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@stellaSSL はる@ゴネクあ25
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ゴネクに間に合いますようにと書き始めた新刊

ライジングの衝撃が来る前に脱稿したい…!w
*4歳のバニーのところに虎徹さんがNEXTによって逆行するお話です。
例によって途中まで。




「今日も元気だ、おてんとさんが高い!」
虎徹はうんと伸びをして、ごろりとダブルチェイサーのシートにもたれかかった。
シュテルンビルトの空は晴れ渡り、鳩がビルの谷間を抜けて飛び去っていく。
バーナビーが運転するダブルチェイサーを追い越し、あるいはすれ違う人々が皆2人に手を振っていく。
そのほとんどはバーナビーに対してだった。
虎徹は大概虎徹と同年代か、上の世代のしかも同性にしか人気がない。
チェイサーをわざわざ止めて笑顔でファンに手を振るバーナビーを、虎徹は頬杖をついてじっと見ていた。
「お前さんもよくやるよ。2部に戻ってきてもちぃーっとも変わんねえなあ」
「2部にいても、変わらずに応援してくれるファンを大切にしなくては。貴方だってそうでしょう、むしろ前よりファンが増えているとロイズさんから聞きましたよ」
「俺ぇ?んなこたねえよ、俺全然人気ねえんだぜ?」
バーナビーは首を振って、ドルン、とダブルチェイサーのエンジンをかけた。
「貴方を知れば知るほど、皆ファンになる。ヒーローたちが皆貴方を慕っているのが、その証拠ですよ」
「…お前も?」
てっきり躱されると思ったのに、バーナビーはにっこりと見惚れるような笑みを見せる。
「勿論。世界で一番、貴方のファンだと自覚しています」
「だっ…」
これには流石に虎徹も照れる。
「おま、めっちゃ恥ずかしい!」
顔を赤くして、唇を尖らせる虎徹に更に追い討ちをかける。
「でも、これで結構複雑なんですよ」
「はあ…?」
「貴方の良さは僕だけが分かっていればいいなんて、我が儘を言いたくなってしまうから」
バーナビーは手を伸ばし、虎徹の手の甲を撫でる。
その触れ方にぞくりと来て、虎徹は猫のようにびく、と肩を跳ねさせた。
「馬鹿っ、んなとこで」
「触れただけですよ?」
薄く微笑まれ、虎徹はわなわなと両手を震わせて車体に突っ伏す。
「もー…お前どうしてそうなの!」
「いつもでしょう」
いい性格にすっかりなってしまったバーナビーは涼しい顔だ。それでも、それも気安いがゆえの遠慮のなさと、心の距離なのだと分かっている。
虎徹に心を開いてくれているのだ。
「ったく…」
それが分かるから、言うほど虎徹も膨れている訳ではない。
虎徹がのそのそとシートに戻るのを見て、バーナビーがチェイサーのグリップを握る。
車道に戻ろうとして、突然BEEP,BEEPとPDAが鳴り響いた。
「バーナビーです」
『ボンジュール、ヒーロー!タイガーもいる?』
「いるよ!何だアニエス!?」
『ホテルのスカイウォークで、崩落事故!2階と4階の空中通路にいた60人が落ちて要救助者多数、長丁場になりそうよ!1部だけじゃなく、全ヒーロー招集!覚悟して来て!』
「んなの最初っから覚悟してるっての!バニー、場所分かるか!」
「メダイユシルバー、東側幹線道路でしょう。ルートからいって、引き返して先に向かった方が早い」
「任せた!了解、すぐ行く!」
言うが早いか、ダブルチェイサーは見事にアクセルターンを決める。ヴォン、とバイクのエンジンが唸りを上げ、車道に滑り出て行った。
「舌、噛まないで下さいね」
「誰がだよ、なめんな。斎藤さん!」
ぐんと体にかかったGにも虎徹はびくともせず、PDAで斎藤さんを呼び出す。
