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 原子力文化 2014年7月号 インタビュー

福島での被ばくによるがんの増加は予想されない
― UNSCEAR報告書より考えたこと ―

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、二〇一一年東日本大災害後の原子力事故による放射線被ばくのレベルとその影響――という報告書を作成しました。
これは今年四月に、国連報告として発表されたものです。
UNSCEARは、事故と放射線の影響をどうとらえたのか――。長瀧重信さんにお話し願いました。
(聞き手・編集部)


長崎大学名誉教授
長瀧 重信氏
────────(ながたき・しげのぶ)────────
1932年 東京都生まれ。東京大学医学部卒業後、第三内科に入局し米ハーバード大学医学部に留学、東大病院外来診療所医長、80年長崎大学医学部教授、学部長、放射線影響研究所(広島・長崎)理事長などを歴任。現在は放射線影響協会理事長。


―― 国際連合のホームページに「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)報告書」が出ています。表題が「福島での被ばくによるがんの増加は予想されない」で、同時に「最も高い被ばく線量を受けた小児の集団では甲状腺がんの低いリスクがある」とも書いてあります。
 お読みになったご感想から、伺えればと思います。

長瀧 全体の感想を一言で言えば、現在も健康影響はない、それから将来の健康影響は識別できないであろう、ということです。識別できないという言葉を使っているのは新しいように思います。これが一番基本的なものです。
 このUNSCEARそのものの任務ですが、線量の評価をすることに関して非常にきっちりと議論して、出てきた線量を基にして将来の健康の影響、リスクを語る、それが基本のように思います。
 健康の影響については、報告書の英語を日本語でどう表現するかがポイントになりますが、エフェクトは現実に起こっているもの、今、何が起こったかということをヘルス・エフェクト、それからリスクという言葉は、将来という言い方にして、うまく分けている、という感じでした。
 まず全体として何が起こったかというエフェクトに関して非常によく調べたなと思ったのは、急性影響は何もない。
 しかし、避難のために多くの方が亡くなった。「精神的な健康の問題と平穏な生活が破壊されたことが、事故後に観察された主要な健康影響を引き起こした。これは、地震、津波、原発事故の多大な影響、および放射線被ばくに対する恐怖や屈辱感への当然の反応の結果であった。公衆においては、うつ症状や心的外傷後ストレス障害に伴う症状などの心理的な影響が観察されており、今後健康に深刻な影響が出てくる可能性がある」。「現在も精神的や経済的といった社会的条件のために避難した方が苦しんでいる。これは最大の健康影響である」ということです。
 ただし、それらはUNSCEARの対象とすることではないので、あまり触れていませんが、これは大変なことである、と書いてありました。

―― UNSCEARの報告書の対象は、あくまで放射線の影響に関することなのですか。

長瀧 そのとおりです。
 ですから、チェルノブイリ事故のときも世界保健機関、つまりWHОは精神的な影響を取り上げて、最大の影響だと言っています。五年後のUNSCEARでは議論はしていますが、結論には入っていません。
 全体としての印象は、このWHO、UNSCEARの発表を機にして、放射線以外の住民の被害の方がはるかに大きいことを、もっと考えなければいけないのではないか、という気がしました。
 それから放射線量の評価(ドーズ・アセスメント)に関しては、非常に慎重にいろいろなモデルを考えています。
 土壌の汚染から空気中の吸入も食事もあらゆるモデルを考える。
 そのときに、あるモデルを使うとき、どうしても保守的に(過小評価にならないように)計算して線量評価が大きくなる部分が出てきます。自分たちのモデルが実際に測った値に比べると数倍多くなっていても、モデルがおかしいのではない。モデルは保守的になるものだ。一方、実測値もいろいろ限られた条件だろうから、両方考えるべきだ、と非常に広い範囲から考察しています。
 しかし、このモデルで一番抜けているのは、日本人がコンブをよく食べるということです。
 例えば、体に入った放射性ヨウ素の三〇%は二四時間で甲状腺に集まる、という仮定で被ばく線量を計算しています。
 でも、コンブのおつゆを一杯食べると、放射性ヨウ素の集まりは五%くらいまで下がってしまい、モデル値の五分の一や一〇分の一になってしまいます。安定ヨウ素剤と同じ効果です。
 特に日本の場合は、ヨウ素131に関しては、モデルと実測値との間にそういう乖離の可能性があることは、日本側として国際原子力機関(IAEA)でも強調しようと思っています。

