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R18精霊と一緒 【投票受付中】(金曜17時〆切) 作者:伽羅

番外編 恋の奇跡


「今日のお茶はとてもおいしいですわね」

 妃殿下が優しげに微笑む。
 リリアのように思わず目が惹きつけられる美しさという訳ではないが、柔らかい清楚な美しさがある。
 妃殿下は例えるなら百合だ。

「これは、リラ州の花茶で先日届いたものだ。妃殿下の口に合ったようでなによりだ。あとで、王城でも飲めるように包ませるので持って帰ってくれ」

 リリアは誰から見ても、美人と云われる類の美しさがある。
 例えるなら、バラとかカトレアとかのたぐいだ。

「まあ、よろしいのですか。ありがとうございます」

 両手に花で3人でのんびりとお茶会。
 優雅なひととき。
 これっていうのも、好きなように休憩を取らせてくれる上司ロシュと上司のアルセリアの采配のお陰だ。
 俺の出来る仕事は限られているし、聴く価値がある時は上司ロシュから何らかの指示があるが、それもない位今はちょっと俺が関与しても理解できないたぐいの難しい案件を話し合っている。
 第三子クラディウスを乳母、侍従に任せ、3人でゆったりとお茶を愉しむ。
 あ、もちろんすべてじゃなくて、無理ない範囲で育児にも参加している。
 贔屓ひいきと思われると心外なのだけれど…、王位継承権を持つシャリヤンとクラディウスは1歳半から王室の育児法に則って教育の場が与えられるので、国母が育児に参加出来る時間と云うのが決まっていたりもする。
 はじめにそれを聴いた時には『はぁ? なんだ、それ?』って、俺は思ったのだけれど、それを受けて育ってきているアルセリア、リリア、妃殿下は『そういうものです』って、それが普通の認識らしい。
 シャリヤンが3才でひとつの松韻宮しょういんきゅうの主になったように、幼いうちから上に立つ者としての教育が産まれた時から始まっていると考えて良い。
 まあ、王室の子どもの育て方って、云われてもぴんとこないし、リリアがそれでいいならいいんだけど…。
 シェリレラは俺たちの娘で正式な王族枠でもないので男の子と違いリリアがずっと育児に関わってきた。
 もちろん、乳母と共にってのはあるけれど、母親にべったりで育ったのは、そういう事情もあったりする。

「今だから云えることだが、兄王様がユーヤに恋をされたのは、世界の浄化に匹敵する奇跡だったと、私は思う」

 し…失礼だな…。
 でも、まあ…、おとこと恋に落ちて、そのおとこの妹と結婚して3人も子ども作って、おとこ王妃おくさんリリアなごやかにお茶しているっていうのは、奇跡に匹敵する珍事なのかもしれない。

「ユーヤが悪いという事ではなく、兄王様が人間ひとを愛せるようになるとは思えなかったのだ。ユーヤを特別な目で見たのはいつなのだ? わたくしが気付いた時には、既に特別な目で見られておいでだった気がするが」

 アルセリアの正妃である妃殿下も感慨深げに深々と同意する。

「ええ。現在いまだからこそ云えることですが、陛下が人間ひとを愛せるようになるとはわたくしも思いませんでした。御二方の馴初なれそめとかあるのですか?」

 馴初め…? っていうか、アルセリアが俺に特別な感情を抱いたのっていつだ?
 ああ、思い出すのも嫌なほど、出会いって超・最悪だったんだよなぁ~。

「リリアの召喚で裸で王の寝台に落っこちたんだぞ。不審者丸出しで、ものすごい体調不良のところに、言葉も通じない美形の男に刀を首に突き付けられた。あの時は現実味を感じなくて夢見てるのかと思ったけど、斬られてもおかしくない雰囲気丸出しで、すげぇー怖かったんだよな…」

 リリアと妃殿下が微かに身を乗り出し、心なしか、室内にいた侍女と侍従も2歩前に出て俺の言葉を拾おうとしている。

「なんで、服着てこの世界に落ちることが出来なかったんだろ…。あの時の羞恥と恐怖と痛みは生涯忘れられない」

 ぶるっ…と、身体を震わせ、腕をさすると思案気な表情を浮かべたリリアが俺の顔をみた。

「思うのだが…。ユーヤが服を着て落ちてきたなら、不審者として手足を切り落とされたり、命を奪われたり…という事態になっていた可能性が高いと思うぞ」

 えっ? なにその、物騒な話…。

「そうですわね。裸体…という、一切の武器を隠し持ちようのない状態で、刺客とも違う肉体を晒したからこそ、危険がないと判じる結果になったのでしょう。王の枕に毒針を仕掛けたり、万一の事がないように、清掃の者も王の寝室へ入室許可が下りているのは、数代に渡って仕えている信頼のある一族の者だけですから。それも、近衛ひとがいる前での清掃作業になりますし」

