81.3 FM EVERY SATURDAY 19:00-19:54
旅を始めようとする人、旅を終えた人。
出会いと別れが交差する、週末のエアポート今日も大きな荷物と夢を、両手いっぱいに抱えた旅人たちがここから旅立とうとしています。
ロンドン、パリ、ニューヨーク、上海… 貴方もまた、ラウンジで旅のアペリティフを傾けながら、これから向かう彼の地へと思いをめぐらす。
搭乗ゲートの、その先にあるのは…世界。 貴方が羽ばたく空の向こうにあるのは…地球
さあ、今、想像の翼を広げて…皆様を空の旅へとご案内します。
インターネットとか電話が発展して、実は逆に実際に人と会って話し合う事の価値が高まってるような気がしてまして。(水野)
水野さんとは今年、ロンドンから東京に来る機内でお会いして、その後ロンドンで食事させて頂いてたりしてるんですけど、投資会社にお勤めで経済が専門でいらっしゃいますが、お勤め先のコラーキャピタルという投資会社で、水野さんはどういったお仕事をされているんでしょう?
会社はロンドンが本社の、プライベートエクイティ(未上場企業)を対象に投資をしているファンドなんです。日本も含む世界中の年金や機関投資家から約1兆円程お預かりしておりまして、それを世界中のベンチャー企業から成熟企業にまで、幅広く投資をしていて、お陰様で2年連続ヨーロピアン・ベンチャー・キャピタリスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれて、私はその会社のパートナーで、世界中の全ての投資に責任を負ってるんです。パートナーは言ってみれば役員みたいなもので、欧米の場合、プロフェッショナル・ファームと言われる弁護士事務所や投資顧問会社の場合、パートナーシップといって個人としてやってる所が多いんですけど。そのパートナーの中で私が唯一アジア人ということもありまして、私共のアジアのビジネスについては一義的に私が責任を負っている形になっていて、私と何名かのパートナーで投資決定をしていくということになりますね。
簡単に言うと、ここに1兆円という金があります。これをどこの会社にどう投資するかということを、水野さん自身が世界中の色んな会社をリサーチしながら、最終的な決定権をもお持ちであると。そういう大きなお金を動かしていると、勿論成功する場合もうまくいかない場合もある訳で、そのリスクをいつも背負っていなきゃいけないプレッシャーというのは絶対あるでしょうね。
お客様の殆どがアメリカや日本の年金基金ですので、そういう意味では全世界の皆さんの老後の資金をお預かりしているという気持ちは常に持ってやってますね。プレッシャーに関して言えば、スポーツ選手の方や葉加瀬さんの仕事も同じだと思うんですけども、失敗したらその倍で取り返すと。
一緒かどうかはちょっと分かりませんけど、結局はそういう事になりますか(笑)。色んなタイプの投資会社があると思いますが、違う点というのは?
未上場企業への投資という所ですね。今、普通の株式はインターネットさえ使えば世界中どこにいても、居間から会社を買ったりが出来るんですけども、未上場という事は株式市場にありませんので、結果的にその会社を持ってる方々に直接当たって、買い取りをしていかないといけないんですよね。それで、しょっちゅう機内の人になってしまうと(笑)。
実際、年間の内どれくらい旅されてるんですか?
昨年は180日位飛んでおりました。
この間もメールしてたら「今ボンベイ(ムンバイ)です。明日は札幌で東京に一瞬だけ居て、次の日は香港です」みたいな(笑)。よくそれだけのエネルギーをお持ちですよね。
インターネットとか電話が発展してフェイス・トゥー・フェイスというか、面と向かってコミュニケーションする価値が下がるかなと思ってましたら、実は逆に実際に人と会って話し合う事の価値が高まってるような気がしてましてね。出来る限り、電話やビデオで済む時も、実際に会ってニュアンスを確かめたいという気持ちもありますので、フライトというか出張の回数は増えている感じですね。
“My word is my bond.”、つまり「私の言葉が契約書だ」という言葉がシティーにはありまして。(水野)
金融、投資…お金に関する世界の中心と言ってもいいロンドンに、単身で乗り込んだきっかけは、どんな事だったんですか?
コラーキャピタルに入る前は日本の銀行にお世話になってまして、銀行の職務の一貫として投資業務を行っていく内に、どうしても日本の文化と私がやりたかった投資の文化の親和性が高くないんじゃないかと思うようになったのが一つと、サッカー選手がヨーロッパを目指して野球選手がアメリカを目指す様に、金融の世界でやっていこうと思えば、最終的にはNYのウォールストリートかロンドンのシティーのどちらかに行かないと面白くないんじゃないかなと思いまして。
その決意みたいなものは人生のいつ頃だったんですか?
