川内原発:「周辺住民の意見も聞け」反対署名、半数超

毎日新聞 2014年07月18日 22時47分(最終更新 07月18日 22時50分)

自宅近くから望む東シナ海を「最高の海」と語る冨永さん=鹿児島県いちき串木野市羽島で2014年7月16日、杣谷健太撮影
自宅近くから望む東シナ海を「最高の海」と語る冨永さん=鹿児島県いちき串木野市羽島で2014年7月16日、杣谷健太撮影

 川内原発から南に約8キロ。鹿児島県いちき串木野市羽島地区は東シナ海に面した半農半漁の小さな集落だ。6月初旬、地区に住む元教員の冨永優(まさる)さん(83)は、隣の薩摩川内市にある川内原発の再稼働に反対する署名用紙を手に、集落を一軒一軒訪ねていた。

 旧川内市に原発計画が浮上したのは1960年代。旧串木野市の羽島地区では反対の声が強く、冨永さんは仲間と川内市内で反対運動を繰り広げた。「海が汚染されると思った。『原子力の平和利用』と言われたが安全だとは思えなかった」。頭にあったのは、54年にアメリカの水爆実験で被ばくしたマグロ漁船「第五福竜丸」事件のことだった。周囲には漁業で生計を立てている人も多く、人ごとと思えなかった。

 しかし、84年に1号機の運転が始まり、串木野市民も雇用などで恩恵を受けるようになると、いつしか原発反対の声を上げる人たちは減っていった。再び表立って反対の声を上げる人たちが増えてきたのは、福島第1原発事故の後だ。「絶対再稼働はいかんぞ」。用紙を手渡すと、そう言いながら署名する人たちがいた。

 原発からいちき串木野市までは最短で約5キロ。有志によって集められた署名は、同市の人口(約3万人)の半数を上回る1万5464人分に上り、6月24日、市長宛てに手渡された。

 だが、市民の過半数が反対しても、現状では同市が再稼働判断に関与できそうにない。再稼働に前向きな伊藤祐一郎知事が県と薩摩川内市の同意で足りるとの姿勢を崩していないからだ。

 福島の事故は、被害が立地自治体にとどまらないことを明らかにした。「なぜ再稼働を急ぐのか。周辺住民の意見も聞くべきだ」と冨永さんは憤る。【杣谷健太】

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