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@stellaSSL はる@ゴネクあ25
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やばい終わるか危険になってきた…!
でも頑張ります。3冊目こんな感じっていう、宝石の国兎虎。
表紙も頼んでいますのでお口に合いそうでしたらよろしくどうぞ。




虎徹

ダイヤ属、モース硬度10、最も硬い宝石である多結晶ダイヤモンド、ボルツ。
バーナビーの相棒。
ボルツとは天然の多結晶ダイヤモンドのことで、ダイヤモンドの微細な結晶が緻密に集積した鉱物の変種である。
黒色ダイヤモンド、あるいはブラックダイヤモンド (black diamond) ともいう。
劈開がないので、単結晶ダイヤモンドと違い非常に割れにくい。
黒いためか全く月人に見向きもされない。


バニー

ダイヤ属、モース硬度10、虎徹に次いで硬い単結晶ダイヤモンド。
虎徹の相棒。
ダイヤモンドの屈折率は2.42と高く、内部での全反射が起こりやすい。
シンチレーション、ブリリアンシー、ディスパーションを起こしつつ絶えず輝いているので、髪も睫毛もとにかく眩しい。
ただし、物質破壊に対する抵抗力を示す靱性は水晶と同じ7.5であり、モルガナイトであるネイサンやサファイアであるキースの8よりも低い。





窓から勢いよく風が吹き込む。
ばたばたと本の頁が風でめくれ、楓は慌てて窓を閉めに行った。
紅茶色の髪がびゅうびゅうと後ろに流れる。
けれど、カーテンまで閉めると海が見えない。楓はカーテンだけはそのままに、からからと窓を閉めて席へと戻った。
開いた本の頁はちょうど、この国の成り立ちを示す頁だった。
何度も何度も聞かされ、暗記するまで覚えた序文だ。

この星は6度流星が流れ
6度欠けて 6個の月を産み 痩せ衰え
陸がひとつの浜辺しかなくなったとき
すべての生き物は海へ逃げ 貧しい浜辺には 不毛な環境に適した生物が現れた
月がまだひとつだった頃 繁栄した生物のうち 逃げ遅れ 海に沈んだ者が
海底に棲まう微小な生物に食われ 無機物に生まれ変わり
長い時をかけ 規則的に配列し 結晶となり
再び浜辺に打ち上げられた
それが我々である

なんとなくすぐに書き取りにも戻る気になれなくて、楓はくるくると髪をいじった。
紅茶色のベースが指について、その下から代わりに薄荷色の鮮やかな髪が出てくる。
「あっ、もう取れてきちゃってる!夜に染め直さなきゃ」
瞬間、びゅう、と窓の外で突風が吹いた。
楓は飴色の目を上げて、窓の外を見る。
だがそこには明るい陽光と海が広がるばかりで、取り立てて変わった様子はない。
けれど、慣れた気配が一瞬あった気がして、楓は小首をかしげる。

「…おとうさん?」



『南に、予兆の黒点が出た!』
斎藤さんの声に、向かいに座っていたバーナビーは静かに席を立った。
動くたびに髪も目も光を吸って、目を開けていられないほどに眩しくきらきらと輝く。
『よし、100年に一度の靭性再検査、終了!』
「では、行きます」
愛用の刀を手に取り、パチンと留め金で腰に止める。
これは見回りや月人の迎撃に向かう時以外でも、出来る限り体から離さない。
『タイガーは逆の北の浜だったようだな!ロイズさんがすぐに向かわせるそうだ』
「残念ながら、タイガーさんの出番はありませんよ。僕が全て片付けますから」
ベルトを直し、ちり、と刀が鳴った。
「では」
律儀に頭を下げ、バーナビーは窓から優美に飛び出していった。
純粋な速さならバーナビーが一番だ。
跳ぶように地を駆け、南の浜へと向かう。
空には確かに、黒点がじわりと滲みだしていた。