投資の世界が私には一番向いているかなと思い出したのは、30代前半から中盤位だったんですけど、丁度30代半ば位から日本の銀行の駐在員としてNYにおりまして、ウォールストリートの世界のトップの人達を目の当たりにして、この人達とやりたい気持ちが段々抑えられなくなったもんですから、駄目でも3年は頑張ってやってみるかと(笑)。40になってからの3年はきついですから37才位で、という感じでした。実はかなり出来るんじゃないかと勝手に思い込みまして(笑)。日本の銀行には周りの外国人も非常に優しかったもんですから、英語も結構出来るんじゃないかと、これも結構思い込みましてね(笑)。
その頃はもう随分と英語の勉強もされてたんですか?
はい。2年間シカゴのノースウェスタン大学にMBAの勉強に行かせて貰えましたので、その後NY勤務で行った時はある程度出来る状態だったんですけど、ロンドンに行って殆ど分からなかったのは衝撃でしたね。働いているアメリカ人も日本人向けに易しく話してくれていて、分かり易く言ってしまうと我々がウォールストリートにとってお客さんだったんですね。非常に親切に話してくれていたもんですから、私の思い込みを生んでしまいましたね(笑)。
でも逆に、その思い込みがあったからこそ、行こうと思えたんでしょうね。
そうですね。タイミングとしては良かったんでしょうね。英語に関しては最低限の所までは努力をせざるを得ないんですけども、ある程度に達すると、今度はクオリティーの問題になってきますので、どちらも同時に高めていかないと。ただ先程の思い込みで申し上げると、持ってるクオリティーは絶対負けてない筈だという気持ちはありましたね。そう思ってないとちょっとやってられないです。
確かに。日本にも色んな金融の会社やシステムもありますよね。ロンドンでお仕事されている水野さんから見て、違いを痛切に感じる部分はありますか?
やはり金融や投資に関して、特にイギリスは非常に長い歴史がある中で、そういった業務が国民生活にどう結びついてるかが非常に明確に確立されているので、中で働いてる人達がプライドを持ってやってるという事です。特にNYに比べると、ロンドンにはヨーロッパのプロフェッショナルが集まってくるんですよね。最近は実はアメリカの金融機関が入ってきて、かなりロンドンの方も変わってきたんですけども、私が最初にロンドンに行った時は年配の金融マンから、ロンドンの金融市場では契約書は余り要らないんだと。“My word is my bond.”、つまり「私の言葉が契約書だ」という言葉がシティーにはありましてね。
かっこいい!
「契約書なんて無粋なものは、アメリカ人みたいな紳士じゃない奴が作るモンなんだ」と言われて非常に格好いいなと思ったんです。最近はやっぱりアメリカの文化というか、グローバリゼーションの必然ではあるんですけども、時には昔のシティーの金融マンの哲学みたいなやつが所々に感じられて、やはりウォールストリートよりシティーを選んで良かったなと思いますね。
かなり厳しい交渉になった時、私は敢えて沈黙するんですよ。いざという時に黙れるのは、日本人の強みと言える特色じゃないかなと。(水野)
日本人は根底に農耕民族的な発想があるので、それは弱みだと感じますね。投資の世界は基本的に肉食、狩猟の世界なので、そこに草食で行こうとすると象にならないと生存していくのが難しいです(笑)。文化的に背負ってるものの違いが時々金融に関して弱みに出ますけども、でも強みもあって、沈黙に耐えられるという事ですかね。
沈黙に耐えられる?
