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@stellaSSL はる@ゴネクあ25
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ヒーローバニー×天使おじ②



*ちょっとずつ不定期。この後は
マベさん(の中にいる蛇)VS虎徹さんです。



シュテルンビルトのメディア王、マーベリックはアポロンメディアという大企業の社長職にある。
社長だけあってずっとそこにいるわけではない。むしろフットワークの軽い彼は一日中出たり入ったりを繰り返していて、スケジュールは元より彼を捕まえるだけでも非常に難しい。
考えた末あえて人間のふりをして、マーベリックを偵察に行った虎徹はあっさりと空振りに終わった。
ではどうしようかと考え、社屋を出て大通りに続く公園を歩いていく。
シュテルンビルトの誇る大通り、メダイユスクウェアは今日もポセイドンラインの誇る1万2千台ものイエローキャブが行き交い、信号は目まぐるしく点滅し、頭上の環状ラインには数分間隔でモノレールが運行している。
24時間眠らない街とはよく言ったものだ。
「おばちゃん、コーヒーひとつ。砂糖とミルクも」
「あいよ」
「あっち!サンキューおばちゃん!」
公園にあるスタンドに寄ってコーヒーを買う姿は人間そのもので、虎徹が天使などとは誰も思わないに違いない。
役目柄地上に来ることも多い虎徹はすっかり人間界を気に入っていて、中でもハンバーガーやホットドッグなどのジャンクフードを好んで食べる。
どれも天界にはなくて、カラフルな色の具合も濃い味付けも、虎徹の目には眩しく美味しそうに映る。
光を受けて、花を摘まむくらいの味気ない天界よりも、ずっとずっと人間界の方が好ましいし性に合っている。
なんなら天に帰らずにずっといてもいいくらいだが、流石にそんな事は出来ない。
可愛い娘も待っている。
「あ!風船が!」
悲鳴に反射的に振り返ると、子供の手から風船が離れ空に昇って行く所だった。
「任せろ!」
ばっと駆け出した虎徹は木の幹を使って器用に三角飛びへと移行する。
あっという間に木の上まで軽々と跳躍して、風船を掴むとぐっと膝を撓めて着地する。
「ほれ、気ィつけろよ」
「ありがとう、おじちゃん!」
「おじ…」
子供は手を振って、無邪気に待つ母親の元へと走って行く。
周囲はのんびりと午後の昼下がりを過ごす人々ばかりで、時計を見てもまだ14時前だ。
だがマーベリックを待っているよりはと、虎徹はふと思いついて手帳をめくる。
手帳にメモしていたのは、マーベリックの親友だという夫婦の家だ。
どうせ週末マーベリックはそこに来る。ならば、そちらを先に見に行っても無駄にはならないだろうと、軽い気持ちで足を向けた。
「へいタクシー!」
なんて、タクシーを止める様もすっかり慣れたものだ。
タクシーを走らせること10分。
ゴールドステージの高級住宅街の一角にあるその家は、ものすごい豪邸だった。
他の家とは少し離れて建てられた邸宅は、子供の事を考えてか広い中庭が設けられている。
植樹された緑に白い敷石で縁取りされたカモミールの小道や、ハーブの香りが年中漂う、手入れの行き届いた美しい庭園があって、虎徹も驚いて車中から見上げてしまった。
「…これ、ブルックスさん家っすよね?」
「そうだよ。大豪邸だろ、家主の御夫婦が有名な科学者でね!ぼっちゃんも大分遅くなって出来た子だからって、そりゃもう可愛がられててなあ」
タクシーの運転手は饒舌で、聞きもしないことまで話してくれた。
チップを多めに払い、タクシーを降りて虎徹はぐるりと門の傍を歩いてみる。
こんな豪邸では、自分のような不審者は勿論シャットアウトに違いない。
やっぱり天使の格好でなければ駄目かと、虎徹は人目がないのを確認して翼を広げようとした。
すると、背中に視線を感じた。
「…え?」