しばらく草原を駆け抜けて、浜辺に降り立つ。今日は少し風が強くて、ざざ、と足元の草が揺れている。
空に出た黒点は次第に大きくなり、目の前の空の真ん中に突然地平線が現れる。そこから黒い月が昇った。
黒い月の後ろから現れたのは、まるで菩薩のような姿をして大きな器を両手に持った人間らしき異形と、菩薩に無数に従う人々、否、弓持つ兵士の群れだった。
これが、月からやってくる月人だ。
黒い雲に乗り、花びらを撒き散らし、身分の高いものの行幸のように飾りのついた豪華絢爛な旗、金棒、花飾りなどの唐物を持って現れる彼らの目的はただ一つ。
宝石たちを捕まえることだ。
薄い冷たい笑みを浮かべ、彼らは持っていた弓矢をつがえる。
その特性上、バーナビーたち宝石は基本的に死なない。
光り輝く宝石たちを捕まえ、割り、かけらを加工し、自分たちの身を飾る装飾品にしようと無数に襲いかかってくる。
黒い矢が、一斉にバーナビーに向けて放たれた。
バーナビーは刀を抜き、ぐんと地を蹴った。
刀身を使い、刀を体に沿わせるようにして閃かせる。
刀に乗った矢を、今度は逆に刀をふるって跳ね返す。
矢は吸い込まれるように月人へ突き刺さり、突き抜けて体を霧散させた。
「今日は結構、数が多いな」
のんびりと呟いて、バーナビーは青い光を纏って地を蹴る。
これは光を食べ、バーナビーの体を動かしてくれている微生物が閉じ込められた内包物、インクルージョンの成した奇跡だ。
5分間だけ身体能力が100倍になる、奇跡の力。
刀を鋭く突き出して、矢尻までを綺麗に真っ二つにへし割る。
だが、この程度で月人が諦める訳が無い。今度は月人たちは、錫杖を手にとった。
弓よりも遥かに重く、返すにも刀と体とに負担をかける攻撃だ。
さてどうしたものかと一旦着地すると、空のてっぺんから声が飛んできた。
「バニー!!」
顔を上げれば、きら、と上空で何かが光った。それはすぐに、降下してくる人間だと分かった。
呼ばれただけで誰だか勿論分かっている。険しかったバーナビーの目が、少しばかり和らいだ。
「俺にもちょっとくらい残せっての!」
黒い刀と体とが閃いて、赤い飾り紐が踊る。
虎徹だ。虎徹もバーナビーと同じように、青い光を纏っている。
「タイガーさん!」
「ワイルドに吼えるぜ!!」
叫ぶと同時に、錫杖を持った腕を刀で水平に切り落とす。
さらにずば、と虎徹の刀が一閃し、菩薩のなりをした月人の脳天を割る。そのまま刀を振り下ろし、胴体までも分断する。
月人は持っていた大きな宝石を集める器ごとどろ、と溶け、中空で霧散した。
刀を収め、すたん、と浜辺に着地した虎徹の元へと歩み寄る。
「お前ほっとんどやっちまうんだもん、俺の分は!」
「すみません。虎徹さんの手を、煩わせたくなくて」
「いいんだよ、俺はお前らと違ってただ硬いだけで、見向きもされないダイヤだぞ。だから、お前さんたちを戦って守るためにいるんだってのに」
「いいえ。たとえ月人からしたらそうだとしても、僕にとっては貴方が世界で一番美しい宝石です」
そう言うと、バーナビーは後ろから虎徹を抱きしめた。
「だっ」
「…貴方が、ボルツでよかった。貴方が狙われて連れ去られて、ここからいなくなる事を考えただけでぞっとする。…絶対に、僕が守ってみせる」
「だーいじょーぶだって。最後まで残んのは、明らかに俺だろ」
「残る?…一人になんて、絶対にしない。僕は貴方も、僕自身も守ります」
決意の滲む声に、虎徹もやれやれと相貌を崩す。
「あんがとな、バニー」
振り返れば、バーナビーの眩しいダイヤの輝きが目を射る。
「すっげえな、今日も盛大に眩しすぎ!」
「眩しいですか、すみません」
「いんや、いい。こうすりゃいいもんな」
虎徹は目を閉じ、バーナビーの肩口に顔を埋める。
しばらくそのまま、2人で寄り添う。バーナビーが虎徹の腰に腕を回すと、ダイヤ同士が引き合うのか、リリ、とまるで鈴のような音を立てて擦れ合った。
「…そろそろ戻るか。見回り交代の時間だ」
「次は誰が?」
「ああそっか、お前斎藤さんのとこでメンテしてたんだもんな。キースとイワンだよ」
「なら、安心ですね」
2人は虎徹とバーナビーの次に強いコンビだ。
イワンは他人から敬遠されがちの、ちょっと特殊な体質持ちの宝石だが、キースはそれを全く気にしないいいコンビだ。
浜辺から歩き出して、虎徹は唐突に手をぽんと叩く。
「そうだお前、楓んとこ寄ってってくれよ。ロイズさんにいっぱい本寄越されて、こもって書き写してんのはいいんだけど、お前に会いたいってさ」
「勿論。では、ついでにこのお土産を」
バーナビーはいつの間にか、手に植物の球根を2つ持っていた。
「何これ?」
「新種と思われる植物ですよ。楓ちゃんのお仕事である、博物誌の編纂の一助になればと」
「お前、いつの間にこんなの…」
「見回りといっても、空ばかり見上げていては時間の無駄使いです。別の場所ですが、他にもあと2種見つけてあります。今度一緒に取りに行きましょう」
「弁当持ってな!」
「ええ」
虎徹が笑えば、バーナビーも笑う。
2人は横に並んで、風の抜ける草原を歩いて行った。
その後を追うように海からの強い風が吹いて、黒と黄金色に輝く髪をさわさわと揺らした。


