近年の映像ソフトの定番・パッケージといえばDVDかBlu-ray(ブルーレイ)。だが、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(以下ディズニー)のソフトには「MovieNEX」と書いてある。このMovieNEXがどんなものなのか、分からない人も多いだろう。
ディズニーは2013年にリリースした『モンスターズ・ユニバーシティ』から、日本でもこのパッケージ・スタイルでのリリースを戦略的に続けているが、残念ながら認知度はいまひとつ。しかも、1タイトルで4000円という価格設定は一般的な新作洋画DVDソフトに比べると少々高めとあって、なかなか浸透しなかった。
しかし2014年7月16日に発売された『アナと雪の女王 MovieNEX』は、さすがに全世界興収12億ドル(約1219億円)、日本国内興収200億円突破し上半期最大のヒット作となった映画の映像ソフト版だけあって、予約段階で115万本を突破しており、一気にこのパッケージスタイルが広まる可能性が高くなってきた。
MovieNEX=「ソフト全部盛り」
MovieNEXは簡単にいうと「ソフト全部盛り」だ。本編と特典映像全編収録のBlu-ray(ときに2枚組)、本編と特典映像の一部が収録されたDVD(1枚)、本編をタブレット端末などのデジタルデバイスで観ることができるクラウド対応のデジタルコピーアクセス権(※)、それに「MovieNEXワールド」と呼ばれるユーザー専用ウェブサイトへのアクセス権(※)が同梱されているパッケージのことを指す(※このアクセスのパスワードを「Magicコード」と呼ぶ)。
正直、本編を観る方法が3つも入っていることを「ムダ」と感じる人も少なくないだろう。だが、これにはファミリー層に愛される作品を無数に所有するディズニーならではの戦略がある。
ブルーレイとDVDを同梱するのは“子ども対策”
まずブルーレイ。これは「メインの大画面テレビ・保存バックアップ用」という位置づけで、想定ユーザーは大人。現在一般流通する映像ソフトの中でもっとも画質・音質が高く、容量が大きいこともあり、高画質の本編はもちろんだが特典映像もすべて収録が可能だ。
ここで気になるのが、同じ本編を収録したDVDとのすみ分けだが、ディズニーではDVDを「子供部屋用・普段使い用」という位置づけにしているのだ。これは、ディズニー作品が子どもにも訴求力の高い作品が多く、購入した映像ソフトを子どもが手荒くあつかって物理的に劣化させることは容易に想像できる。それだけに、これまではお目当ての映画の映像ソフトを新発売時には購入せず、廉価版を待つという人もいたほどだ。
そこで、本編と最小限の特典映像を収録したDVDを、スペアとして同梱し、Blu-rayとの差別化をはかったわけだ。これはファミリー層だけでなく、オーディオ&ビジュアルファンのハイエンドユーザーにとってもうれしいことで、ソフトの特性に応じて使い分けできる利点もある。
これは予測にすぎないが、このパッケージ・スタイルの今後の活用法としては、ハイエンドユーザーにはうれしい青写真も見え隠れする。
MovieNEXによって、既存の動画配信サービスを経由せずに独自の配信ができることで、製作側が求めるクオリティーの映像を配信していくことが可能だ。これは現状ではあまりギャップを感じないだろうが、今後の映像スタンダードが4Kに移行した際に、巨大な映像配信サービスでの対応は即座に移行できるとは考えにくい。そこで、ディズニー独自の映像配信路を持つことで、4Kへのスムーズな移行が可能になる。
それだけではない。ディスクに関して、現行MovieNEXはブルーレイとDVDが同梱されているが、ひょっとすると次世代ブルーレイ+DVDというスタイルに変わるかもしれない。「MovieNEXを買えば全部入ってる」というイメージ浸透がうまくいけば、ソフトの仕様にこだわるハイエンドユーザーに対するアナウンスは、「MovieNEX」というレーベル名1つでOK。次世代ブルーレイ、ブルーレイ、DVDが混在する市場になったときに、「視聴環境を網羅した全部盛りでお得」というブランディングが生きてくるわけだ。