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*昔書いたものの大幅リメイクです。
おじコレ2013年秋タグ用に書いたのに、気が付けばこれ…バディコレだ…ということで
タグは付けずに放流。

いろいろ地名や店名は実在します。
モデルさんも名前組み合わせてますが実在の方がモチーフ。
2人の服はグッチのとある秋冬コレクションより。

③くらいまで続きます。

R18部分はぷらいべったーに行くか、端折ります。




長かった夏もようやく9月の終わりから一気に涼しくなった。
10月初旬ともなれば、初秋の風が頬に心地良い。
ヒーロー達はまた新しいシーズンを迎え、気合が入りまくる時期でもある。
「はい、これ届いてたわよ」
「…何すかこれ?」
出社するなり経理のおばちゃんに封筒を手渡され、虎徹とバーナビーは揃って顔を見合わせた。
封筒は珍しく一面が真っ黒で、表面には黄金色の斜体文字で二人のヒーロー名が刻印されている。
後ろを見ても差出人名はなく、ただ封蝋替わりにデコレーションされたスワロフスキーが煌めいていた。
趣味が良いのか悪いのか分からない装丁に、二人は肩を竦めて経理のおばちゃんを見やる。
「私もよくは知らないのよね。今朝事業部宛のポストに入ってたって渡されたんだけど、見た目がいかにも高級そうだったから気になるでしょ」
「…宛名は僕と虎徹さんになっていますね。ファンレター…にしては悪目立ちし過ぎているか。もしくは何かの招待状…とか」
「最近のDM系、結構凝ってんだよなあ。俺んちにも結構入ってくるけど、まー大概見ねえで捨ててるわ」
机にとりあえず朝食にと買ってきたベーグルとコーヒーとを置いて、バーナビーはじっと封筒に目を落とす。
先に野菜のはみ出したBLTサンドをぺろりと平らげ、虎徹もスリーブ付きのペーパーカップを片手に隣から身を乗り出してくる。
「バニー、お前心当たりあんの」
「いいえ?虎徹さんもないんですか」
「俺メインでそんな小奇麗な封筒が来る訳ねえだろ。…じゃあなんだ?」
「ああ、おはよう三人とも」
ドアが開いて、声と共に姿を見せたのはロイズだった。
今日もプレスのきいたスーツを襟元まできっちりと着込み、手には書類の入ったボックスと何やら箱のようなものを入れたビニール袋を提げている。
「おはようございます、ロイズさん」
「おはようございます」
「二人とも、昨日は出動の後、カレンダーの撮影に夜まで付き合ってもらって大変お疲れ様。これは差し入れね。クリスピークリームドーナツのシーズナルだよ」
「だっ、これ!」
手渡されて早速中をチラ見した虎徹が声を上げる。
「6個入りのハロウィン限定ダズンボックスじゃないすか!このキャラメル…なんだっけ、食ってみたかったんすよ、ありがとうございます!」
「ジャックランタンでしょう、これは貴方にあげますよ」
「マジ!?あ、でも半分こしようぜ。ほれ、あーん」
「あーんって貴方、ああもう手をつけるなんて」
「気にしてないよ、虎徹君はそういう人だから。後ね、アップルパイティーラテも買って来てるから、女史も後で休憩がてら飲んでみて」
「そんな、ロイズ部長。私の分までお気遣い頂いて」
「ロイズさん、ありがとうございます。いつもすみません」
「いいのいいの。むしろ君たちのおかげで我が社の株は天井知らず、ついでに私のボーナス査定も大幅アップ。妻も娘も喜んでいるし、これ位は当然でしょ。
…とはいえ、こんな程度しか返してやれなくて済まないね」
「いえ、十分ですよ。ねえ虎徹さん」
「んお?」
見れば虎徹は既にオレンジスパイダーと紫芋モンブランを同時食いしていた。
さっとバーナビーの柳眉が逆立つ。
「全くもう、お礼もそこそこに意地汚いと思いませんか。朝食はさっき食べていたでしょう、貴方の食い意地は休憩までも保たないんですか?」
「うっ、も、申し訳ございません…」
「全く…再来週にはトップモデルのマティアス・ローゼリンと一緒に秋冬コレクションのランウェイがあるんですよ。食べる事までは制限しませんが、ロイズさんの手前メリハリは付けてください。ウェイトに気を使えってアニエスさんにも散々言われたでしょう」
「ぐっ…」
返す言葉も見当たらず、虎徹は急に味気なくなったドーナツの欠片を飲み込んだ。
今まで虎徹だけでいた時は、そんなファッション関係の仕事なんて一切入っては来なかった。
けれど、バーナビーはKOHになって、ますます人気に拍車がかかりすっかり時代を牽引するようなファッションアイコンの一人になりつつある。
そんなバーナビーと居ると、虎徹が今まで見た事も聞いたこともない仕事も時に舞い込んでくるのだった。
マティアス・ローゼリンと言えば押しも押されぬシュテルンビルト出身のモデルで、彼の身に着けるものは端からプレミアがつき、逆にメゾン側から是非コレクションに出て欲しいとオファーが殺到する位のカリスマトップモデルだ。
その彼が何をどうしたか、秋冬の新作コレクションに虎徹とバーナビーと一緒に出たいとオファーを寄越してきたのだ。
話題性を重視するアニエスがそれを断る筈もなく、よって二人は再来週の本番までウェイトに気を遣いながらランウェイを歩くための猛練習をスケジュールに嫌というほど捻じ込まれている。
とはいえバーナビーは何をやらせても人並み以上にこなしてみせる。
最初の顔見せで、たった一度ウォークしてみせただけであっさりOKが出た。
