FBI cant holster by Satoshi Maoka

 銃器携帯許可(concealed carry weapon license)を持つ人物や、公的機関の犯罪捜査担当者、治安維持活動担当者が、ハンドガンを服の下に隠して携帯する(隠匿携帯:concealed carry)場合、その手法はいくつかのバリエーションがある。その中で、ホルスターをストロングハンド(利き手)側の腰に付けることがもっとも一般的だろう。  
 ショルダー・ホルスターも良いが、緊急対応速度はどうしても遅くなる。銃を抜くまで手を動かす距離が長いからだ。
 これはショルダー・ホルスターの形式がアップライト(銃口を下に向けた一般的な方式)でもホリゾンタル(銃口が後ろを向く形式)、アップサイドダウン(銃口が上を向く形式)でも共通してある問題だ。
 1980年代にクロスドロウが一時流行した。ホルスターをウィークハンド(利き手ではない方の手)側の腰に着けるというものだ。しかしこれもショルダー・ホルスターと同様の問題がある。またグリップを前に向けて携帯するこれらの方法はもうひとつの欠点がある。敵対者と手の届く距離で対面した際、瞬時にハンドガンを奪われる可能性があるのだ。格闘時は特に注意しなくてはいけない。
 背中側に着けるバックサイド・ホルスターも問題が多い。完全に背中側に隠れているので正面からはハンドガンを携帯していることが気づかれにくいという利点はあるものの、背もたれのある椅子に座った際には非常に使いにくいものになる。寄りかかれば背中に銃が当たって痛い。車に乗っている場合は特に問題だ。バケットシートなどに座ればハンドガンを抜くことができない。
 足首に巻いてパンツの裾で隠すアンクルホルスターは一般的なものではない。すばやく抜くためにはコツがいるし、大きなハンドガンは使えない。細身のパンツでは小さなハンドガンでも隠すことも難しい。足首に重りを着けているようなものだ。けっして快適なものではない。ここに装着したものは、あくまでも緊急用のバックアップでしかない。
 腰より低い位置に着けるタクティカル・ホルスターは特殊部隊装備として一般的だ。ボディアーマーを装着してもハンドガンが邪魔にならないし、腕を下げた状態では手とグリップが非常に近く、ハンドガンを抜く動作は非常にスムーズだ。但し、これは隠し持つことには全く向いていない。
 結局のところ、ストロングハンド側の腰にホルスターを着けることがコンシールド・キャリーとしてはもっとも使い易いということになる。

 コンシールド・キャリーを想定したホルスターはベルトホルスターとかヒップホルスターと呼ばれている。その中には、ホルスターを身体に密着させ腰周りの膨らみを少なくしたスライドベルトホルスターなども含まれる。Yaqui slide, Jak slideといったホルスターもそのバリエーションだ。
 あるいはベルトチャンネルがループではなく、大きなへら状のパドルで腰の位置にとりつけるパドルホルスターというものもある。
 より隠しやすくするために薄いホルスターをパンツの内側に着け、ハンドガンを身体に密着させようとしたインサイド・ザ・パンツ・ホルスターは、ハンドガンをベルトに差し込む感覚に近い。剥き出しで差し込むと、銃を落としたりする可能性があるので、それをサポートする形でこのホルスターは作られた。
 これら腰に装着するコンシールドキャリー用ホルスターは、ベルトとホルスターが垂直に交差するVertical cantと、ハンドガンの収納角度を少し前方傾斜させたFBI cantが一般的だ。実質的にはほとんどがFBI cantだと言っても良い。
 ホルスターの話なのでFBI cantとは有名な警察組織FBIが採用して広まったものと誤解されてしまうかもしれない。
 ここでいうFBIとはFederal Bureau of Investigation(アメリカ連邦警察)の事ではない。Forward Body Incline(前方傾斜体勢)の略でFBIだ。