「斎藤さん、トランスポーター持ってきて!合流地点はゴールドとシルバーの55番出口な!」
『もう出るところだよ!55番だな、すぐ向かう!』
「っしゃあ、バニー!飛ばせよ!」
「言われなくとも」
つんと顎を持ち上げ、バーナビーは涼しい目線だけで答えて運転に終始する。
「ここからなら、39番分岐点を通って三叉路を行った方が早い。ショートカットしますよ」
言うなりバーナビーは車の間を縫って飛ばし始め、それを見た人々ががんばれ!気をつけてな!と手を挙げる。
「到着ポイントはねえけど、一番乗り目指そうぜ!」
「勿論。さあ、行きますよ虎徹さん」
ぐんと回転計が回り、ダブルチェイサーが更に速度を上げる。
「おうよ!ワイルドに吼えるぜ!」
ダブルチェイサーの後ろに、日中でも鮮やかに輝くピンクとライムグリーンのテールランプが長い尾を引いた。


アニエスの言う通り、確かに救助現場は困難を極め、長丁場となった。
ホテル内ではダンスコンテストが開かれていて、人々はそれをロビー吹き抜けの天井部分から吊り下げられた空中通路、通称スカイウォークで見物していた。
だが、人々の重みで4階通路の梁が変形し、天井から吊り下げていた金具との接続が外れ、その真下にあった2階通路と共に下のロビーに崩れ落ちたのだった。
更に、貯水槽に接続されていた水道管が衝撃で破裂して、ロビーが冠水し救助活動は更に困難を極めた。
ブルーローズをもってしても、水道管を凍らせたところで水圧によって更に破損が進む。
ゆえにヒーローたちは噴き出す水にずぶ濡れになりながら、下敷きになった人々の救出に懸命に当たった。
虎徹やバーナビーは1部に匹敵する使い勝手のいい能力を持っているため、休まず最前線の救助活動への参加を自分たちで選択した。
スーツも脱がずシャワーも浴びず、行方不明者の搜索に当たること丸2日。
バーナビーが行方不明だった最後の一人、ホテルスタッフの女性を助けたところで、犠牲者は110人にものぼっていた。
全員がいかな形であれ発見されたことで、ホテルのフロアに張り出されていた行方不明者を探すチラシも撤去された。
ようやく救助活動を終えた虎徹は着替えもそこそこにその足でそれを見に行き、泣き崩れる遺族たちを少し離れた所から見守っていた。
ややあって、後ろからバーナビーも追いついてくる。虎徹の視線の先に、バーナビーも痛ましそうに眉を寄せた。
「…バニー。何回見ても、こういうとこには慣れねえよなあ」
「ええ。…どんなに全力を尽くしても、助けられない命はあります」
「ヒーローは万能じゃねえ、か」
そして、万能であるNEXTもまた、存在しない。
踵を返そうとして、どん、と虎徹は誰かにぶつかった。
「あ、すんませ…」
ぶつかったのは初老の婦人だった。
「タイガー!」
婦人は虎徹を見るなり、ぐっと虎徹の腕に縋り付く。
「え?え?」
訳が分からない虎徹をそのままに、婦人は涙に濡れた赤い目でじっと虎徹を見た。
異変に気がついて、バーナビーも寄ってくる。一瞬今回の遺族かと思ったが、どうもそれとも様子が違うようだった。
「おい、どうしたばあちゃん?」
「どうしたもこうしたもないんだよ…!ありがとう、タイガー!うちの孫を助けてくれて…!」
女性の言葉に、2人ともが顔を見合わせた。
「え?…孫?」
「そうなんだよ」
何度も何度も頭を下げ、初老の婦人は虎徹の手を握った。
「うちの孫が、ずっとここの下敷きになっていて。昨日タイガーに助けられて、さっき目を覚ましてね。どうしてもお礼が言いたくて、ここまで来てしまって」
気が動転しているのか、女性は何度も息を切らせる。けれど言いたいことはちゃんと伝わって、虎徹もバーナビーも明らかにほっとした表情を浮かべた。
助けられなかった命もあるが、助けられた命への喜びは何にも勝る。これがあるから、どんなに辛いことがあっても2人はヒーローを続けていられるのだ。
