早大教授の1人として [生き方について]
昨日、一連の騒動に連なる、早稲田大学大学院理工学研究科にかつて提出された博士論文に関する調査委員会の報告が公表された。
これを受けて、早稲田大学教授たる者として述べる。
1.早大生・大学院生の諸君へ
たぶん、君の先生は厳しいと思う。 もし、これまでそうでない印象を持っていたとしても、今回の件を機に、少なくとも学問については表面的にも厳しい態度を取られることがあるだろう。今まで以上に学業に専念してもらいたい。
大学からそれぞれの世界へ出て行ったとき、もしかしたら「早大出だからダメだ」と言われてしまうかも知れない。そんなときには是非そうした意見を蹴飛ばしてもらいたい。諸君個々を見ずに「早大出だから」という言い方をする人は、実はその人自身が自分で諸君について判断する力が無い人だ。
そして諸君がそれぞれの世界で活躍してくれることが「早大ブランド」を高めるための唯一の方法である。
2.校友の諸兄姉へ
「そもそも早稲田には何もしてもらっていない、すべて自分の力で切り開いてきた」という古き佳き時代は遠いものとなった。第15代・白井克彦総長時代から本学は「教育の早稲田」をめざし、さらに2032年の創立150周年に向けた「Waseda Vision150」 の下、先頃再任された鎌田薫総長とともにさらなる改革・発展を期して大学は奮闘中である。
その中途における今回のことについては色々な意見があることは当然のことであるが、少なくとも現教職員の個々は、こうした問題を真摯に受け止め、さらなる前進を続けている。このことだけはご理解いただきたい。
3.関係諸方面各位へ
昨日の委員会報告の発表以降、様々な意見を目にしている。その論調には大雑把に言って2つの流れがあるように思う。
1) 委員会報告の結論とそれを導出する過程に関する問題点について
後述のように、そのことについて私は公に意見を述べるべきでない。まず甘んじて受けることにする。
2) 「だから早稲田はダメだ」という論調について
本学は組織が大きく、ある種の官僚的な匂いを感じることは確かである。本学に赴任したばかりの私には気になる点ではある。今回のこともそんな延長にあるようにも見える。しかし今我々が受けているこの論調は、ちょうど「福島第一原発事故に起因する風評被害」と同じものであると断じざるを得ない。これまで、たとえば本学の政治経済学部は斯界で高く評価されてきた。学位取得に関しても厳しい大学であるとの評を得ている。そんなセクションまでもが今回の件を受けて評価を下げられるとすれば、それは会津産で放射能など検出されない農産物でも「福島県産は危ない」と言われてしまう「風評被害」と同等である。このことについて我々は、今まで通り、いや今まで以上に襟を正して活動し、正当な評価を受けられる時まで頑張っていく。
「早稲田はダメだ、うちは違う」というご意見も聞く。確かにそう言っておられる方ご自身はきちんとしておられることと思う。所属の学科・学部・大学全体がそうなのかもしれない。だが日本全体で見ればこれは早稲田だけの問題とは言えないのではないか。特にお上の施策で大学院がふくれあがっているのが現状である。是非これを他山の石として、各大学が襟を正していただきたい。
4.自分自身の立場・考えについて
昨今は個人の意見を公にすることが容易である。もちろん本ブログ・本記事もその流れである。今この場で、世間の流れに乗って「そうだそうだ、早大調査委員会はけしからん、早大執行部はけしからん」などという意見表明をし、「自分だけは違いますよ」というスタンスに逃げればとりあえず安息を得られるように見える。しかしそのような態度を私は諒としない。それならば職を辞すべきである。自分が赴任する前に、しかも自分の所属するセクションではないところで起きたであるにせよ、現に早大の禄を食む者としてそのような発言は慎みたい。学内ではそのような意見を強く述べても良いが、学外に向かって言うべきこととは思わない。早稲田の代表と見做して私にぶつけられる外部からの意見に対しても甘んじて受ける。基本的に個々の意見に反論するつもりはない。
今回の調査報告を見て、大学としての最終判断は現時点ではまだ出されていないが、私は以下のように解釈している。すなわち
1)当該の件に関する学位授与の取り消しを行ったとすれば、同じ状況が他にもたくさんあり、多方面に大きなトラブルを引き起こすことになる。
2)「この際なのですべての膿を出す」と称して何十人もの人を切って、それで大学ブランドの評判を保とうとするのは、実はトカゲのしっぽ切りに過ぎず、実は大学としてはこれまでの状況を温存してしまうことになりかねない。悪いのは大学側の審査なのに、当該卒業・修了生を処罰するようなこと(*)は社会正義に悖り、すべきでない。
3)残念なことであるが、長年「学生1流・施設2流・教員3流」と言われてもなかなか改革が進まなかったのは、組織が大きいことと、教員個々の精神を尊び過ぎたことにある。むしろ、こうした世間からの批判を受けながら、それを乗り越えるために大学が一丸となってやっていくという決意である。すなわち外圧を利用した大学改革の一環である。
赴任して4ヶ月にしていきなり茨の道ではあるが、教育・研究の現場にいる者として、自分の研究をし、学生の教育をし、そして早稲田ブランドの再興を目指すのみである。
炎上上等。
* 追記: 卒業生・修了生を処罰するようなこと・・・事後的に不利益処分を行うこと と言うべきでしたね。
