票の入った段ボール箱が保管されていた市役所地下1階の書庫=高松市役所
投票用紙を保管するダンボール箱。ガムテープを貼った後、票数を書いた紙をのり付けし、立会人らが割り印を押す
昨年夏の参院選比例区の開票事務をめぐり、高松市職員ら6人が票を不正に操作したとされる事件。白票の水増しに始まり、自民党の衛藤晟一氏の同市内での得票を故意に集計せず、さらには、票が入った箱を開封し、票の移動などの不正を繰り返していたとされる。真実を隠したままうその上塗りを繰り返した背景に何があったのか。
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●新しい機械導入
「終了時刻が予定より遅れており、職員の焦りも事件発生の要因の一つではないか」。16日の市議会臨時議会。綾野和男市選管委員長は厳しい表情で語った。
ここ最近の選挙は、開票事務の迅速化が求められている。これまでも作業の遅れが目立っていた高松市。昨年の参院選で票の自動読み取り機6台を新たに導入し、時間短縮を図った。
だが、当日は遅れが発生。しかも最終盤に票が合わなくなり、職員らは白票約300票の水増しを決断。その後、未集計だった衛藤氏の票を見つけたが、集計しないまま「ゼロ」で確定させたとみられる。
職員の一人は「新しい機械を入れながら『遅れた』では目も当てられない。水増し後に衛藤氏の票を見つけても、数え直していたら終了はいつになるのか。真相は言い出せなかったのだろう」と推測する。
●最悪のシナリオ
「まじめな人たちばかり」。起訴された職員らの周囲の評判は共通する。票が保管された段ボール箱を開けて行ったとされる3回の不正は、市の内部調査や衛藤氏の支持者が票の再点検を求めた時期、さらには地検の捜査が本格化したタイミングと重なる。
「無計画で始まった不正だったから、つじつま合わせに追われたのでは」との指摘の一方、ベテランの選管職員ら4人が起訴される事態に、ある市幹部は「あり得ないと信じたいが、最悪のシナリオは、同じ不正を過去の選挙でも繰り返していること」とおののく。
●2時間超え利用
票の入った段ボール箱が保管されている市役所地下1階の書庫は、申請さえすれば誰でも出入りが可能。選管職員らは11階の選管事務局に箱を持ち込み、3回にわたり票を移すなど工作を行ったとされる。
市によると、選管職員3人は、参院選終了後の7月下旬から地検が箱を押収する今年2月までに11回書庫に入っていた。昨年8月7日だけは2時間を超えて利用。市関係者は「この際に箱を探し11階に運んだのだろう」とみる。2回目の工作を行った同9月には書庫を訪れた記録がなく、持ち出した箱をそのまま11階に隠していた可能性がある。
●10年の用紙使用
2回目の工作では、一連のつじつま合わせのため無効票の箱に、未使用の投票用紙を箱に交ぜたが、この際使用したのは2010年参院選のもの。なぜ昨年の参院選の用紙を使わなかったのか。
双方とも見た目はほぼ同じで選挙年が入っていない。ただ、未使用の投票用紙も確定票と同様に票数を記入して保管しなければならず、「時期が古い10年の用紙のほうが、不正が発覚しにくいと考えたのかもしれない」との声も上がる。
ただ、全国では用紙に選挙年を入れている選管が多く、県選管も今夏の知事選から投票用紙に選挙年を入れる方針だ。
●ゼロは変わらず
ゼロ票とされた衛藤氏の高松市での得票。地検の捜査で約312票が投じられていたことが明らかになった。本来数えられるべき票だが、結果は変わらないのだろうか。総務省によると、公選法の規定では開票発表翌日から30日以内に訴訟を起こさないと票は確定する。確定後の訂正は公選法に規定がないため、今回も「変更はできない」という。