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記事にそっくり「ネイティブ広告」 定まらぬ線引き
ブロガー 藤代 裕之

2014/7/18 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 「ネイティブ広告」という新たな広告手法が、広告業界やネットニュース業界で注目を集めている。新たな収益源として期待が高まる一方で、広告主が料金を支払って制作する記事広告と同じではないか、読者にとって通常の記事と区別がつきにくく記事の信頼性を低下させるのではないか、など、問題点を指摘する様々な意見が飛び交っている。

■読者に広がる不信感

IABが制作した「ネイティブアド・プレイブック」に掲載されている6分類

IABが制作した「ネイティブアド・プレイブック」に掲載されている6分類

 「消費者が広告と気付くようにしなければいけない」。6月、口コミ業界団体WOMマーケティング協議会(WOMJ)が、ネイティブ広告に関するイベントを行った。アメリカのネット広告に関する協議会「Interactive Advertising Bureau」(IAB)が制作した「ネイティブアド・プレイブック」を社内プロジェクトで翻訳したDACの永松範之氏は、「消費者が広告と気付くように十分な大きさと視認性があること。文脈にかかわらず消費者が広告と媒体社が編集したコンテンツを区別するようにすることなど、広告明示についてはIABのプレイブックでも、しつこいほど繰り返されている」と説明した。

 ジャストシステムの調査では、ネイティブ広告に「ストレスを感じる」人が66.7%、「嫌悪感・不信感」を持つ人が65.0%いるほか、77.3%の人が「だまされた気分になる」と回答している。アメリカでは、老舗オピニオン誌「アトランティック」やニューヨーク・タイムズがネイティブ広告を導入した際に、読者から批判を浴びて「炎上」した。このような不信感の理由はネイティブ広告のあり方そのものに起因する。

 永松氏は、「ネイティブ広告の定義は一言であらわせないが、広告主や媒体社がサイトの一部として違和感がないと感じる広告を届けること」として、IABプレイブックに掲載されている6つのカテゴリーに分類を紹介した。

 例えば、「インフィード型」は、フェイスブックのニュースフィードやツイッターのタイムラインに広告が表示されるもの。「ペイドサーチ型」はグーグルやヤフーのように検索結果に連動して表示される広告、「カスタム型(その他)」には、LINEのスタンプも含まれる可能性がある、とした。

 永松氏は「広告概念という意味合いが強い」とまとめた。ADKのストラテジック・プランニング本部商材開発室長で、WOMJ理事も務める井上一郎氏は、「記事広告ではなく広告枠であり、出稿システムだ」と説明する。定義はアメリカでも定まっていない状況だが、媒体やプラットフォームが提供する記事などと一体化しているからこそ、誤解や不信感が生まれやすいといえるだろう。

■注目される理由

 媒体の信頼性が低下する危険性がありながら、なぜネイティブ広告に参入が相次ぐのか。それは市場の拡大にある。

 アメリカではネイティブ広告の市場は、2012年に16.3億ドルだったのが、17年には45.7億ドルに成長すると予測されている。さらに、メディアの収益確保の側面も挙げられる。ソーシャルメディアの拡大によってコンテンツの拡散力が強くなっていることもある。

インフォバーン今田素子CEO

インフォバーン今田素子CEO

 メディア運営会社、インフォバーンの今田素子代表取締役CEOは、「カオスマップ」と呼ばれる広告の流れを表にした図を提示し、「ネットの広告技術によってメディアに落ちるお金が少なくなっている。広告主が支払った金額から、メディアが受け取る部分は20~50%ぐらいに下がっているといわれる。ネイティブアドだとコンテンツ制作側の収入が増える」と指摘した。

 ソーシャルメディアやキュレーションサイトにより、面白い情報が爆発的に広がって行く状況が生まれており、同社が運営する家電やIT系の話題を紹介するギズモードの場合、2013年4月にはほとんどなかったキュレーションサイトからの誘導が最近では半分を占めるようになったことを明かした。

 従来の広告はサイトに人を集めてアクセスを高め、クリックしてもらう必要があった。しかしながら、コンテンツがあらゆるところに拡散するようになると、サイトに集客してアクセスを稼ぐモデルが通用しなくなる。そこで、ソーシャルメディアで拡散できる記事広告が注目されることになる。

LUMA Partners が作成したディスプレイ広告のカオスマップ

LUMA Partners が作成したディスプレイ広告のカオスマップ

 今田氏は、拡散されるためにはコンテンツの質が重要と指摘する。「ソーシャルメディアでシェアされるような設計、ターゲットに合ったメディア選定が重要」とした。ファンがいるメディアだからこそ、ネイティブ広告の意味があることから「ブランド、メディア、オーディエンスの信頼関係が重要」と述べた。

■信頼できる基準づくりを

 定義があいまいなまま注目されたことで、スマートフォンを中心に、多くのユーザーが既に様々なネイティブ広告に触れている状況が混乱を生んでいる。中には、広告表記を小さくしたり、記事タイトルにアプリダウンロードへのリンクを紛れ込ませたり、あえて読者の誤解を生ませて誘導するような手法も見られるようになっている。広告表記を行っていても、「PR」「スポンサードby」「企画広告」など、さまざまで読者には分かりにくい。適切な発展のためには、信頼できる基準作りが求められる。

 このまま、広告表記を明確にしなければ、ステルスマーケティングのように社会問題に発展しかねない。ステルスマーケティングは、プラットフォームサイトが投稿側による書き込みを確認し、適切に運営するのが課題だったのに対して、ネイティブ広告はメディアやプラットフォームそのものが行っていることが多いだけに、信頼低下に直結するだろう。ネイティブ広告は、火種を抱えたまま期待値だけが拡大している。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。


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