい。
「医療の質を高めることが、病院の経営を良くする」というのがわたしの掲げる信条ですが、さらに言えば、医療の質を高め、病院の経営を良くする取り組みが、ひいては社会をより良いものへ進化させるのだと信じています。