 ま、枕に毒針ぃ~? 監視受けながらの清掃作業ぅ~? うわっ…! なにその、不穏な発言。
 俺の表情を見て、リリアが苦笑いを浮かべる。

「例えばなしだ、王の身辺警護の中で、絶対の安心できる空間が王の寝室だ。王に安心して快適に寛いでもらうために、虫1匹入らぬように警護している。寝室に不審な人間が現れれば、有無を言わさず手足を切り、外の近衛に引き渡されてもおかしくないという状況で、裸体で落ちたのは僥倖ぎょうこうだったということだ」

 …………。

「裸体であればいいというものでもありませんよ。身体を鍛えた男性の裸体であればすぐに斬られていたでしょうし、女性の裸体で陛下の寝台に落ちれば…」

 えっ…?

「ああ、間違いなく色仕掛けの罠とされて、『女でどうにか出来ると思われたか?』 って、変な誤解を受けて処断しただろうな」

 えぇっ…?
 おもわず、胸元を広げて自分の身体を覗き見る。
 文化部所属じゃなくて、運動部所属だったらヤバかったってことか…?
 知らなかった…、今さらだけど、めちゃくちゃ危険な場所に落ちてきたんじゃないか…。

「な、ならさぁ~。はじめっから、召喚したリリアの元へ落ちれば良かったんだよ。そうすれば、リリアは事情を熟知しているし、女の子の前で裸ってのも嫌だけど、シド達が居たならすぐに服を調達してくれただろうしさ。それで、服着て、正装でびしっと、決めた俺がアルセリアに紹介される。こういうのがベストだったと思うんだよなぁ~」

 あんなに恥ずかしい思いをしないで、もっと良い出会い方が出来た筈だ。
 あの出会いは、やり直せるならやり直したい。
 うんうん…と手を組んで頷く俺を見て、リリアが再び思案気な表情を浮かべて俺を見た。

「いや…、それはどうだろう。王城の敷地から半数の精霊さまが消失したくだんの人間を、兄王様にわたくしが紹介したとしよう。一笑に付されて恋するどころか、責任をどうとるのか私たちは追及を受けて、役に立たないと思われたなら、処分された可能性が高い気がする。まず、ユーヤは監視が付き否定的な目で見られるはずだ」

 えっ…?

「ええ、その光景が目に浮かぶようですわね。有無を言わさず牢屋へ入れそうな陛下の感じが」

 えぇっ…?

「陛下がユーヤ殿を受けとめられたのは、どのような事があってなのですか? わたくしが初めてユーヤ殿に御目にかかった折には、すでに陛下の所有痕を首筋に付けられて、陛下の愛の片鱗をみれて嬉しくなったものです」

 …………、奇跡…。
 なるほど、アルセリアが俺に恋したのは、奇跡かぁ…。
 今さらながらに、3人で視線を合わせてその瞬間の調査をすることにした。


【証言1 ウソン】

「あの日の事は、生涯忘れることが出来ません。万全の態勢で寝室の警護に当たる第一近衛隊隊長の威信が崩れた瞬間でしたから…」

《ぎゃぁー!!! やだ、やだ! マジ無理ッ!! マジありえねぇー!!》

 陛下しか居られぬはずの扉の向こうから、奇妙な声が聴こえ。

《ありえねぇ! とって! お願い、今すぐ取って。やだやだやだ! 絶対無理! この黒丸毛虫とって!》

 侵入者を赦した事を知り、扉を開けて急ぎ入室すると。
 そこには、裸の男が寝台の上で、あろうことか陛下の腹に顔を押し付け、腰にしがみ付いておられた。
 すぐさま抜刀して、不審者を取り除こうと動くと、それを陛下が止められた。

