あなたの好物は“腸と脳の対話”が決めている

食べものの好き嫌いの科学(前篇)

2014.07.18(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 人は、選り好みをする動物だ。食べものに対する好き嫌いも、個人によって違いがある。肉料理が好きな人もいれば嫌いな人もいるし、野菜が好きな人もいれば嫌いな人もいる。また、同じ麺類でもラーメン派もいれば日本そば派もいる。

 こうした食に対する好き嫌いや嗜好性は、私たち人々の個性を決める要素とも言えそうだ。でも一体、食べものに対する好き嫌いや嗜好性はどのように起きるのだろうか。

 今回は、食の好き嫌いに関する疑問を、大阪大学大学院人間科学研究科の八十島安伸氏に投げかけてみた。八十島氏は、人や動物がどうしてその行動を取るのかを、脳や体の生理のメカニズムの観点から解こうとする行動神経科学を専攻している。動物にとって、生きる上で極めて重要な「食べる」という行為には、とりわけ好き嫌いが深く関わってくるという。そこで八十島氏は、「食べる」という行動を特に研究対象としてきた。

 前篇では、私たち人を含む動物が、どのように食べものに対する好き嫌いを生じさせるのか、その基本的なメカニズムを聞いてみる。後篇では、好き嫌いについて人々の間でよく言われる事例を取り上げ、どのような説明がつくかを尋ねてみたい。

人が「苦さ」「酸っぱさ」を嫌うのには理由がある

──食べものの味に対する好き嫌いは、人によって様々です。好き嫌いはどのように生じるのでしょうか?

八十島安伸氏(以下、敬称略) 味覚の好き嫌いには、まず、先天的なものがあります。味覚のうち、苦味と酸味の2つは、多くの動物において先天的に嫌いな味覚となっています。どちらも、体にとって摂り込むべきでないシグナルとして認識されているのです。

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漆原 次郎 Jiro Urushibara

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


食の安全に対して国民の関心が高まっている。国民が健康を意識しているのはもちろんだが、今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。このコラムでは、日本や世界における食の安全への取り組みを様々な角度から取り上げていく。