かたやガニ股の直らない虎徹はやっぱり駄目で、頭の上に本を乗せてみっちり練習するように厳命が下った。
勿論それにはバーナビーも付き合うと決めているが、美味しそうに食べ物を頬張る虎徹を見ているのはバーナビーだって楽しいし嬉しい。
そっとダズンボックスの蓋を閉じ、しょんぼりと席に座る様はバーナビーでなくても可哀相に見えた。
「まあまあバーナビー君…ん?」
ロイズは机の上に置いたままだった封筒に目を落とす。
「…これ、もしかして」
「ロイズさん、これが何か知っているんですか?」
「朝、事業部宛のポストに入っていたそうで。ひとまずここまでは持ってきたんですが」
「これ、どこかで見た様な…ああ!これはもしかしなくとも、【カレイドスコープ】の案内状じゃないの」
「…【カレイドスコープ】ですか?」
「てことは、これロイズさん何だか知ってんすか」
「…とはいっても、私もタイタンインダストリーのロバート部長からの聞き齧りなんだけどね」
「ロバート部長?」
「彼とは学生時代からの腐れ縁で、たまにお茶の誘いなんか来る訳。まあ中をまず開けてみなさいよ」
「はあ…」
虎徹が代表して封を開けると、ふわりと漂う果実のような香りと共に中に入っていたカードがかさりと乾いた音を立てる。
表面を見れば真紅のインクで【シークレットインビテーション】と綴られてあった。
「何だこれ。バニーちゃん、これ何て?」
「…秘密の招待状、とでも言いたいんでしょう。それが【カレイドスコープ】でしょうか」
横からカードを覗き込み、ロイズはうんうんと頷く。
「【カレイドスコープ】はインターネットで実しやかに囁かれてる、セレブの間で行われているっていう招待制の夜会らしいよ。何でも独自の会員資格があって、それを満たした選ばれた者にだけ招待状がある日突然送られてくるとか」
「…眉唾物の都市伝説ですね。でも、現にそれは今ここにあると」
「君たちはメディアへの露出も一番多いし、とかく人目につくから目立つ事だけは間違いないね。まあ私も本物の招待状を見るのは流石に初めてだよ。後でロバート部長に教えてやらなくては」
カードの裏を返すと、場所だけが書かれていた。
素っ気ないがそれだけに更なる高級感が漂っている。
「場所は…ちょっと、マンダリン・オリエンタルホテルハイドパークじゃないの。
しかも階が書いてないってことは、まさか貸切…?」
マンダリン・オリエンタルホテルハイドパークといえば、シュテルンビルトのメダイユゴールドの中でも『ナイツブリッジ』と呼ばれる最も地価が高い地区にある最高級ホテルだ。
虎徹も何度か通りかかった事だけはあるが、確か一番安い部屋でも目の飛び出るような値段だったと記憶している。
これを貸切となれば、どんな大金が動いているのか想像もつかない。
まあ何にせよ虎徹にはとんと縁のない場所であるのに間違いはなかった。
「日時は追って連絡差し上げますって事じゃないの。…君たち、息抜きも兼ねて行って来たら?そこでスポンサーを更に増やしてでもくれれば、こっちとしてはもう万々歳だよ」
「ええ~…気乗りしないんすけど」
虎徹は唇を尖らせて、隣のバーナビーをちらりと見る。
バーナビーもちっとも嬉しくなさそうな微妙な表情で顔を上げた。
「流石にこういう類の夜会には出た事がありませんね…どうしますか?」
「そもそもパーティーって名がつくもんは苦手だって、お前も知ってんだろ。
まして身内でも何でもなく、誰が来るかも分からねえってんじゃ余計さあ」
「…そうは言うけど、【カレイドスコープ】の招待券なんて、お金をいくら積んだって買えやしないんだよ?いい気晴らしだと思って行ってみなさいって。たった一晩の夢だよ」
シーズンが始まったばかりで、まだポイントそのものが全員横ばいであることもあるだろう。
機嫌のいいロイズにそこまで言われては二人も頷くしかない。
「虎徹さんが行くのであれば、僕も行きます」
「おい、決めんの俺かよ!つーかこういうパーティは俺よかお前メインだろ、何かあったら俺、お前に丸投げするからな!」
「それは勿論。では、この招待状は僕が持っておきますね、貴方に持たせていたらあっという間に無くされそうですし」
「…それに関しては耳が痛いです」
無くすどころか、映画のチケットを買っておいたのに、意気揚々と行ったその場で忘れた事に気が付くなんてこともよくある。
「じゃあ決まりだね。では君たちは仕事に戻るように。これは今日の分の書類ね。あとは女史に任せていくよ」
「ええ、任せて下さい」
にこりと有無を言わさぬ笑みでロイズは主に虎徹を見て、そのまま立ち去っていった。
女史も机に戻り、キャビネットから処理済みの書類を取り出して再び席を立つ。
「私は一度経理に書類を出してくるから。午前は大人しく一昨日の損害報告書を作っておいて頂戴よ、特にタイガー。こういうのはシーズン頭が肝心なんだから」
「…へーい」
びしりと言い置かれ、後には広々としたフロアに二人だけが残される。
「さあ、虎徹さん。糖分も取った所で、面倒なものは先に片付けてしまいましょう」
勤勉なバーナビーは頭の切り替えも早い。
先に席に座り、さっさとPCを立ち上げるバーナビーにならってとりあえず虎徹も苦手なデスクワークと向き合う決意を固めるのだった。
…どうせ泣きつけば、最後にはバーナビーは必ず助けてくれる。
決して虎徹を見捨てたりしないと、もう分かっている。
「へへ」
「何ですか、急に」
「何でもねえよ」
ついうっかり声に出してしまって、虎徹はぎゅっと唇をひん曲げた。