《よい。これには、気にするな。それより…》

 陛下が不審者を庇うように不審者の足を見て。

《高位の神官を連れてこい》

 と、おっしゃられたのです。

「あの時の陛下の表情を思い出すと、我々に対する表情よりも、いささか温かみを帯びていたようにも感じます」


【証言2 サバナ】

「あの時は、本当に驚きの連続で、今目の前で何が起きているのか、理解するのに時間をかけてしまったくらいです」

 赦された者しか入室許可の下りない陛下の寝室に呼ばれて目にした光景。

《う、うわあぁぁッ!!!》
《うるさい》

 裸の男がいきなり、我々を見て叫び声を上げて、シーツを手繰り寄せ、それを陛下が愁眉を動かされてたしなめられた。

《確認するぞ。言葉は通じているんだな》

 陛下の問いに対して口で応えず、首を上下に振って応えるという無礼な態度を陛下が赦され。

《精霊の事は、全く知らないのか?》
《…………そうか》

 そのようなやり取りに違和感を感じないように陛下が受け答えをされてから、我々に話しかけられたのです。

《神官、この者は『精霊の恩寵を受けし者』に相違ないか》
《失礼いたします》

 我ら3人は、不審な裸体をさらす男の足首に精霊さまを確認すると、我らに寄り添って下さっていた精霊さまがすべて、身体から落ちるように不審者の足に寄り添われた。
 あまりの出来事に眼を見開いて、固まっていると。

《ふぎゃあぁぁッ!! なになになにッ!! なんで、増殖? なんで分裂!!》

 不審者は、あろうことか精霊さまに手を振りあげられ、叩き落とすような素振りで精霊さまの身体をつき通される。
 寄り添って下さっていた、我らの精霊さまが不審者の掌で何度も貫通される暴挙を見て、この世の終わりのような衝撃を受けた。

《きっ! 気持ち悪ぃーッ! すり抜けって、なんだよ。こいつら…ありえないッ!》

 この世の終わりのような衝撃を受けた心に更に巨大なハンマーで木っ端みじんにするような更なる暴言を耳にして、陛下が再びたしなめられる。

《うるさい。少し静かにしろ!》

 陛下の御言葉でようやく自分を取り戻した我らが不審者に詰め寄ると。

《き、きっ…貴様! 精霊さまになにしているッー!!》
《精霊さまに、なんと、無礼なことを…なんのつもりだ!!》
《このような、信仰心のないものが、恩寵を受けし者であるなどと…認められるかッ!!》

 精霊さまが、不審者の身体から離れて、全身の毛を逆立てられて、いままで見た事もないような速度スローボールのはやさで我らの周りを威嚇されるように飛ばれた。

「そこから先の事は、あまりに衝撃ショックが大きすぎて、正直良く覚えていない。以上だ」


【証言3 リリア】

「あの時は私自身、いつ気を失ってもおかしくないほど召喚で気力が絶え、官吏に抱いて王の寝室へ連れて行ってもらったのだが…」

《どうした? リリア。顔色が真っ青ではないか》

 自力で椅子に座ることすらままならないほど気力の尽きた私を文官から兄王様が抱きかかえて下さった。

《御気になさらないで。ちょっと気分が悪くて、文官に連れてきてもらったのです。それより、兄王様。わたくしの客人が、こちらに…お邪魔してないでしょうか。…って、神官たちは膝を折って、一体何をしているのです?》

 神官たちは強い衝撃を受けたように、魂が抜けてしまったような姿で呆然とあらぬ方をむいていた。

《神官の事は…、まあ、気にするな。それより、お前の客人とは……》

 どこか、おもしろそうに言葉を促される。
 兄王様の御子を産んで下さる人間とは、云えず思い悩んで口にしたのは…。

《……精霊に好かれる、…人間です》
《ほぅ……。それだけでは、分からん。神官の事か?》

《いえ、兄王様が眼にされた事のない方で…間違えて…兄王様のところに遊びにいってしまわれたようで》

 体調の悪さに、頭が働かず間抜けな返答を次々に返す私に――。

《これのことか?》
 乱れた寝台の上に、シーツにくるまる姿で、身体を丸めて倒れている黒髪の少年がいた。

《男?》
 兄王様の子どもを産んでくれる女性ではなく、男…。
 終わった…、と気が遠のきそうになる中で兄王様が語りかけられる。

《お前の客人ではないのか?》
《あ、いえ。彼です。なぜ、倒れているのです? もしや…》
 腕の中で、小刻みに震える。
 王の寝台に現れた不審者、もしや…間に合わなかったのか…と。

《リリア。どうやら、私たちは少し話しあう必要がありそうだ。と、思わないか?》

 兄王様はおもしろいものを見つけたように笑って

《黒髪の少年と精霊について》

「その言葉を聴いて、意識を手放した。現在いまにして思えば、兄王様は王の寝台にいつまでもユーヤを転がしたまま、移動もさせず。そのような事を思いつきもしないような素振りを見せられていた」