見れば、門の所からちょこんと顔を出して、小さな男の子が虎徹を見ていた。
見間違いかと思ったが、子供はじっと虎徹を見つめている。愛くるしい顔で、子供の方が虎徹よりずっと天使のようだった。
「…てんしだ!」
「だっ」
挙句、翼まで見えるらしい。
目をキラキラさせて近づいて来られ、虎徹は対応に困って慌てふためいた。
人間から天使に戻る瞬間を見られたのだろう。普通であればいかな子供であっても、虎徹の姿が見える事などない。
己の迂闊さとタイミングの悪さを呪いながら、虎徹はしゃがみこんだ。
「…俺、天使に見える?」
「みえるよ!おっきくて、まっしろいはね!」
「あちゃあ…」
地上に降りてきて、まず早速一回目の失敗だ。
まずったなと思いつつ翼を畳み、そっと頭を撫でてやる。
「えっ、なんでかくしちゃうの?」
「これはな、ずっと広げてたらいけねえの。おじさん、人に見られちゃまずいんだよ」
「ぼく、ないしょにできるよ!だれにもはなさない!」
金色の髪の毛は手触りがよくて、高級そうな身なりもいかにも育ちの良さを感じさせる。
どう見てもこの家の夫婦の子供だろう。年の割にしっかりしていて素直な所も、この子供が大切に育てられている証拠だ。
「…ぼうず、暇でもしてんのか?なんで一人なんだ?」
「サマンサはいるけど、そろそろパパとママがかえって来るんだって!だから、ここで待ってたの!」
「サマンサ?」
「うん。いつもおうちにいて、シチューとかつくってくれるの」
それがこの家の家政婦だと見当は付いた。
「…なら、そのサマンサが心配するだろ。家の中に戻ってないと、知らねえやつに連れてかれっちまうかもしれねえぞ?」
こんな小さな子供に誘拐の危険性など説いても無駄だと分かっていたが、一応は諭してみる。
だが子供はそんな事分かっているとでもいいたげに、にこにこと笑った。
「だいじょうぶ!ぼく、へんなひとにはついていかないよ!」
「って、説得力ねえなあ。俺にはなんでこんなに懐くんだ?」
「だって、おじさんはぜんぜんこわくないし、それに」
「それに?」
「ずーっとあおときんいろにひかってて、すごくきれい」
緑色の綺麗な目を、驚いて言葉のない虎徹へと向ける。
この子供はおそらく、感受性が人よりかなり強いのだろう。虎徹の天使としての本当の姿を、隠していても敏感に感じ取っているらしい。
「はは、すげえ子供見つけちまったもんだ」
「?」
人懐こいのか、それとも人寂しいのか、子供はぴったりと虎徹にくっついて離れない。
「こら、だめだろ」
「うーっ」
腕にしがみついてくるのが可愛くて、つい天にいる愛娘を思い出した。
虎徹の役目と仕事のせいで、なかなか会えない生活をもう何年も続けている。
いつもこんな風に寂しい思いをさせているのかと思うと、胸がぎゅっと痛む。
「しゃあねえなあ…中まで行って大丈夫か?俺、サマンサさんに叱られねえ?」
「だいじょうぶだよ」
優しくしてやりたくて、腕に抱きかかえる。
抱っこしてやると、子供は嬉しそうに虎徹の首に抱き付いた。
「ぼくがちゃんというから!」
「ほんとかあ~?頼むぜ、ってぼうず、名前は?」
「バーナビー!4さい!でも、パパもバーナビー!」
「??なんで?」
「わかんない」
「それじゃアレだろ、そうだな…普通バーナビーって、バーニーか?何か言いにくいんだよな~」
「おじさんは?」
「おじさんはなあ、タイガーだ」
虎徹という名前は、天使としての通り名ではなく、魂の本質となる名前だ。
おいそれと教えて良いものではなく、呼んでいいのは例えば伴侶であるとか、両親であるとかそういう間柄だけだ。
だから天使としての名前を教えると、バーナビーはきょとんとした顔をした。
「タイガー?とらさん?」
「そう。虎だ……んじゃ、お前さんはバニーだ!俺とお前とで、タイガー&バニー!」
「どうぶつだね!タイガー&バニーかあ…!」
嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐぷくぷくの頬をつついてやる。
