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@stellaSSL はる@ゴネクあ25
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ヒーローバニー×天使おじ①



*ちょっとずつ不定期。まだまだバニーが出ません。
バニーは子バニからのスタートです。



BEEP,BEEP!
雲の上に寝そべり、のんびり携帯を弄っていた虎徹は突然のPDAでの呼び出しにばっと身を起こした。
『CALL』と表示されているモニターの表面を二度押してモニターを表示させる。
「はい?」
『ワイルドタイガー、今ちょっといい?』
モニターに現れたのは上品な風貌の、壮年の男性だった。
首元まできっちりとネクタイを締め、スーツもびしりと着こなしている。明らかに仕事が出来そうな男性は、顔色一つ変えずに虎徹を呼んだ。
「ロイズさん」
『どう、調子は?』
「そうっすね、まあまあです」
『…なら、仕事の連絡を。でも、今回失敗すれば降格だって事を念頭に置いて。上からはそう言われてるから』
降格という言葉に、虎徹の表情が険しさを増す。
ロイズは虎徹の上司に当たり、神と天使とを繋ぐ役割を担っている。
『ちょっと人間界が不穏でね。君には、悪しきものの調伏とその動向を探って欲しい訳』
「…分かりました。人間界に降りればいいわけですね?」
『7天使の中では、正義と守護の天使である君が一番の適任だからね。…くれぐれも、無茶はしないこと』
僅かに言葉尻に滲んだ心配に、虎徹は勿論です、と力強く頷いた。
外見と口調こそ冷たいが、中はそうではないことを知っている。…虎徹の前回のミスをそれとなく庇い、守ってくれようとしていたのも知っている。
だからこそ、ロイズには恩返しをしなくては。
虎徹はそう思っていた。
『…頼んだよ』
「はい」
ハンチングを取り、虎徹はモニターに向かって一礼する。
ロイズとの通信を終えて、虎徹は真っ白な翼を広げて、ふわりと青く輝く中空へ舞い上がった。
常に抜けるような晴天の天界ではあるが、今日はひときわ陽光がまぶしく輝いている。
天使は翼に力の大半を蓄えているが、故に虎徹の翼はひときわ大きく、丈夫で真っ白だ。
真下には金の階梯を重ねた雲の橋が広がっている。
そこを行き交う天使たちが虎徹に気が付き、手を振るのに応える。
「行ってらっしゃい、ワイルドタイガー!」
呼ばれ、虎徹はワイルドに吼えるぜ、と顔をくしゃくしゃにして笑った。


この世界には、人間の他に天使がいる。
天使は雲の上にいて、人間に知恵を授けたり、人間の魂を神の元まで導き、また送り出し、人間の営みを影ながら見守っている神の徒だ。
数多い天使たちの中でも、特に7人の天使は特別で、それぞれ特別な力と使命を与えられている。
虎徹はその中の一人だった。
正義と守護を司る通り、悪しきものの調伏を主としている。
亡き妻との間の忘れ形見、楓を母の元へと預け、人間の為に働く姿は誰からも愛されている。
---だが、虎徹は今の今まで天界から出ないよう謹慎を申し付けられていた。
理由は、事故に巻き込まれた人間たちを助けようと、大勢にその姿を見られてしまったからだった。
天使は人間界に降りている間は決して正体を悟られてはならないし、天使である姿を誰にも見られてはならない。
天命だった人間を助けてしまったことも、大きく人間界のバランスを欠く結果になった。
…だから、今回こそは、と虎徹も思っている。
もう娘の楓に悲しい顔はさせたくない。
決意も新たに虎徹は翼をもう一度大きく羽ばたかせ、光の道を通って人間界へと降りて行った。