―― はい。

長瀧
 この実測値に関しては「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」で、ずいぶん議論されています。コンブを食べた場合は違うから、モデルと一緒に実測値を考えるべきである。
 実測値は数が少ない。大規模なものだと一つしかない。それもサーベイメータで測った結果だけです。これは不確実だから使えないというのではなくて、「これしかないから、それを徹底的に分析して考えましょう」と、専門家会議では二回の会議が放射性ヨウ素の実測値に使われています。
現場で実際に測定された先生に現場の写真まで持って来て説明いただき、委員みんなで議論しています。それで「不確定なところはあるが、確実に言えるのは何か」というような議論もされています。

―― かなりつっこんだ議論ですね。

長瀧 そういう委員会の議論に比べると、UNSCEARは実測値に関する評価がまだ十分ではないような感じがしました。
 ただ、モデルに関しては今後も今までに得られたあらゆる情報をまとめて将来も継続する努力は必要ですが、現状で何かを選ぶとすれば、モデルや実測値はこの程度だということです。
 それは結論のところにまとめて表になって出ていて、一〇歳以下と成人と分けて、一八くらい場所を分け、細かく計算しています。この表と議論も含めて、これが線量評価である。この評価を基にしてどういうリスクがあるか議論されています。
 最初にがんのリスクがどのくらいあるかは、外部被ばく、内部被ばくを入れても一〇ミリシーベルトであれば、従来の一〇〇ミリシーベルトで一・〇四のリスクで、一〇ミリシーベルトだと一・〇〇四である。

がん一般については線量からいって識別できる変化はない

―― 一〇ミリシーベルトだとリスクは大変小さな数値になりますね。

長瀧 ええ。
そうすると日本人の約半数ががんになる現状で、少なくともがん一般については、線量からいって識別できる変化はないと書いてあります。
でも、年齢や臓器別に考えると、必ずしも一律に何も起こらないとは言えません。その線量で子供はどうだろうか、甲状腺がんはどうだろう、というようなことも同じように分析しています。
甲状腺がんについては「自分たちの試算では、一歳児で一番多くても八〇ミリグレイだろう」、「例えば、一歳の人が死ぬまでに甲状腺がんになる確率というのは二〇〇人に一人です」と。最後に「本委員会は、幼少期および小児期により高い甲状腺線量を被ばくした人について、識別可能な程度に甲状腺がんの発生率が、上昇する可能性があるかどうか確固たる結論を導くことはできない。線量が大幅に低いため、チェルノブイリ原発事故後に観察されたような多数の放射線誘発性甲状腺がんの発生を考慮に入れる必要はない」。
結局「確実なことは言いにくいとしても、チェルノブイリのようなことが起こるとは線量からは考えられない」という言い方をしています。
白血病や乳がん、胎児の被ばくも書いてありますが、「いずれも起こるようなものではない」と。それがエフェクトとリスクです。
最後に「今後やるべきこと」をまとめています。これは日本の科学者としては真剣に考えるべきところですが、フューチャー・リサーチとして十幾つ書いています。
ただ、例えば内部被ばくの線量は、今までの実績からいって、もう十数万人ホールボディで測っていますから、もっと測れといってもどうでしょう。

―― あまり意味がありませんか。

長瀧 ですから、報告書に書いてあることをすべてやる必要はない。日本の我々が判断しなければならない、ということです。
今後のことに関しては報告書を参考にしながら日本の科学者がきちっと決めて、理解も得るし、実行もしていくことが必要です。
UNSCEARは一回で終わるのではありませんから、日本の我々の考え方を、将来の報告書に正確に伝えるという努力を考えるべきです。
特に日本の科学者として放射線の影響と、放射線を避けた避難の影響を考える。実際に避難生活をもう三年も続けていて、本当に残念なことに、災害死が増えています。

甲状腺がんが見つかってもすぐに放射線のせいと言ってはいけない

―― 子供の甲状腺がんについては「福島で甲状腺の異常が見つかった」という話もあります。

長瀧 報告書で非常に控え目に、今のようなスクリーニング、すなわち、自覚症状がなく超音波検査を行なわなければわからなかったような甲状腺がんをたくさん拾い出している、ということが書いてあります。スクリーニングでたくさん見つかっています。これが放射線のせいだ、とすぐに言ってはいけない。当然そのとおりです。
福島県の県民健康調査の行動記録で外部被曝(実効線量)が、三ミリシーベルト以下が九〇%で、多く計算しても一〇ミリシーベルトである。そうすると、がんへの影響はほとんど考えられない。それ以外の白血病やほかの病気にしても、そんなに考えられる線量ではない。
「チェルノブイリで子供の甲状腺がんが増えている。だから心配だから検査をしましょう」ということで検査をして多くの甲状腺がんの患者さんが見つかる。そうすると、「放射線の被ばくのせいだ」と思い込んでしまう。そして一生検査をすることになると、検査を受ける全員が、
精神的な影響を生涯負うことになります。それは最もまずい対策だろうと思います。
では、どうすればいいか。
UNSCEARが書いているのは、漠然とした言葉で「対象をきっちりととりなさい」です。要するに、同じ方法でほかの場所で調べてというのですが、例えば広島の原爆の調査を大阪と比べてというようなことは、疫学的に成り立たないと思います。
がんの死亡率は、都道府県別に比べてみても食生活や対策などによって、三〇%も違うのですから。
チェルノブイリのときに一番決め手になったのは、同じ地域で事故の前に産まれた子どもはものすごくがんの患者さんがいたのに、事故の後産まれた子供では一人も出なかった、ということです。
そういうはっきりした差が出たので、線量相関はわからないまま「甲状腺がんは事故のせいである」となったのです。