これは可愛がられる訳だと、虎徹もすっかりめろめろになっていた。
「すんまっせーん」
エントランスに立ってそっと声を掛けると、慌てた様子でサマンサらしきエプロン姿の女性が扉を開けてくれた。
「まあまあ!ぼっちゃん!」
人のよさそうな女性だ。やはり、この家は善なるものを引き寄せるのだろう。中から流れてくる空気も、この場も天使の虎徹にとってはひどく居心地がいい。
「すみません、ご迷惑を…!」
「ああ、いいんですよ。この子が門のとこまで一人で出てたもんで、危ねえなと思って」
「ぼくが、ひとりでパパとママをおむかえにでたの。おじさんはわるくないよ!」
「旦那様と奥様は、もう少し遅くなるそうですよ。だからぼっちゃん、どうぞ大人しく中で待っていてくださいね。サマンサは心臓が止まってしまいます」
「うん…ごめんなさい」
微笑ましい2人の姿を見て、虎徹は一歩後ろへと下がった。
ざっと屋敷の様子も見られたし、ひとまずこれで目的は達成した。…はずだった。
「それじゃ、俺はこれで」
暇しようとして、くん、とベストの裾を引かれる。
「だっ?」
見れば、悲しそうな顔をしたバーナビーが所在無げに立っていた。
緑の目は潤み、今にも涙の粒が零れ落ちてしまいそうだ。庇護欲を煽られるのを、虎徹はぎゅっと唇を噛んで耐える。
「タイガー、いかないで。いっしょにいて」
「ってなあ、駄目だってバニー。俺はさ、誘拐犯って疑われてもおかしくないんだぜ?」
「ちがうよ!タイガーはちがうもん!」
「まあ…」
サマンサは頬に手を当てて、困り果てた様子の虎徹に声を掛けた。
「ぼっちゃんもこう言っている事ですし、どうぞ休まれていきませんか?おやつもありますよ」
「え、でも、俺みたいな怪しいやつ、上げちゃ駄目ですよ」
「怪しいかどうかは、私にだって分かります」
にこにこと微笑んで、サマンサはどうぞと一階のゲストルームの部屋を開けてくれた。
「今飲み物をお持ちしますから、ぼっちゃんもお手伝いを」
「うん!」
先にキッチンに走って行ったバーナビーを見送って、こっそりサマンサが教えてくれた。
「あんなにどなたかにワガママを言うぼっちゃんは、私も初めて拝見しました。…きっと、ご両親がお仕事で不在がちですから、お寂しいのでしょう」
「ご両親…?確か、科学者って聞きましたが」
「そうです。どちらもロボット工学の権威で、研究所にお勤めされています。だからぼっちゃんは日中お一人で、大体上の書斎にこもって本を読んでいらして…」
一人で書斎にこもり、本を読んでいる小さな後ろ姿を想像して、また胸が痛む。
やはり楓を思い出してしまう。年嵩もそう離れていないから猶更だ。
「…そうですか。我慢強い子なんですね」
「ええ。ですから、少しだけでいいんです。遊び相手になってくださいませんか。…見ず知らずの貴方に、こんな事をお願いするのは申し訳ないのですが…」
なぜかしら、と虎徹を伺い見る。
「あなたには、すごく安心するんです。不思議なこともあるものですね」
サマンサもどこかしら、虎徹の清浄な空気を感じ取っているのかもしれなかった。
ここまで言われて断るのもなと、虎徹はわかりましたと頷いた。


「こらっ、あんま引っ張んなって」
両親にサマンサが電話をし、了承を得たことをバーナビーにも伝える。
するとバーナビーは嬉しそうに、虎徹を二階の書斎へと引っ張って行った。
なんでも見せたいものがあるのだという。
「はやく、はやく!タイガー!」
階段を昇り切ると、書斎は廊下の一番奥にあった。
バーナビーが背伸びをし、銀に鈍く光る鍵穴にそっと鍵を差し込むと、カチリというかすかな音と共に容易く錠は外れた。
こんな所まで許されるなんて、この家の不用心さは虎徹でさえも驚くばかりだ。
「どうぞ、タイガー」
虎徹は恐る恐る金で出来たドアノブに手を掛け、奥に向かってゆっくりと押す。