…まさかもう、このまま天に帰る事がないなどと、今の虎徹は知る由もなかった。


天使が地上に降りてまず向かうべきは、天界と人間界とを繋ぐ連絡役の所だ。
その連絡係を介して情報を知り、場合によっては人間との橋渡しをしてもらい、天使が円滑に地上での役目を遂行できるように手助けしてもらう。
高位の天使である虎徹も多分に漏れない。
地上で起こる全てを知るのは神だけだ。
高いビルの上に降りてくると、其処で待っていたのは恰幅の良い男性だった。
「―――ベンさん!」
「おうタイガー!久しぶりだな!」
ばさばさと翼をはためかせ、降りた虎徹の目の前でスカジャンの男性がゆったりと笑う。
翼は足をアスファルトにつけた瞬間、金の粒子になって解け、空気に溶ける。
「ベンさんも、元気してましたか」
「おかげさんでな。かみさんと息子には随分ご無沙汰だが、それなりに楽しくやってるよ」
がっちり虎徹と握手を交わして、そうだそうだ、とベンは後ろ手に持っていた何かを差し出す。
それは虎徹の大好物のホットドッグとコーラだった。
ホットドッグからはまだ湯気が立っていて、思わず虎徹の喉が鳴る。
「お前さん、降りて来た時は必ずこれだろ?さっきそこで買ってきた出来たてだ」
「だっ、ホットドッグ…!ありがとうございます、ベンさん!」
「いいってことよ」
ベンも虎徹と同じ天使だが、仕事柄ずっと人間界に留まっている。
その仕事が前述した連絡役だ。
連絡役は人間界のあちこちに散らばっていて、人間と変わらぬ生活を送りながら定期的に天界へ人間の動向を連絡する役目を持っている。
彼らは通称『神の目』と呼ばれているが、もうひとつ『神の手』と呼ばれる、助力者という存在もいる。
彼らも同じように人間の中に混じっていて、こちらは天界の技術や知識を人間に伝える役目を担っている。
ベンは『神の目』の中でも一番長くこの仕事をしていて、優れた情報屋として人間界にも精通している。
旧知の虎徹からしても信頼できる相手だ。
「…早速っすけど、食っても?」
「そのために買って来てんだ。冷めねえうちに食え」
「んじゃ、いただきまっす!」
満面の笑顔で被り付く虎徹にうんうんと頷きつつ、ベンは洗いざらしのジーンズの尻ポケットに入れていた缶コーヒーを啜る。
ベンも虎徹も人間界が大好きで、こういったジャンクフードも好む天使ではなかなかの変わり種だ。
更には世話好きという似た気質もあって、殊の外二人は気が合う友人同士だった。
あっという間に食べ切って、虎徹は包み紙をくしゃりとやった。
「…んで、今回俺が呼ばれた件なんすけど…」
「ああ。…それについちゃ、もう色々と調べてある」
ベンは声を低め、虎徹を手招きした。
「どこで蛇に聞かれているか分からん。用心するに越したことはねえ」
「…蛇?」
「通称だよ。…今回のは手強いぞタイガー。しかも、とびっきりな」
「…!」
聞いて、一気に虎徹の顔色が変わった。
ベンもそれまで浮かべていた穏やかさを一変させる。
「蛇は巧妙でな、文字通り尻尾を掴ませねえ。どうやら奴さん、人間に取り付く類のやつらしくてな。潜んで何十人と人間の中を食い荒らして、こっちが気が付いた時にはさっさと次へ行ってるって寸法だ」
「…んなやつが、このシュテルンビルトにいるってんですか」
「しかも、何年も前からな。俺達もようやくはっきり正体を捕まえた大物よ」
虎徹は眉を寄せて、ぐっと強く拳を握った。
天使には色々な役割があって、虎徹の他の6人の高位天使たちも皆それぞれの役目を持って働いている。
虎徹の役目は人間を守り、それを脅かす悪しきものと戦う事だった。
光だけで出来ている天使と違って、人間は光と闇とで出来ている。
そんな人間が抱く絶望、嫉妬、憎しみ、後悔などの負の想いから生まれてくるのが悪しきものだ。
闇を凝縮した悪しきものは、意志を持って世界を終らせようと蠢く。
これと戦い人間を守る為、虎徹という存在がいるのだった。
ベンが調べ、存在を捕まえた悪しきものは相当の大物らしい。
天使たちの間ですら関知していない代物だ。
自分が戦うべき相手の存在に、ざわりと背に畳んだ翼が疼いた。
「シュテルンビルトで起きた、異常事件や事故の系来を洗いざらい調べてな。…蛇が、今どれの中に入ってるかってのは絞り込めてんだ。だがな」
ベンは腕を組み、ふうと溜め息を吐き出す。
「言ったろ、ガードが堅ぇのよ。おまけに入ってる人間も有名人だってんで、常にボディガードにSPだの何だの大勢引き連れてて、こっちも迂闊に近寄れねえ」
「…そいつの、名前は」
「アルバート・マーベリック。シュテルンビルトのメディア王と言われてる」
「じゃあ、どうすりゃいいってんです」
「心配すんな、奴は週末、一人で久々に親友夫婦に会いに行くんだとよ。その帰り際を狙やいい」
「了解です。必ず仕留めてみせますよ」
「そりゃ調伏についちゃ心配してねえが、頼むぞタイガー。ロイっちゃんからも、お前に関してはくれぐれも気を付けてくれと頼まれてんだ。降格なんてしてみろ、ロイっちゃんの頑張りが全部無駄になるんだぞ?」
「わーってますよ。上手くやります」
「ほんとに分かってんだな」
念を押され、虎徹は何度もはい、と頷いてみせた。
週末まで時間はある。
それまでは力を蓄えつつ、動向を探っておこうということでベンとは別れた。