―― なるほど。

長瀧 今回もチェルノブイリと同じような調査ができて、一〇年目や一五年目で「ある」「なし」ということを決める。そのためにUNSCEARの報告書で言っているのは「被ばくした人たちを、どういうグループと比較するかというコントロールを決める」ということです。コントロールの取り方は、我々が考えなければなりません。
もう一つは、被ばく調査の基本中の基本である線量との相関です。

―― それはどういうことですか。

長瀧 つまり、どのぐらい被ばくしたらどうなるかということですが、福島のアプローチは、まだ線量相関まで見るようなものではないということです。
まず、コントロールというときに、遠くの地域ではなく福島県内でコントロールを選ぶことが大切です。
コントロールの決め方の議論が今後の大きな課題です。

―― ではどうすればよいのでしょうか。

長瀧 住民の心配を取り除くということと、そのためにも科学的に放射線被ばくとの因果関係があるのかないのかを調べる、そんなことを今後の方向の基本として考えなければいけないのではないでしょうか。

―― そうですね。

長瀧 今回、放射線の影響についてUNSCEARの報告書が国際的なまとめとして出てきました。
では、どうするかということの出発点です。このUNSCEARの発表はものすごく大事ではないでしょうか。
放射線の影響がこの範囲だ、ということですね。「わからないから怖い」ということに対して「ここまでわかったんだ」ということで、「放射線がわからないから怖い」と言いながら被ばく関連死で亡くなっている人たちのことをもっともっと真剣に考えなければいけない。
チェルノブイリのときにWHОは「最も大きな健康への影響は精神的な影響である。その精神的な影響というのは、臨床的な精神病ではない。あらゆる精神的な負担に耐えかねて自立できなくなっている人たちが一〇〇万人もいるというのが一番大きい」ということを書いていたのですが、UNSCEARではなくなってしまった。今回も同じように「触れない」と書いてある。

―― 今回は「触れませんが、問題である」というふうに書いていますね。

長瀧 そうです。
かなりはっきりと書いてあります。先ほども言いましたように、「公衆においては、うつ症状や心的外傷後ストレス障害に伴う症状などの心理的な影響が観察されており、今後健康に深刻な影響が出てくる可能性がある」と書いてあります。そしてその影響が、チェルノブイリのように「その精神的な影響というのは、臨床的な精神病ではない。あらゆる精神的な負担に耐えかねて自立できなくなっている人たちが一〇〇万人もいるというのが一番大きい」という状態になってしまう可能性があります。
チェルノブイリのようにならないように、福島では、今から被災者に身を寄せ、一緒になって被災者の方々が自立できるように力を尽くすことが大切なように思います。
国全体がもっともっとさまざまなことを、考えなければいけないのではないでしょうか。
例えば、事故により被災者の人々の雇用の場がなくなってしまって、地元に戻ってもどうやって将来暮らしていくのか。簡単に言うと、そういう状況にならないように、どうやって国全体として考えるか。そういうことは我々の専門から外れますが、住民の健康を考える上で大切なことだと思います。
今、人が入れない区域もあるでしょう。それが本当に動かせないことなのかを考え直すことも大事なことではないかと思います。避難地域は地上一メートルにおかれたメーターの値を基にいろいろな仮定にしたがって計算して一年間あたり二〇〜五〇ミリシーベルト、五〇ミリシーベルト以上と分けられています。
しかし、二〇〜五〇の範囲という飯舘村で個人被ばく線量計で測ったら、大人で作業している人で一〇ミリシーベルトくらい、子供だったら、個人被ばく量は三ミリシーベルトしかなかった。非常に大きな差がある、あるいは少なくとも大きな差がある可能性があることが報告されています。
将来に向けて住民との対話を中心に、もっと幅広く様々な可能性について、基本は被災者の健康維持として議論しなければいけないように思います。

(一部 抜粋)

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