以前RTで出た、いい笑顔でペットボトルを握りつぶす虎徹さんです。
嫉妬がらみの兎虎。
いいところで終わっていますが続きは新刊に行きます~
アポロンメディア所有のスタジオを、靴音も荒く2人が歩いていく。
「んだよ!絶対俺は謝んねえからな!」
「どうして貴方はいつもそう…ああ、話にならないな。降りられなくなった猫を助けようとして、猫は綺麗に着地して貴方だけがビルから落ちてくるなんて」
「しゃあねえだろ、上しか見ねえで登るんだから」
「僕が来なかったら大惨事ですよ。さっき能力を使ったばかりのくせに」
その言い方にカチンときて、虎徹は八重歯を剥き出しにして怒った。
「あーもう、口うるせえ!いっつも一言多いんだよ!」
「一言多くしているのは何処の誰ですか。いい加減学習能力はないんですか?何度同じ事を繰り返すつもりです、勇敢と無謀は違いますよ」
言葉尻はどうあれ、響きとしては諭すような言い方だったが苛々している虎徹はそんな事には気が付かない。
「あー、あったまきた。お前なんてもう知らねえし」
「知らないのは結構ですが、仕事だけは途中で放棄しないでくださいね。今日は迎えの車が来るまで、僕の撮影を待っている約束でしょう」
「べっつに同じとこで同じ空気吸ってる必要ねえだろ!」
「貴方から目を離さないよう、ベンさんにも言われているんです。昨日だって能力が切れるギリギリでガラスを割って飛び込む無茶をして。…せめてそういう無理をさせないようにと、今日だって言われていたのに」
「ああそうかよ。なら、俺の仏頂面でも見とけば?」
すっかり臍を曲げてしまった虎徹は、のしのしと控室に歩いて行ってしまう。
自分はこれから間を置かずカメラマンと広告主との打ち合わせだ。
それからヘアメイクや衣装に着替えて、車のCMとその広告の撮影をこなさなくてはならない。
こんな喧嘩は昔は日常茶飯事で、然程気にしなくてもすぐ鎮火すると分かっている。
虎徹はかっと燃え上がりはするが、怒りが持続しないタイプだ。
後で落ち着いた所を見計らって、声をかけてみようとは思っている。だが、やはり虎徹と喧嘩するのは少なからず堪える。
喧嘩をするのは仲の良い証拠だというが、多少なりとバーナビーも落ち込む。
これが撮影の時の表情に影響しなければいい。
溜め息を付き、バーナビーは虎徹とは反対の方向にある会議室に向かって歩き出した。
セットが組まれたスタジオではカメラマンやその助手が忙しなく動き回っている。その隣室では、バーナビーが椅子に座ってアーティストにヘアメイクを任せていた。
丁寧に髪をハーフアップにするそのそばで、衣装担当がああでもないこうでもないと2人で意見を交わし合っていた。
勿論スポンサーの意向もあるので、点数は既に絞られている。
だがここにいる3人は皆バーナビーのファンらしく、ヘアメイクに合うものをチョイスしようと余念がない。
バーナビーの髪に触れる女性の顔が赤い。
虎徹はそれを複雑な思いで見つめていた。
「バーナビーさん、ホントお肌綺麗ですね!」
「ありがとうございます」
「爪ももしかして、ネイルサロンとか行ってるんですか」
「自分ではしませんね。女性ではないので」
「ふふ、髪もすごく手入れされてる。きらきらしてうっとりしちゃう」
虎徹は椅子に後ろ向きに座りながら、仏頂面で携帯を弄る。
気にするまいと思ってもつい気になってしまう。
まして自分だけが触れられると思っていたものに、容易く触れられている。
触れさせている。
その事実が余計に虎徹の機嫌を降下させた。
「では、この衣装でお願いできますか?」
「ええ。僕の為に選んでいただいたものは、何でも」
きゃああと上がる声に、バーナビーもふっと微笑む。
いつもファンサービスに関しては勤勉で、この位の事は言うのに、今はひどく癇に障る。
虎徹の眉が音がしそうな程寄せられた。
それだけでなく、衣装を合わせながら、べたべたと必要以上に体に触っている気さえした。
腹の底がむかむかと煮えくり返る。
喉が渇いて、用意されていたペットボトルに何度も口を付けた。
けれど虎徹の心など知る由もない女性たちは更にエスカレートする。
ファンであるバーナビーに公然と触れる機会をみすみす無駄にする訳もなく、まして虎徹とバーナビーの関係など思いもしていないだろう。
「ああ、バーナビーさんとてもいい匂いがしますね!」
「本当…!どんな香水使ってるんですか、私も欲しい!」
「そんな特別なものは使っていませんよ。ごくありふれたものです」
「嘘ですよ、こんなにいい匂いのなんて…ねえ、そう思いませんかタイガーさん?」
うっとりとした顔でくん、とバーナビーの香りを嗅ぐ女性たちは、こういう時に限って虎徹に話題を振ってくる。
さっきまで半ば無視を決め込んでいたのにこれだ。
「やー、俺は」
「タイガーさんならそれとも、香水の種類知ってたりします?」
知ってても、誰が教えるかっつうの!!!!
悪気はなくても完全に逆鱗を直撃された。
ついに虎徹の堪忍袋の緒が切れた。
ぶしゃ、と凄まじい音がして、手の中のペットボトルを握りつぶしていた。
「つうか、知ってても教えないです」
にっこりと青筋を立てながらとてもいい笑顔で笑い、虎徹はがたんと椅子を立つ。
「…すいません、俺ちょっと具合悪いんで先帰りまーす!さいなら!」
にこにこと笑みを貼り付けたまま、虎徹は手を振ってさっさと控室を後にした。
バーナビーの顔は見られなかった。
車の迎えが来るはずだったが、怒られようとロイズには電話しておいて、後はタクシーだのなんだの使ってしまえばいい。
これ以上この場にいて、女性にべたべたされるバーナビーを見るのは不可能だった。
ようやく詰めていた息を吐き出し、虎徹はずんずんと大股で廊下を歩いていく。
「あー…やっべ、イライラが止まんねえ」
まさか発散する為にものを壊す訳にもいかず、虎徹は意味もないのに駆け出した。
体を動かせば束の間忘れることが出来る。
「あー、俺心せっま、マジせっま!!!」
叫び、虎徹はまだ明るい大通りを気持ちの赴くまま駆けていった。