虎徹はシュテルンビルトの象徴、女神を模したジャスティスタワーの一番上に座っていた。
ここまで来る人間はいないが、念のため姿だけは消してある。ただ、力を使う時は必ず翼を出していないといけないので、その背には立派で大きな白い翼が覗いていた。
力を使っている間は恒常的に羽根がその力の量に応じて抜けて行く。
虎徹は此処から見る光景が殊の外好きだった。
シュテルンビルトはシュテルン湾を望み、バンゲリングリバー、イーストリバーの2つの川に挟まれている大都市で、周囲を海に囲まれている。
行政区は大きく分けて政治と経済の中心地であるシュテルンメダイユ地区、メダイユ地区直下から後方へとベッドタウンとして広がるダウンタウン地区、市民の生活を根幹で支えるエネルギープラントや工場地帯の集まるブロックス工業地区の3つからなり、更に過去水害に苦しめられたことからブロンズステージ、シルバーステージ、ゴールドステージに分かれる世界でも類を見ない特別な三層構造を持つ。
メダイユ地区中心には議会を含む市政府が入るこのジャスティスタワーがそびえ立ち、両サイドにはシュテルンビルト警察本庁舎と司法局がそれぞれシルバー、ゴールドの2階層にまたがる超高層ビルに居を構えている。
中心のこれらを取り囲むように、円状に巡る幹線道路に沿ってシュテルンビルトの誇る7大企業がそれぞれ巨大な像を屋上に掲げたビルを有している。
空から見ればこの街は美しい星座のように見えるのだそうだ。
買ってきた紙袋に手を突っ込み、チョコレートがふんだんにかかったドーナツにかぶりつく。
頬と口元を動かしながら、虎徹は下から吹いてくる風に身を任せる。
食べ終わったら敵情視察に行くつもりだった。
あまり近づいては正体を気取られる危険もあるが、それにしたって相手の顔くらいは伺っておきたい。
「…友恵」
左手の指輪にそっとキスをして、虎徹はよいせと立ち上がる。
トレードマークのハンチングを被り直し、腰に手を当ててシュテルンビルトをもう一度睥睨した。
「お前が大好きだった街だもんな。絶対俺が守ってみせるから、だから見守っててくれ」
ばさりと開いた翼は、虎徹の強い意志を映してどこまでも真っ白く輝いていた。


01:08 PM - 11 Sep 13 via Twishort

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