横綱に初挑戦で金星を挙げファンの女の子にキスをする大砂嵐=愛知県体育館で(川柳晶寛撮影)
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◇名古屋場所<5日目>
エジプト出身の平幕大砂嵐(22)=大嶽=が横綱初挑戦で鶴竜(28)=井筒=を逆転のすくい投げで破り、金星を挙げた。初土俵から15場所目での初金星は、年6場所制となった1958年以降では14場所の小錦に次いで2番目の速さ(幕下付け出しを除く)。鶴竜は初黒星。横綱白鵬は嘉風をはたき込んで全勝を守った。横綱日馬富士は豊真将を押し倒し、連敗を免れて4勝目。
鶴竜を土俵にたたきつけるようなすくい投げ。大砂嵐のパワーが鶴竜のうまさを打ち砕いた。
2012年春場所の前相撲からわずか15場所目の初金星。それも、昨年春場所の千代大龍以来となる、横綱初挑戦での初金星だ。元大関小錦の14場所目に次ぐ史上2位のスピード記録。「気にしてなかった。いい相撲を取りたかった」と笑顔を浮かべた。
相手が横綱であろうと、自分のスタイルは貫き通す。右からのかち上げだ。上位に対するかち上げには賛否両論あるとしても「いつも通りかち上げ。変わらず、自分の相撲」。その意気込みが、鶴竜に立ち合いの迷いを生じさせたのだろう。
風邪をひき「熱もちょっとあった」と言う。引き揚げてきた支度部屋では何度もせき込んだ。ラマダンによる断食中は飲食同様、風邪薬を飲むこともできない。風邪はクーラーが一因かもしれないが、湿度の高い日本の夏では「ないと我慢できない」。ギリギリのところで体調管理をしなければならない。
取組前の食事は午前3時ごろが最後。「食欲がなかった」と、バナナとヨーグルトを少し。水分も多く取ることはできなかった。
角界では横綱は神様。もちろん大砂嵐もそれは理解している。「横綱は神様だけど私はイスラム教徒。私にとって神様はアッラーしかいない。でも、横綱は相撲界で一番の人」と敬意を表する。場所入りする前に部屋で、「自分がけがをしないようにだけじゃなく、横綱もけがをしないように」と鶴竜のことも一緒に祈った。
そんな大砂嵐に、神様もラマダンの場所で金星を与えてくれたのかもしれない。6日目も横綱日馬富士戦。1場所での金星2つ獲得は、03年九州場所の栃乃洋が最後だが「まだファイブ デイズ(5日目)」。そう言って表情を引き締めた。 (岸本隆)
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