周囲は全て海となり、陸地は円を引っ掻いたような形状のここが残るのみだ。
ひとつの浜辺しかなくなった陸上には、草原や崖以外には黒い水晶で出来た堅牢な建物しかない。
聖堂と呼ばれるここには、28人の宝石たちが暮らしている。
彼らの体を動かすのは、宝石の体を作ったとされる微生物だ。
内包物として閉じ込められた彼らは光を食べ、宝石たちの体を動かしてくれている。その微生物は、たとえ宝石たちが砕け散ってもある程度集まりさえすれば傷口をつなぎ、生き返らせてくれる。
つまり、粉になって土に紛れ、海に沈もうとも生き返る。その状態でさえ仮死に過ぎないということだ。
つまり宝石という特性上、皆不老不死という訳だ。
ただし、微小な生物を内包した無機物に生まれ変わり、長い時をかけて結晶となり浜辺に打ち上げられるまでにはかなりの個体差がある。
よって浜辺に打ち上げられてから数え出す年齢も、見た目もバラバラだった。
宝石たちの住む聖堂は、おおむね4人によって管理されている。
宝石たちのメンテナンスを行う斎藤さん、宝石たちを教育するロイズ、宝石たちと月人との戦争全般に携わるアニエス。この3人だ。
もう一人はベン。宝石の生き字引で、国の成り立ち以外でも彼が知らないことはないと言う。
ただ、彼は隠遁を公言している。よって普段は虚の岬にいて、時折戯れのように聖堂を訪れては、宝石たちに手を貸してくれる。
彼らの助けによって宝石たちは日夜、自分たちを装飾品にし連れ去ろうとする月人と戦っている。
図書室を開けると、オレンジ色の暖かいライトの下で女の子が一人、ペンを走らせていた。
片手で本の頁を捲っては、目で写し取った文字を正確に写していく。
「楓〜!」
虎徹が入口から声をかければ、ぱっと楓と呼ばれた女の子が顔を上げた。
「お父さん!」
後ろからはバーナビーも顔を出す。
「こんばんは、楓ちゃん」
「バーナビー!」
父親には目もくれず、楓はバーナビーに抱きついた。
「遅くまでお疲れ様。休憩もちゃんと取るようにね」
「はい!でも大丈夫、私すごく元気で丈夫だから!」
「丈夫じゃないだろ、お前は硬度3半なんだから!ちょっと何かあればすぐ割れちゃうんだぞ!?」
「お父さんは心配しすぎなの!大丈夫だったら、バーナビーもいるもん!」
そうだね、と笑い、バーナビーはそっと楓の背を撫でた。
「かえでぇ〜…」
「楓ちゃん、お父さんをそんなに叱らないであげて。君を心配しているんだよ」
「でも…」
「ほら、機嫌を直して。南の浜から取ってきた、新種の草花だよ」
手袋の上に乗せた球根に、楓の顔が輝く。
「わあ!嬉しい、ありがとうバーナビー!」
「どういたしまして」
とはいえ、娘の喜ぶ顔を見ていれば虎徹もまんざらでもない。
ただ、娘の恋する相手は俺のものなんだぞ、なんて、言えるわけもないがやはりもやもやはする。
複雑な思いで2人を見ていると、楓の髪が少しばかり薄荷色を露出させていることに気がついた。
「楓!髪!」
「あ、そうなの。今日染め直さなきゃって…」
「なら、ほらもう本は片付けなさい!部屋に行ってちゃんと染め直すんだぞ!お父さんがやろうか?」
「いい!自分で出来る!」
「…僕がやろうか?人にやってもらった方が早いし、楽だと思うよ」
「えっ、いいの!?バーナビー!」
「勿論」
楓を伴ってバーナビーが図書室を出て行く。
後に残された虎徹はじわ、と目を潤ませた。
「あああ…」
さっきよりも複雑すぎる気分になって、虎徹は肩を落とした。
楓は母友恵に似たのか、硬度3半のフォスフォフィライトとして生まれてきた。
気を付けないとすぐ割れてしまう硬度で、かつ、月人が最も好む薄荷色の髪。
それを危惧した虎徹は、楓に髪を定期的に染めさせて、月人の目から隠すようにしていた。それでも、元々の色はどうしても一定期間経てば出てきてしまう。
バーナビーに任せれば安心だが、仲の良さは嬉しくもあり、なんとなく悔しくもある。
幸せなことなのだが、幸せだからこその悩みだろう。
贅沢だなと頬をぱんぱんと叩き、虎徹も2人の後を追った。


12:12 PM - 18 Jan 14 via Twishort

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