僕ヒで配った無配です。
ロンTバニーと春よりちょっとだけ前のこてつさんのお話。
うっすらRIsingに続くかんじ。 #ロンTバニー
タグつけるのもおこがましいけども
「ご苦労さま、バーナビー君。もう帰ってもらっていいよ」
「ありがとうございます」
バーナビーはぺこりと頭を下げ、ロイズの部長室を出た。
今日は仕事が立て込んでいて、朝から虎徹とは別行動だ。やっと片付けて戻れば既に7時を回っている。
虎徹はと社員証を通しての退勤記録を見れば、とっくに帰った後だった。メールも書き置きも特にはない。けれど、バーナビーには少し気になっていることがあった。
2部に復帰して3箇月余り。
連携も上手くいっている。仲だって前以上にいいし、たとえ以前とは違う2部だろうと仕事に腐ることはないし、どんな事件だろうと手も抜かない。
だが、虎徹の顔が芳しくないことに、バーナビーは気がついていた。
だから何かあるのなら直接聞こうと思っていたのに、なかなかそのタイミングがない。…前にも虎徹の能力減退に際してこんな事があったから、嫌な予感がどうしても頭をよぎってしまう。
ただ、何か予定があっただけもしれない。虎徹は適当な所がある割にそういうメールや連絡に関してはとてもマメな方だが、常に自分の事を気にかけてくれるなんて、高望みもいいところだ。
仕方がないと無理に自分を納得させて家に帰る。
けれど念のため、帰る間にメールをしてみた。少し考え、内容は当たり障りのない【お疲れ様です。残っていた書類はちゃんと終わりましたか?】としておく。
―――けれど、家に着いてもメールに返信はなかった。
ならばと思い切って携帯にかけてみても、電話は繋がらない。
一気に落ち着かない気分になって、バーナビーは携帯をせわしなく開閉しては色々な事を考える。
また一人で余計な事を考えていやしまいか。
自分に黙って、どこかへ行くつもりではないか。
2部に戻り、再結成した時に、悩み苦しい時は自分にも言ってくれと互いに話した筈なのに。
そう考え始めると止まらない。
悩む時は立ち止まらず、動けと教えてくれたのも虎徹だった。
バーナビーはライダースジャケットをひっ掴んで、帰ってきたばかりの部屋を飛び出した。
虎徹の家に向かって、夜の幹線道路を愛車で飛ばす。だが、S.LOOPERを降りてすぐ、片側一車線で事故があったらしくブロンズメダイユに向かって道路が大分混み合っている。
しばらく流れに乗って減速して進むが、にわかに速度が落ちる。
このままでは虎徹の家に着くのが大分遅くなってしまう。今は1分1秒も惜しい。
「…くそっ」
バーナビーは分岐を横道に入り、路駐の可能な道路に車を寄せて停車させた。そのまま車を置いて、虎徹の家に向かって走り出す。
胸で金のドッグタグが揺れて音を立てる。
ここからなら10分くらいだろう。いつもなら然程気にしないこの距離が、今日は走っても走っても遠く感じられた。
近所のスーパーより、少し遠いスーパーの方が閉店間際はかなり安い。
虎徹はちょっと足を伸ばし、帰りしなそのままモノレールで2駅先のスーパーまで買い出しに出ていた。一度家に帰るよりはその方が時短になる。
両手にスーパーのビニール袋を下げて、コンパスをざかざかと動かして通りを歩く。空気が澄んで、月の綺麗な冬の夜だった。
白い息を吐きながら、上に二階層が広がる面積の少ないブロンズからの空を見上げる。季節は暦も春が近づき、大分寒さも薄れてきている。あと一回雪が降るか降らないか微妙な所だが、この暖かさならどうだろうか。
虎徹はもう長く住んで久しいシュテルンビルトの空気に、春の匂いを感じていた。
「すっかり遅くなっちまったな…」
ぼやいて、玄関に上がる階段を昇る。
「―――虎徹さん!」
すると、上まで登ったところで後ろから声が掛けられた。