これを受けて、早稲田大学教授たる者として述べる。
1.早大生・大学院生の諸君へ
たぶん、君の先生は厳しいと思う。 もし、これまでそうでない印象を持っていたとしても、今回の件を機に、少なくとも学問については表面的にも厳しい態度を取られることがあるだろう。今まで以上に学業に専念してもらいたい。
大学からそれぞれの世界へ出て行ったとき、もしかしたら「早大出だからダメだ」と言われてしまうかも知れない。そんなときには是非そうした意見を蹴飛ばしてもらいたい。諸君個々を見ずに「早大出だから」という言い方をする人は、実はその人自身が自分で諸君について判断する力が無い人だ。
そして諸君がそれぞれの世界で活躍してくれることが「早大ブランド」を高めるための唯一の方法である。
2.校友の諸兄姉へ
「そもそも早稲田には何もしてもらっていない、すべて自分の力で切り開いてきた」という古き佳き時代は遠いものとなった。第15代・白井克彦総長時代から本学は「教育の早稲田」をめざし、さらに2032年の創立150周年に向けた「Waseda Vision150」 の下、先頃再任された鎌田薫総長とともにさらなる改革・発展を期して大学は奮闘中である。
その中途における今回のことについては色々な意見があることは当然のことであるが、少なくとも現教職員の個々は、こうした問題を真摯に受け止め、さらなる前進を続けている。このことだけはご理解いただきたい。
3.関係諸方面各位へ
昨日の委員会報告の発表以降、様々な意見を目にしている。その論調には大雑把に言って2つの流れがあるように思う。
1) 委員会報告の結論とそれを導出する過程に関する問題点について
後述のように、そのことについて私は公に意見を述べるべきでない。まず甘んじて受けることにする。
2) 「だから早稲田はダメだ」という論調について
本学は組織が大きく、ある種の官僚的な匂いを感じることは確かである。本学に赴任したばかりの私には気になる点ではある。今回のこともそんな延長にあるようにも見える。しかし今我々が受けているこの論調は、ちょうど「福島第一原発事故に起因する風評被害」と同じものであると断じざるを得ない。これまで、たとえば本学の政治経済学部は斯界で高く評価されてきた。学位取得に関しても厳しい大学であるとの評を得ている。そんなセクションまでもが今回の件を受けて評価を下げられるとすれば、それは会津産で放射能など検出されない農産物でも「福島県産は危ない」と言われてしまう「風評被害」と同等である。このことについて我々は、今まで通り、いや今まで以上に襟を正して活動し、正当な評価を受けられる時まで頑張っていく。
「早稲田はダメだ、うちは違う」というご意見も聞く。確かにそう言っておられる方ご自身はきちんとしておられることと思う。所属の学科・学部・大学全体がそうなのかもしれない。だが日本全体で見ればこれは早稲田だけの問題とは言えないのではないか。特にお上の施策で大学院がふくれあがっているのが現状である。是非これを他山の石として、各大学が襟を正していただきたい。
4.自分自身の立場・考えについて
昨今は個人の意見を公にすることが容易である。もちろん本ブログ・本記事もその流れである。今この場で、世間の流れに乗って「そうだそうだ、早大調査委員会はけしからん、早大執行部はけしからん」などという意見表明をし、「自分だけは違いますよ」というスタンスに逃げればとりあえず安息を得られるように見える。しかしそのような態度を私は諒としない。それならば職を辞すべきである。自分が赴任する前に、しかも自分の所属するセクションではないところで起きたであるにせよ、現に早大の禄を食む者としてそのような発言は慎みたい。学内ではそのような意見を強く述べても良いが、学外に向かって言うべきこととは思わない。早稲田の代表と見做して私にぶつけられる外部からの意見に対しても甘んじて受ける。基本的に個々の意見に反論するつもりはない。
今回の調査報告を見て、大学としての最終判断は現時点ではまだ出されていないが、私は以下のように解釈している。すなわち
1)当該の件に関する学位授与の取り消しを行ったとすれば、同じ状況が他にもたくさんあり、多方面に大きなトラブルを引き起こすことになる。
2)「この際なのですべての膿を出す」と称して何十人もの人を切って、それで大学ブランドの評判を保とうとするのは、実はトカゲのしっぽ切りに過ぎず、実は大学としてはこれまでの状況を温存してしまうことになりかねない。悪いのは大学側の審査なのに、当該卒業・修了生を処罰するようなこと(*)は社会正義に悖り、すべきでない。
3)残念なことであるが、長年「学生1流・施設2流・教員3流」と言われてもなかなか改革が進まなかったのは、組織が大きいことと、教員個々の精神を尊び過ぎたことにある。むしろ、こうした世間からの批判を受けながら、それを乗り越えるために大学が一丸となってやっていくという決意である。すなわち外圧を利用した大学改革の一環である。
赴任して4ヶ月にしていきなり茨の道ではあるが、教育・研究の現場にいる者として、自分の研究をし、学生の教育をし、そして早稲田ブランドの再興を目指すのみである。
炎上上等。
* 追記: 卒業生・修了生を処罰するようなこと・・・事後的に不利益処分を行うこと と言うべきでしたね。
2014-07-18 07:59
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