日本で「スタートアップの聖地は?」と問えば、おそらく十中八九は「シリコンバレー」という答えが返ってくるだろう。それほど日本にとって起業=シリコンバレーのイメージは強く、実際に今も多くのイノベーションが米西海岸から生まれている。
しかし言わずもがなではあるが、新しいサービスやビジネスの創出に挑んでいるスタートアップは、米西海岸以外にも無数にある。本連載では、欧州を中心に、ロシア、中東、アフリカ地域から世界を変えようとしている起業家を紹介していく。
ネットメディアの普及によって、日本にいながらにして世界のスタートアップ情報に簡単に接することができるようになった。ただし、その中で欧州・中東地域のスタートアップ情報が日本語で提供されている例は少ない。本連載の狙いは、こうしたギャップを埋めることにある。
第1回は、化石燃料エネルギーを使わない電気飛行機を開発、世界一周を目指すスイスのソーラー・インパルスである。
ソーラー・インパルスを理解いただくためには、上の写真をご覧いただくのが早い。
翼幅約72m、総重量2300kg。米ボーイングの大型旅客機「747」を上回る長さの翼には、約1万7000個のソーラー・セルがびっしりと搭載されている。このセルが昼間に太陽光を蓄積し、夜間飛行の動力源となる。昼間に貯めたエネルギーを夜間に使うことで、理論上は24時間の連続飛行が可能となる。
冒険家のベルトラン・ピカール氏がこの着想を得たのは1999年。気球による無着陸地球一周の最短記録を達成した直後だった。その後、構想を具体化すべく2003年から本格的な検討を開始。盟友で、やはり冒険家のアンドレ・ボルシュベルグ氏と二人三脚で「化石燃料を一切使わない飛行機で世界を一周する」という夢の実現を進めてきた。
10年以上に及んだ膨大な調査研究とプロトタイプによるテスト飛行を経て、いよいよ2015年に世界一周に挑む。総予算7000万ユーロの巨大プロジェクトには、地元スイスを代表する大手メーカーのほか、米グーグルやトヨタなどグローバル企業も数多く協力している。
前代未聞のプロジェクトはいかにして生まれたのか。ピカール氏に聞いた。