その後【カレイドスコープ】についていくらバーナビーと虎徹が調べてみても、二人が招待された理由や満たした条件は分からなかった。
会員だと噂されている芸能人やセレブは意外と多く、少なくとも全く奇をてらった夜会ではないようだ。
もうその夜会自体に参加する事がある種社交界ではステータスになっているらしい。
だが当然の事ながら皆口は堅く、内容について詳細を知る事は出来なかった。
それから数日後、仕事を終えて虎徹とバーナビーは再び届いた封筒を会社のデスクで開けていた。
最初と同じ上品なデコで封された黒い封筒の中には、案内と書かれた紙と苺が刻印されただけのシンプルなカードが一回目と同じように入っていた。
紙に書かれていたのは【カレイドスコープ】の開かれる詳細な日時と、当日守って欲しい必要最低限の事しか書かれていない。
箇条書きで『仮面を付けてくること』『招待されたこと、会員である事は吹聴してもいいが、日時と当日の内容だけは絶対に口外しない事』そして『必ずペアで来ること』それだけだった。
「仮面って何だよ、アイパッチ的な?」
「まあそうですが、どちらかというとベネツィアのカーニバルのような感じでは?」
「ベネ…?何?」
「後で教えますから。ひとまず、日付は今度の週末ですね。ホテルに到着したら、フロントにこのカードを出すよう書いてあります」
「だな。何着てきゃいいんだよ、必要最低限しか書いてねえぞ」
バーナビーは顎に指先を当て、暫く考え込む。
フォーマルなスーツなら腐る程ワードローブにあるが、流石に仮面の類までは持ち合わせていない。
自分でさえこうなのだから虎徹は推して知るべしだろう。
「―――では、これから買いに行きましょう。
今日の仕事は珍しく片付いているし、車を持ってきていますから」
「マジで?付き合ってくれんのバニーちゃん?」
「当たり前でしょう。
…では5番街を抜けて、トランプ・タワーへ。
あそこには3フロアを使った世界最大級のブティックがありますから、ゆっくり一式探せるでしょう」
「もうそういうのは全部お前任せ!ついでにメシでも食ってこうぜ、今日はお前んち行ってもいい?」
「どうぞ。頂きものですが、冷蔵庫にチーズが何種類か入っていたかと」
「うお、じゃチーズ盛り合わせに酒も出していいよな。じゃあそれで決まり」
虎徹が嬉しそうに笑う。
本当に年齢からは考えられない程に表情豊かで、見ていて飽きない人だとバーナビーは思う。
嬉しそうな虎徹の顔を見ていると、こちらまで嬉しくなる。
小さな頃から散々マーベリックに付き合わされたせいで、表面はそれなりに振舞えてもバーナビーもパーティはすっかり嫌いになってしまった。
けれど隣に虎徹がいてくれるなら、また話は別だ。
「確か新作に綺麗なドレスシューズが出ていたような…じゃあ虎徹さんは黒をベースにして、僕はやっぱりグレーに赤にしようか…」
虎徹には何が似合うかを、バーナビーが真剣に考え始める。
どちらにしろ虎徹は何でも良くて、バーナビーが選んでくれるならそれを着るだけだ。
何をしていても様になる恋人を、ぼんやり虎徹は目元を赤くして横から眺めていた。
その後、二人は結局2時間バーナビーがこだわって揃えた服を買って帰った。
仮面も夜、バーナビーの家で仲良くネットサーフィンして買っておいた。