自分の事をそう呼ぶ人間は、世界にたった一人しかいない。
「バニー!?」
振り向けばジャケットを腕にかけたまま、バーナビーが息を切らせてそこに立っている。
バーナビーが息を切らせる姿は非常に珍しい。驚く虎徹にバーナビーは無言で歩み寄り、突然虎徹の体を抱きしめた。
「だっ」
どさどさと音を立ててビニール袋が落ちる。中から転がり出たオレンジや林檎が転々と階段を落ちて行った。それを勿体無いと感じるよりも、こんな往来で抱き締められる羞恥よりも、いつもと様子が明らかに違うバーナビーへの驚きの方が勝った。
「おい、バニー?」
「…」
答えずにバーナビーははあ、と溜め息をつき、虎徹の肩口に額を付ける。
「…本当に、よかった…心配したんですよ」
「は?」
「メールもしたし、携帯にも掛けたんです」
「あー、そういや全然見てねえや」
「見てない?」
「冷蔵庫に何もものなくてさ。ちょっと遠くまで買い出しに行ってきたんだよ」
「…」
それでも顔を上げないバニーに、虎徹はぽんぽんと背を撫でてやる。
「んなとこで立ち話もなんだから、中入れよ」
ビニール袋を拾い、虎徹は鍵を開けて中にバーナビーを促した。流石に夜とはいえ、こんな玄関先で何だかんだと長話も気恥ずかしい。
「ほれ」
半ば強引に背を押して玄関に押し込む。だが、バーナビーはそれでも動かなかった。
「何だよ、ホントにどうした?」
扉を閉めた所で抱き締めてやると、今更ながらにバーナビーの服が冷たい事に気が付く。それもそのはずで、3月とはいえこのカットソーだけの恰好で走って来ればそれはそれは寒いだろう。
「お前、冷てぇ…!どっから走ってきた?」
「途中事故渋滞になっていましたから、車は置いてきました」
「はあ!?なんでまたそんな…」
「…さっきも言ったでしょう。貴方が、心配だったんです」
絞り出すような声を発して、眉を寄せたままのバーナビーがようやく動く。
虎徹の腰と項とを抱き寄せて、切ないような表情で虎徹の顔を覗き込む。
「貴方が、ずっと浮かない顔をしているから。だから、僕に黙ってまたどこかへ行く気なのでは、と」
撫でる指は優しいが、傍らを離れようとしないのはそのためか。
「…ばあか」
胸が一杯になって、虎徹はバーナビーの後頭部に指を差し入れる。
「俺はもう、お前を置いて何処にも行ったりしねえよ」
「本当に?」
「本当に」
言葉を重ねれば、バーナビーがますます強く虎徹をかき抱く。
「浮かない顔の、意味は…?」
「…お前が大分忙しそうだからって、なんか元気出してもらえねえかなってさ。今日、だからチャーハンの材料、たくさん買ってきたんだぜ」
お前に食わせたくてさ、と言うなり、背を撫でていた手がシャツの中に潜り込んでくる。
「虎徹さん、虎徹さん…」
「…んっ…!」
首筋に顔を埋められて、唇で辿られて思わず声が出る。
2部に戻ってきて、どんなに成長が見えて大人の男らしく余裕そうに見えていても、バーナビーの本質は変わらない。
そしてそれは虎徹も同じだ。外見は変わっても、なかなか変わる事の出来ない部分はある。バーナビーに頼る事を多少は覚えても、虎徹は思いを口にするのはまだまだ苦手だ。、…ずっと思っている、バーナビーをこのまま2部に留め置いていいのかという気持ちも、バーナビーの思いに水を差すようで、まだ口には出来ていない。
それでも。今はこのまま、バーナビーが望む限り傍に居たい。
「…お前、ん、腹減ってる、だろ…?」
「空いていますが、今は、貴方がいい」
膝裏を掬われ、腕に抱き上げられる。そのまま性的なキスをされて、腰がぶるりと震えた。
「んっ、んうう」
バーナビーの舌は思った以上に熱くて、堪らなくなって首に腕を回す。なんだかんだ言おうが考えようが、虎徹の体はとても正直だ。
「…しゃあねえなあ」
虎徹は赤い顔で目を細め、じゃ、しよっか、と小さく小さく呟いた。