扉は今度は重い金属音を上げ、ギィィィイ、という摩擦音と共に開いていく。
堅固で重厚な桃花心木の扉の向こうから、閉じて凝っていた空気が流れ出す。
インクと紙の匂いが漂い、差し込んだ照明の光が茫洋と部屋の輪郭を照らし出していく。
ひっそりと眠るようにして人の訪れを待っていた部屋が、虎徹の訪れによって急速に息を吹き返した。
少しばかり緊張した面持ちで虎徹は足を踏み出し、バーナビーが示すのを頼りに入ってすぐの両脇にある燭台に火を灯す。
そうして顔を上げ、眼前に広がる光景に虎徹は驚いた。
「…こいつはすげえ」
目の前には大書庫が広がっていた。
書斎の出入り口はこの扉のみで、明り取りの窓さえもない。
燭台のオレンジの仄灯りに照らされて見えるのは、奥までびっしりと続く、本がぎっしりと収められた書棚だった。
これはもはや書斎というレベルではない。
燭台のすぐ横にあったスイッチに手を伸ばせば、電気もちゃんと通っているらしくじじ、と音を上げながら静かに奥まで灯りが壁を伝っていく。
少しだけ壁沿いを歩いてみると、棚には古今東西の奇書や稀少本などありとあらゆる書籍が収蔵されているのが分かった。こういうものに詳しくない虎徹でも知っているような名前から、何世紀も前と分かる写本まで揃っている。
低い室温と適度な湿気に守られているのだろう。
日光も届かないおかげでどの本もとても状態が良い。
この大きさでは、書庫そのものが2階の大半を占めているかもしれない。
個人の所有するレベルではおそらくこれ以上は望めまい。
バーナビーの両親は研究職につく傍ら、相当な蒐集家でもあったようだ。
見事な蔵書に囲まれて、バーナビーは虎徹を誇らしげに見上げた。
「ぼくね、いっつもここにはいって、ほんをよんでるんだ。もじもよめるし、むずかしいことばももうたくさん知ってるよ」
「…さびしいか?」
「さびしいけど、ほんをよんでると、そういうのはわすれちゃう。目がわるくなるからって、ママがいるとすぐむかえにきちゃうけど」
バーナビーはこの歳なりに、一人の過ごし方を見出しているらしい。
もっともっと両親に甘えて良い年頃なのに、我慢の仕方を覚えているようなものだ。
けれど、怒る代わりに虎徹は褒めることにした。
「えらいぞ。バニーはいい子だな」
虎徹が髪を撫でてやれば、目を細めてバーナビーは隣の奥の棚へと駆けて行く。
黙ってそれを見ていると、ややあって一冊の本を持って戻って来た。
美しい純白の革製の表紙には金で『天国』と箔押しがされている。
「あのね!タイガー、このひとににてるよ?」
バーナビーが開いたページには、6人の天使の絵が描かれていた。
「真ん中のね、この、青ときんいろのひかりのなかにいる、天使さま!」
それこそ人間が描いた虎徹の姿だった。
載っている姿は全く今の虎徹とは違うものの、本質を見事に捉えている。
これは確実に、『神の手』の一人が描いたものに違いない。普通の人間には不可能な傑作だ。
それにしても本当に、この子の勘の良さには恐れ入る。
冷や汗を内心かきつつも、虎徹はそうだな、とバーナビーを抱き寄せた。
椅子に座って、膝の上にバーナビーを乗せてやる。
「…どうして、そう見える?」
「なんとなく。でも、このきれいな色の目とか、にてるなって…」
ちがう?と悲しそうに首を傾げるので、虎徹はぐりぐりと頬を擦り付けた。
「いたい!タイガー、おひげ!」
「そうだよ。これは、俺だ。…みんなを守って戦う仕事をしてる」
「…それ、たいへん?いたい?」
「痛い時もあるさ。でも、誰かを守るためなら、何だって怖くない。この力の最後の一かけらまで、皆の為に使う。そう決めてるんだ」
「タイガー…」
頬に触れてくる小さい手に、虎徹はそっと目を伏せた。
「お前も、誰かを守れる子になるんだぞ。おじさんがずっと見ててやるからな」
「ほんと!?ぼくも、タイガーみたいになれる?」
「なれる。お前はいい子で、強い子だ。バニー」
