JEPAセミナー:辞書鼎談 「紙の辞書はもういらない?」
日時: 2014年7月16日(水) 15:00-17:30(受付開始14:30)
場所: 飯田橋:研究社英語センター 地図
料金: 2000円(JEPA会員社は無料)
主催: 日本電子出版協会(JEPA) プラットフォーム委員会、レファレンス委員会●増井 元 氏
1971年、岩波書店入社。30余年にわたり、『広辞苑』『岩波国語辞典』等の辞典編集にかかわる。2008年退任。
●飯間浩明 氏
1967年香川県生まれ。『三省堂国語辞典』編集委員。早稲田大学非常勤講師
●永田健児 氏
2001年に辞書事典のデジタル化を 専業とする株式会社ディジタルアシストを起業。代表取締役。日本電子出版協会レファレンス委員会委員長。
http://info.jepa.or.jp/seminar/20140716
広辞苑と『三国(さんこく=三省堂国語辞典)』
増井元(はじめ)さんが、広辞苑はハブを目指している、と言った。
これを受け、ハブを目指して作られている辞書が実際は、ターミナルになっている現状を憂慮するとは、『三国(=三省堂国語辞典)』の飯間浩明さん。
広辞苑は寿命が長い「新語」をじっくり選定、収載しながら現在は20数万語規模に成長。内容的にも辞書でありながら、事典の要素をも加味しているところが特徴になっている。国語学の成果を普段の生活に橋渡ししようとしている。
『三国』はさらに小型で8万語程度。生活のさまざまなシーンでの、「語義を知りたい」ニーズに応える「ホームドクター」を目指している。国語学の厳密性より「一筆書き」の感得性を重視している。
国語辞書の機能
対照的なふたつの辞書だが、国語辞書はとりあえずの対応をするツールで、そこから先、より詳しい内容へ進むことを前提に作られている、そこまので機能を担うものだ、との認識では共通していた。
それが、「ハブ」という単語に込められた意味。
そして、もう何年も前から日本社会で、辞書を起点にした個々人の意味の深堀り作業が行われることは稀になり、いまでは、国語辞書は最終着地点のターミナル駅でしかなくなっている、というのだ。
デジタル化
辞書のデジタル化は、だから紙がなしえなくっている「ハブ」機能を担うべきだ、という言い方、発想があってもいいのかもしれない。
「見出し語+解説本文」の構造をそのままに、ただデジタル化しても意味がない。
ハブメディアの創造。デジタルの力を駆って。
電子書籍の数ある可能性の中の、ひとつの可能性として、広辞苑や『三国』がその昔実現していた(らしい)、より体系だった、より多彩な意味の広がり、多様な文脈への「橋渡しを実現すること」、があるのかもしれない。
(コネクター)ハブ企業。
2013年9月8日(日)、NHKスペシャル「震災ビッグデータ2 復興の壁 未来への鍵」が放映された。
そこで紹介されたのが(コネクター)ハブ企業という概念、アイデア。帝国データを駆使して浮き彫りになった現象を分析して見出された。
地域を根こそぎ攫って行ったTSUNAMIに人々は立ち竦むしかなかった。しかしその中で、被災地で一早く立ち上がった企業もあった。それらの企業に共通のこととして看取されたのが、(コネクター)ハブ企業との取引関係。
ハブ企業には、コミュニケーション力がある、商品企画力がある、新しいロジスティック・ネットワークを創発する能力がある、信頼の束がある。そしてもっとも重要なのが、全国のネットワークと地元のネットワークを結ぶ結節点にたっていたこと。
ハブメディア
これまで知識と人を結びつけてきた辞書。
3.11とは異なり、ここでは何十年もかけた、ゆっくりした動きであったかもしれないが、実はTSUNAMIが社会を襲い、知の基盤はいまや根こそぎ攫っていかれているのが実態なのかもしれない。もはや、辞書がハブたりえない現実がある。
ならば、知識と人を結びつける、新しいメディアがうまれなければならない。
TSUNAMIが引いた後の、ネットとモバイルの社会実勢に寄り添った、それはメディアでなければならないだろう。
ハブメディアとしての電子書籍。
チャレンジしがいのあるアイデアだ。
たしかにことばによる理解は、「生き」るという経験のごく一部でしかない。けれどもことばが作る「社会」なしに、「生きる」ということはありえない。
21世紀、ことばがデジタルになっていく。
そのことの「社会」や「生きる」への、インパクトを考えてみたい。その時ebookに何ができるのかも。