パーティーが行われる週末はすぐにやってきた。
ご丁寧にバーナビーは自宅前から送迎してくれるらしい。
見事な夕焼けの中、自宅の前に鮮やかな真紅のNSXが停まる。音がしたので出てみると、運転席から降りてきたバーナビーの姿が目に入った。
夕日に輝く金の髪や、モデルもかくやと思う位の王子様ぶりに虎徹は一瞬声が出なかった。
「お待たせしました」
慌てて大きく息を吸い込み、階段を下りて行く。
「…バニー、お前眼鏡は?」
「今日ばかりはコンタクトです。仮面を付けるのに眼鏡は邪魔になるでしょう?」
虎徹はバーナビーの露わになった顔をまじまじと見た。
「まあ、余りコンタクトは得意ではないんですが。眼鏡はそれだけでファッションにもなりますし、とかく楽でいいので」
フェイスカバーを上げた時にはよく眼鏡なしの素顔を見ていたが、完全に私服の時に、しかも自然光の下で見るのは初めてかもしれない。
夕映えにも負けぬグリーンアイズは女性たちが絶賛する通りまるで宝石のようで、虎徹は吸い込まれそうに輝く瞳に見つめられてかっと頬を赤くした。
「…どうかしましたか?」
「い!?いや、何でもねえ!」
「…?まあそれはいいにしても、」
「?」
「貴方も、すごく素敵だ」
「だっ」
全身を眺められて、虎徹は思わず肩を跳ねさせた。
バーナビーは細かいライン取りがされたグレーの七分丈の細身ロングジャケットに、中はボルドーの鮮やかなドレスシャツ、ネクタイは黒地に同じボルドーストライプを合わせている。
シャツの襟にはデコルテを作り込んで、同じボルドーに金刺繍のスカーフを二重に襟のようにして差し込んでいる。
ジャケットと揃いのスラックスには黒い光沢のある革靴に、紐はネクタイやシャツと揃いのボルドーをチョイスする辺り流石といった感じだ。
虎徹はブルーブラックの揃いのスーツに中は紺のシャツを合わせ、ロイヤルブルー一色のネクタイを締めている。
シャツはボタンラインに沿って白い細かなブロック柄の刺繍取りがされていて、バーナビーはあえてスーツも合わせが浅いものを選んであった。
足元にはぐっと色味を抑えたロイヤルブルーに金の金具でワンポイントが入る革のドレスシューズがコーディネートされている。
肌を極力出さないからこその、モノトーンが醸し出す虎徹の色気は半端ない。
誰より虎徹の魅力を分かっていてこれを選んだバーナビーは流石という他なかった。
タキシード系の礼服の類は二人で相談し、止める事にした。
貴族や王族がいる訳でなし、ドレスコードも記載されていない以上それなりにフォーマルであれば大丈夫だろうという判断だ。
むしろタキシードなんて虎徹には息苦しいだけで、息抜きに行くというのに無理をしては何も楽しくも何ともなくなってしまう。
「今すぐ抱き締めたくなりますね。…というか、誰かに見せるのが勿体無い」
「お前が選んだんだろ」
「それはそうですが、服を選ぶという行為にはちゃんと意味があってですね」
ぐっと虎徹の腰を引き寄せ、バーナビーは耳元に囁く。
「…脱がせる為に着せるんですよ」
一瞬間があって、理解はその後だった。
虎徹はもう隙間もない程赤くなって、顔をぐしゃぐしゃにしてバーナビーを睨む。
「ばっかやろ…ここ、道路のど真ん中な…?」
「分かっていますよ。…これ以上やると、貴方の腰が砕けてしまう」
「だっ…」
「さあ、行きましょう。お手をどうぞ」
「~~~くっそ王子様な、お前」
悔しそうな虎徹に艶然と微笑んで、バーナビーは助手席へと虎徹を華麗にエスコートした。

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