Safariland 527-83とGlock 19
 ベルトスライドホルスターの典型的デザイン。オープンマズルでスライド、バレルの長さに制約を受けない。デザイン的にも腰に密着し、concealed carryに向いている。但し、抜け落ち防止機能はない。赤いラインはベルトのラインを示している。典型的なFBI cantだ。

 コンシールドキャリー用ホルスターはハンドガンを高い位置に保持していることが普通だ。これはジャケットの下にハンドガンを隠すために必要なことで、この形式のことをハイライド(High ride)キャリーという。
 FBI cantはこのハイライド・キャリーと密接な関係がある。腰の高い位置にホルスターを装着した場合、ハンドガンを抜くには、更に高い位置にハンドガンを持ち上げないといけない。Vertical cantの場合は、真っ直ぐ上に持ち上げることになり、手の位置と角度は非常に無理のある形になる。バレルが長いハンドガンの場合は特に顕著だ。
 それに比べるとFBI cantにすると、斜め前に引き上げることになり、比較的スムーズなドロウができる。
 またVertical cantにすると腰の真横に装着せざるを得ない。垂直にハンドガンを引き上げる関係から、腰の少し後ろにずらして装着すると、ドロウしづらくなる。しかしFBI cantにすると腰の少し後ろにずらしても、ドロウが容易だ。腰の少し後ろにずらしてホルスター装着することは、ある意味で重要なことだ。ジャケットの下に隠す場合、腰の真横にホルスターを装着すると、横に張り出してしまいハンドガンを持っていることがバレやすい。またジャケットの裾が風などで開くと、真横のホルスターは正面から見えてしまう。
 腰のやや後ろ側にホルスターをずらすと、ジャケットの裾がはだけても見えにくいし、ハンドガンのグリップが腰のくびれた部分に収まり、ジャケットで隠しやすくなる。
 ハンドガンをやや傾けて収納することで、大きな長いグリップであっても、比較的隠し易いという意味だ。Vertical cantの場合、グリップが大きく後ろに突き出してジャケットを膨らませてしまう。FBI cantなら突き出し量も少なくなる。

Galco FMP202とBeretta M92FS
 ストラップレスのパドル・ホルスター。テンション・スクリューを締めることで不用意に抜け落ちことを防止している。結果としてかなりタイト・フィットだ。厚い革で出来ているため、ホルスター部分はかなりの厚みができる。Vertical cantに近い。

 実際問題としてVertical cantとFBI cantでどちらの方がドロウスピードが速いかテストした結果のデータを見たことがある。詳細は書けないが、その結果ではVertical cantの方が速かった。しかしテストした人物は通常、Vertical cantで銃を携帯しており、慣れているという問題もある。その差は0.1秒程度であり、この程度の差は訓練次第で詰められる可能性がある。それに、たとえ0.1秒遅くなってもハンドガンを隠すことが優先されるだろう。

Don Hume 74とWalther PPK/S
 ベルトスライドホルスターの一種でグリップ以外の部分を広くプロテクトしている。革も比較的薄く、concealed carryに適している。抜け落ち防止機能はないが、ハンマー部分までプロテクトされている為、簡単には抜け落ちることはない。ベルトループの部分が細く、耐久性に難があるように思われる。FBI cant

 ハンドガンを使う事態は突発的に発生する。何時そのような事態に遭遇するかどうか判らないからといって常に待ち構えているわけにはいかない。座っている状態から瞬時にハンドガンを抜かなくてはならないこともありうる。実際には座ったままドロウするということはまれで、次の事態に瞬時に対応するために瞬間的に立ち上がる。立ち上がれれば問題はないが、立ち上がることが出来ないこともある。
 車に乗っているとき、突発的事態に遭遇することもじゅうぶん考えられる。狭い車内では立ち上がることは不可能だ。ストロングサイドのホルスターはこの時が一番不利な状況に追い込まれる。それでもFBI cantならその角度が有効に作用して多少なりとも抜きやすくなる。 