うん、ぼくもがんばる!と笑うバーナビーに、虎徹は嬉しくて可愛くて、こつんと額を合わせた。
そうしてしばらくバーナビーと楽しく過ごし、帰ってきたバーナビーの両親にも虎徹は大歓迎を受けた。
見ず知らずにどうしてそこまで、と聞いても、両親はサマンサとバーナビーがそう言うのだから、私たちも貴方を信じますよ、とこともなげに答えた。
天使よりも天使らしいような家族に、虎徹はよかったらまた来て、バーナビーと遊んでくれるように頼まれた。
たくさんの食べ物と土産を渡されて、嬉しくて虎徹はベンにも持って行ってやろうと翼を広げた。


バーナビーの家に顔を出すようになって一週間が経とうとしていた。
いずれは記憶を家族からも消してしまわなくてはならないと分かっていても、居心地のいい場所はついつい虎徹も離れ難い。
今日はまさに、マーベリックがブルックス家にやってくる日だった。
帰り際を狙い、マーベリックの中に住まう蛇を調伏、撃滅させる。
そして、無事に役目が終わった暁にはバーナビーたちの記憶を消して、虎徹も天界へと戻らなくてはならない。
「すっかり絆されちまったなあ、虎徹」
マーベリックがブルックス邸に入った事を確認し、蛇を逃がさないよう、シュテルンビルトの空間はベンたちによって閉じられている。
人間には決して見る事の出来ない光の柱が放射状に空まで伸びていて、柱に閉ざされた中はまさに箱庭といった様相だ。
虎徹はその外側に立って、シュテルンビルトを睥睨していた。
「…しゃあないっすよ、バニーを見てると、どうしても楓を思い出しちまって」
「楓ちゃんか…けどな虎徹、人間と天使とは共には暮らせねえ。人間はあっという間に天使の年を追い越して、懸命に生きて、100年ばかしの短い命を散らしちまう。…だから、辛ェのはこっちだぞ」
「分かってますよ。蛇をぶっ倒したら、ちゃんとバニーの記憶は消します」
「そうしとけ。成長だけなら、天から見守ってやりゃあいい」
バーナビーのあどけない、愛くるしい笑顔が浮かぶ。
出会った人間に思いを残してしまうのは、虎徹の悪い癖だ。
「…はい」
自分を無理矢理納得させるように頷くと、不意に虎徹の鼻が何かの匂いを感じ取った。
「…なんだ…?」
ハンチングを被り直し、虎徹は周囲を見回した。
だが、何かが見える様子はない。それでも、虎徹の鋭敏な感覚はわずかな異変を拾い上げる。
仕舞っていた翼を広げ、青い光を纏いながら空へ舞い上がる。
もう一度シュテルンビルトの全景を睥睨すれば、ゴールドステージの方から悪しきものの気配を感じ取った。
「…まさか」
羽根を散らして力を使い、意識を集中する。
蛇と赤い炎が、文字通り蠢いている。それはバーナビーの家の方角だった。
嫌な予感に血の気が引く。
「…おい、親友夫婦に会いに行くだけじゃなかったのかよ!?」
「虎徹!!」
声を荒げて、虎徹はベンの制止も聞かず翼を大きく広げた。
本気で虎徹が飛べば、どんな鳥だろうと天使だろうと敵わない。
間に合うだろうか。
近づくにつれて、赤々と燃える邸宅が見えてくる。
「なんって馬鹿だよ俺は…!!!」
この分では、バーナビーの両親の生存はおそらく、絶望的だろう。
まだ柱は破られていないから、蛇は確実にそこにいる。
だが、だからこそクリスマスだと喜んで、朝サマンサと両親へのプレゼントを買いに出かけて行ったバーナビーは無事だろうか。
…こんな事なら、ましてバーナビーだけでも離れるべきではなかった。
傍にいて、マーベリックが来る時間も一番近くで守ってやるべきだった。
後悔は苦い。
虎徹は全速力で空を駆けた。力を使う分、羽根が端から抜け落ちていくのにも頓着しない。
なりふりなど構ってはいられなかった。
「バニー!!!」
叫んで、虎徹は燃え盛る火の中へと飛び込んだ。


12:52 PM - 13 Sep 13 via Twishort

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