【検証終了】

「兄王様が気に入られるところがどこだったのか…正直、わたくしには理解できない。だが、すでにあの時点で兄王様はユーヤに特別な感情を抱いていたと思われる」

 在りし日の恥ずかしい暴露話を改めて聴かされて、この客室へやから逃げ出したい気持ちになる。
 心なしか、筆頭侍従アルフェリオまでが居心地悪そうにみえる。

「庇護欲を掻き立てられたのかもしれませんね。陛下に有りのままの姿で心から縋って頼られるユーヤ殿に。初めてユーヤ殿とお会いした時に、身分や形式に囚われずに自然体で接して下さったことが嬉しいと思いました。我らには、言葉一つ失態を侵せないような教育を受けてきたからこそ、ユーヤ殿が眩しくも温かい存在に感じたものです」

「そうだな。それはあるのかもしれない。表情1つ言葉1つ、常に気を張る我らにもユーヤのお陰で、3人のお茶会では心許して自然体で語り合えるようになった。自然体でいる事は、簡単なようで難しい事だ」

「俺ひとりが考えなしのまぬけみたいじゃないか…」

 思わずこぶしを握り締めて立ち上がると、ふたりは揃って否定する言葉を口にする。

「いえ、そのようなことは…」
「そういうつもりで云った訳ではない…」

 ええぃー! 最終検証だ!


最終検証さいしゅうジャッジ アルセリア】

「ということなんだけど、アルセリアはいつ俺に特別な感情を抱いた訳?」

「…そうだな。ユーヤの口から見知らぬ言葉を発した時には、既になんらかの感情の欠片があった気がする」

 言葉って、刀突き付けられていた時だよな。

「頼りない個体が全身で私に縋り、助けを求めてきた時に庇護欲らしきものを抱いたのも確かだ」

 庇護欲…ねぇ…。

「ユーヤの起こす騒動の1つ1つが気にかかり、政務中にもユーヤを思い出すようになって、気がつけばユーヤが私を癒す為に私の元へ現れたのだという、言葉がすんなりと受け入れられるようになっていた」

「あっ…」

 アルセリアが俺の首筋に顔を埋めて、きつく吸い上げる。

「この身体も、心も、私の為に、界を渡り多くの精霊の犠牲を強いて現れた。誰のためでもなく、私のために――」

 更に下に降りて、乳首を口に含み軽く歯をあててから、舌でなぶる。
 徐々に火がつく身体、プックリと起ち上がる乳首。
 身体がアルセリアを求めて訴え出す。

「私の知らなかった感情を、ひとつ、ひとつ暴き立てて、呼び醒ました」

 後孔に潤滑油をまぶした指をゆっくりと挿し入れて内壁を優しく擦る。

「いつしか、闇の世界が光で照らされ、なくてはならない存在へと変化していた」

 琥珀色のきれいな瞳が俺を見つめる。
 ふっ…やべ…なんか、すげぇーくすぐったい。

「日を追うごとに愛しさが募り、日を追うごとに喪う焦燥に駆られ、日を追うごとに死後の世界まで寄り添いたいと渇望するようになった」

 俺の脇腹を舐めて、痕を残す様に吸いつく。
 綺麗な痕がつくのを見るとへその周りに顔を埋める。

「アルセリア」

 ――なんだ? と、目で問う。

「愛している」

 ――誰よりも。
 地球も、日本の家族も、友だちも、持っていたすべてのものを諦めても、アルセリアの側にいる事を望んだ。
 この男を愛している。
 それを聴いて、アルセリアの顔が優しげにほころぶ。
 愛おしい…という笑顔をみせるのは、この瞬間の俺にだけ。

「――ああ、知っている。私もユーヤを愛している」

 アルセリアの首を引き寄せ、見えるか見えないかの微妙なラインに強く所有痕キスを残した。
評価が9900に到達しました。
10000に到達したら、評価お礼『シェリレラの誕生秘話』なぜあの子ひとりが『見えぬ者』で『女の子』が生まれてしまったのか、ユーヤが心密かに胸を痛める事情とは…
という物語と王視点の嫉妬の絡んだ物語の2話をアップします。
連載中になっているのは、10000に到達した時点でアップするために一時的に予約を入れたためで完結済なのは変わりありません。
+注意+
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