日本人は忍耐力が強いと思うんですね。私はどちらかと言うとお喋りですが、欧米人は基本的に誰かが何か言えば必ず何かを返す。逆に「返さない人は意見が無いんだ」みたいな文化で育っているので、かなり厳しい交渉になった時、私は敢えて沈黙するんですよ。これはかなり先方に威圧感というか不快感を与えるらしくて(笑)。明らかにうちが劣勢だなという時にその手を使って空気が変わるのを何度か体験してます。ただ、よくあるのは「日本人って黙ってニコニコしてて、何を思っているのか分からない」と、これだけじゃ駄目なんですよね。説明力は必要だと思うんですけど、いざという時に黙れるのは、日本人の強みと言える特色じゃないかなと。
なるほど。あと前にお話を伺ってとても興味があったのは、金融の世界をスポーツで言うと、野球ではなくサッカーなんじゃないかという。
はい。野球とサッカーを比べると、野球は色々監督が指示通り動かせて、サッカーは動き始めたら監督は大声で叫んでるだけだと思ってたんですね。ただ不思議に思ってたのは、野球よりもサッカーの方が、監督が責任をとって直ぐクビになるんですよ。元々野球が大好きなんですけど、ロンドンに行ってサッカーを見るようになって、あることに気付いたんです。各局面で、選手個人の力量と時々の現場での判断に任せる余地が大きいだけに、監督が全体のフォーメーションとかを明確に指示を出さないと滅茶苦茶になるんですよね。逆に野球であれば、ピッチャーとバッター、飛んだ球に対して野手と、一対一の局面が多いので、実は指示がなくても出来るって事じゃないかなと思い始めまして。これはビジネスにも使える気付きだったんですけども、金融はやはりスピードが勝負で、プロフェッショナルがその場で判断していかないと大変な事になるんですが、そういう場合であれば、マネージメントとしては、きっちりフォーメーションをとっていかないと、滅茶苦茶になると。非常にサッカーに近いんだなと。
私が何よりもロンドンの強みだと思ってるのは、グリニッジ標準時を持ってることなんです。(水野)
日本の資質の多くを占める島国根性的なものは、イギリスも同じ様な地理的条件なんですが、やはり違う部分もありますよね。
日本の経済規模が3~4位に落ちると聞く時にいつも思うのは「いや、イギリスなんてもっと昔から落ちてますが、かなり発言力を維持したままですよね」と。やはりイギリスから生まれた学問って植民地経営由来の物が多く、異文化をどうマネージしていくかの研究が、学問として進んでるんです。ここが日本人の弱い所で、日本人に良いプロフェッショナルがいなければ外国人を雇えばいいとよく言われますが、じゃあその外国人を誰がマネージするんだという話で、イギリス人はそこが上手いんです。
ロンドンに行って一番思うのは、なんて外国人の多い街だろうってことですもんね。
思いますよね。実はNYよりロンドンの方が多様性はあると思います。アメリカは人種的には分散してるんですが、全員の共有する価値観が割と画一的だと思うので、アメリカのルールでやりたい人はどうぞ、というオープンネスはあって、イギリスの場合は、割と別の価値観の人もどうぞそのまま居て下さいという懐の深さがあると思うんで、そこにイギリスの底知れぬ力を感じますね。
僕も一番そこに惹かれてると思うんですよね。
最初アメリカ人と比べた場合、最初はイギリス人の方が冷たく感じるんですよね。アメリカはアメリカ人への成り方を教えてくれる人が一杯来るんですが、イギリス人の場合は「日本人が来たんだね」という、ある意味聖域を崩さない所があって、外人は外人として生きていける感じがしますね。私が何よりもロンドンの強みだと思ってるのは、グリニッジ標準時を持ってることなんです。朝一番で東京、香港に電話をして、夕方帰る頃にはもうサンフランシスコに連絡がつく訳です。特に私共のように金融のビジネスをしていれば、世界中のメジャーな金融マーケットは、ロンドンのマーケットが開いてる時間内にカバーできるんです。この便利さは何ものにも代え難いと。
「Sir、サイズなんて言われたら、私の30年の仕事の価値が無くなるじゃないですか。私にお任せ下さい」と言われてグッと来ましたね。(水野)
ロンドンではどんな所をお勧めして下さいますか?
本当に良いところが沢山あると思うんですが、特に中年の男性の方には老舗の紳士用品店が建ち並ぶジャーミンストリートに行って頂きたいと思いますね。
格好いいよね。物買わなくても良いですよね。歩いて欲しいですよね。
はい。靴屋とかシャツ屋さんでもいくつもありますけど、髭剃りの道具だけ売ってるお店とか、そこに入られたら是非年配の店員さんを探して頂いて、やり取りを楽しんで頂けたらなと思うんですね。私が初めて王室御用達の靴屋に入った時に、年配の店員さんを捉まえて見て貰おうと思った時に、「私のサイズは…」と言いかけたら、「Sir、サイズなんて言われたら、私の30年の仕事の価値が無くなるじゃないですか。私にお任せ下さい」と言われてグッと来ましたね。
素敵!そういうことですよね!
そういうプロフェッショナリズムを感じられるんで、用が無くてもぶらついて。紳士服ってやはりイギリスかイタリアだと思うんですが、ロンドンは元祖の強みをやはり感じますよね。
多少履くのが辛くても、ああいう靴は馴染んでいくまでの時間を楽しめて僕も大好きです。
あとは、私はビートルズが好きだったもんですから、やはりアビーロードがいいんじゃないかと。普通の横断歩道なんですけど、近所に住んでいて、しょっちゅう通ってるんですが、何百回通っても見ちゃうんですよね。運転しながら危ないなと自分でも思うんですが(笑)。本当に普通の横断歩道なんですが、見ざるを得ない感じがしますね。
最後に、水野さんにとっての旅とは何ですか?
私の場合、普段は単なる移動なんですね。ただ、その中で、思いもしなかった発見を私に与えてくれる物、ですかね。