Ross M8とColt Combat Commander
 南アフリカRoss Gun Leather製ベルトスライド・ホルスター。サムブレイク・ストラップがあり、抜け落ちる心配はない。またcocked-n-lockedのハンマー打撃面をストラップで覆い、気分的にも安心だろう。但し、最近はこの手のサムブレイク・ストラップはあまり流行らない。これもFBI cantだ。

 車を運転しているときにハンドガンを抜く状況を想定すると、右ハンドル車は非常に不便だ。右手側にドアがあり、スペース的に非常に苦しい。ストロングサイドから(この場合は右腰から)ハンドガンを抜くには、右肘を大きく右側に突き出させる必要があるが、これをやるにはドアが邪魔だ。その点では左ハンドルは有利だ。右手側のスペースは大きい。但し、バケットシートにホルスターが埋もれてしまい、上体を前に倒してハンドガンのグリップ部を浮かびあがらせないとダメだ。車を運転している状態を考えると、ショルダーホルスターやクロスドロウのほうが有利だろう。
 ハンドガンのグリップを前に向けて装着することは、敵対者と対峙したとき、ハンドガンを奪われやすいことは既に書いた。ではストロングサイドに付けたベルトホルスターならその問題がないか、といえば決して安心はできない。但し正面からハンドガンを抜き取られる心配はかなり低い。もちろん油断は禁物だ。問題があるとすれば後方から忍び寄られて瞬時に抜き取られると言うことだろう。

Glock社オリジナルとGlock 19
 Glock社が製造したスライドベルトホルスター。ポリマー製で極めて安価に作られ、ほとんどgiveaway(景品)並だ。薄くconcealed carryに向いている。抜け落ち防止機能はないが、実用品として使うには特に問題はない。FBI can
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 この種のホルスターはストラップが掛けられ、そのストラップを外さない限りハンドガンを抜けない構造のものが昔は多かった。いちいちストラップを外していては、即応性に劣る。そこで考案されたのはサムブレイクストラップだ。ハンドガンのグリップ握ると同時に親指でスナップを外すというもので、事前にストラップを外す必要はない。親指(Thumb)で外す(break)から、サムブレイクだ。グリップを握りハンドガンを抜くまでの一瞬のタイミングで、この動作は完了する。しかし最近、サムブレイクホルスターはコンシールドキャリーの世界ではあまり流行らなくなった。
 このようなストラップなしでグリップを握ると同時に一気に引き抜くものが現在の主流だ。ホルスター側面にはテンションスクリューがあり、これでハンドガンをタイトに締め付け、脱落防止としている。あるいはトリガーガード部分をシンプルな方法でロックし、逆さまにしても外れないようにしたものもある。いずれにしても、グリップを握って抜こうとすれば、ドロウは出来る。こうなるとやはり敵対者にハンドガンを奪われやすい。即応性を高めるという事では有効なストラップレスだが、こういったトレードオフもある。

Fobus C-21 とcompact 45auto

パドルタイプのポリマー・ホルスター。これは角度設定がFBIで固定されているが、同シリーズにRotoタイプがあり、それはアングル・オブ・カントを0°から360°まで自由に設定できる。したがってvertical cantにもFBI cant, さらにはX-Draw (クロス・ドロゥ)configurationにもなる。90°に設定してback side holsterとしても使用可能だ。欠点としてはこの角度可変機構の部分で厚みが出来てしまっている。トリガーガードロック機構でストラップなしでも抜け落ちる心配はない。

 結局のところFBI cantを取り入れたベルトホルスターはもっとも使いやすいコンシールド・キャリーホルスターの代表だ。Vertical cantに比べて、クイックドロゥのスピードはわずかに劣るかもしれない。しかしそれも訓練次第だろう。現在市場にある実用型ホルスター(コンペティション用を除いて)の大半がFBI cantである。その角度(cant)は一定ではないが、各ホルスターメーカーはモデル毎に使い易い角度でデザインし、製品を市場に供給している。

Oct.1,2004
Satoshi Maoka

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