社説:DNA父子訴訟 時代に合った法整備を
毎日新聞 2014年07月18日 02時31分
DNA型鑑定で血縁関係がないと証明されれば、法律上の父子関係を取り消せるのか−−。最高裁第1小法廷は17日、「取り消せない」とする初めての判断を示した。
民法772条は「妻が結婚中に妊娠した子は夫の子と推定する」(嫡出推定)と規定する。判決は、科学的な鑑定よりも、嫡出推定の規定を優先したものだ。ただし、5人の裁判官のうち3人の多数意見で、2人の裁判官は反対意見を述べた。
明治時代の1898年にできた嫡出推定の規定については、離婚や再婚が増え、多様な家族が存在する社会の実態に合っていないとの批判が強い。時代の変化に応じた民法の見直しの議論を本格化させてほしい。
いずれもDNA型鑑定が実施された裁判の上告審での判断だ。このうち二つの訴訟では、婚姻中の妻が夫とは別の男性の子をそれぞれ2009年に出産。DNA型鑑定で夫と子との間に血縁関係がないことが裏付けられ、妻側が父子関係無効を求め訴えた。1、2審は「嫡出推定の例外とすべきだ」として、父子関係は無効と判断。「法律上、自分の子だ」と訴える夫側が上告していた。
最高裁はかつて、夫の海外出張や刑務所への収容など「明らかに夫婦の接触がない場合」は例外として、「推定が及ばない」と判断した。
だが今回は、子の身分関係の法的安定を保持する必要性を指摘し、「推定が及ばない」例外にも当たらないとして、夫側の訴えを認めた。ただし、裁判官の見解は割れた。
2件のケースで子は現在、母、血のつながった男性と同居中だ。金築誠志裁判官は、そうした事情に触れ「法律上の父が別というのは、自然な状態だろうか」と疑問を投げかけた。また、家裁などで嫡出推定を否定する方向で解決が図られる例が少なくないとの文献があるとして、これらは「妥当な解決を図る目的の運用ではないか」と理解を示した。
養子縁組制度もあり、血縁が絶対でないのは当然だ。一緒に生活する時間や歴史が家族を作る面もある。その点に限れば、最高裁の姿勢も理解できる。ただし、守るべきは子の利益だ。今回のケースも、親子関係を今後どう調整するのか。当事者である大人側の冷静な話し合いが必要だ。
嫡出推定を定めた民法の規定の限界が近年、浮き彫りになりつつある。例えば、ドメスティックバイオレンス被害を受けた妻が、夫から逃れている間に別の男性と知り合い子を産むケースでは、夫と関わるのを嫌い、子供が無戸籍に陥ることがある。
5人中4人の裁判官が、法整備の必要性を個別意見で指摘した。親子関係を決めるための時代に合ったルールを、社会全体で考えたい。