自分のためでなく、誰かのために。
能力は誰かのためであれ。いつもそれを心に刻んで立つ2人の背中はいつも真っ直ぐで、折れることはない。
「そっか…よかったなあばあちゃん」
「それでね、どうしてもお礼がしたくて」
「礼?」
「礼っていってもね、わたしの能力じゃあこんなことしかできないけども」
言い終わるやいなや、婦人の全身が青く輝いた。青い光は虎徹へも移り、2人の全身がぼう、と強く光り出す。
光はどんどん強くなっていく。
「え?え?」
「こ…タイガーさん!」
戸惑う虎徹に、バーナビーが顔色を変える。
「もし孫が助からなかったなら、自分で能力を使うつもりだったんだよ。タイガーも、もし心残りがあるのなら、どうかそれを救えるように…」
虎徹の輪郭がおぼろげに消えていく。
ぎゅ、と婦人が強く手を握った瞬間、婦人の青い光も虎徹へ全て移る。目も開けていられないほどの青い光に、バーナビーも一瞬手で光を遮る。
「虎徹さん!!」
慌てて手を伸ばしたバーナビーの目の前で、虎徹の姿は忽然とかき消えた。



「…どこだここ?」
虎徹はぽり、と頬を掻き、周囲を見回した。
目の前には綺麗に舗装された道路と閑静な住宅街とが広がっている。
見覚えのある景色のような気もするが、思い出せない。一応何かヒントはないかと、さっきより意識して視線を巡らせる。
上に底板パネルがないから、ここはきっとゴールドステージだろう。少し離れたところにはビルが見えて、ジャスティスタワーがその奥に見えるので方角も大体分かる。
ジャスティスタワーの存在を考えても、間違いなくここはシュテルンビルトだ。
けれど時間は、確か朝の9時ぐらいだったはずだ。腕の時計を見ても、やはり9時半を指している。
それなのに、今上にある空には夕暮れが差し込んでいる。明らかに時間経過と、体感時間がおかしい。
これは明らかにあの婦人のNEXTのせいだろう。どんなNEXTかは分からないが、間違いなく何かをされたに違いない。
お礼と言っていたから、悪いことではないと思うのだが。
「…ま、いっか。ちょっと歩いてみっか…」
こういうところは楽観的でよかったと思う。不安に思っても仕方ないと、虎徹は開き直って道路を歩き出した。
携帯は当然圏外で、繋がりそうにもない。
しばらく歩道に沿って歩いているうちに、公園に出た。
公園なら屋台やスタンドがあるはずだと、きょろきょろと辺りを探せば、『シェイクシャック』と書いてある屋根がけの小さなハンバーガーショップを見つけた。
人もたくさん並んでいる上に、小さい新聞スタンドも併設されている。
これはラッキーだと虎徹は尻ポケットの財布を取り出し、店に近づいていった。
「いらっしゃい!」
「こんちは。何がおすすめっすか?」
「シャック・バーガーだね。トマトとレタスとひき肉、マッシュルームのフライにメルトチーズだよ」
「うまそう!んじゃ、それで!」
「フライドポテトとフローズンカスタードはどうだい?」
「ポテトと…あと新聞一部と、レジェンドコーラある?」
「あるよ。そら、全部で12シュテルンドルだ」
レジェンドコーラもあって、札も通じた。けれどこれだけでは時間特定の決め手に欠ける。
虎徹は適当な座席に座り、がさがさと新聞を広げた。
目に飛び込んできたのは『NC1957年11月30日』の日付だった。
「…はあ!?」
思わず大きな声が出て、視線が集まる。
すんまっせーん、と平謝りし、虎徹は新聞で顔を隠した。
どういうことだ、と、普段ろくに使わない頭をフル回転させる。
虎徹のいた時間は、NC1980年3月だったはずだ。ということはここは、23年も前ということになる。
「なんで23年前なんだよ…?俺23年前って何してたっけ…?」
指を折って数えてみると、大体ハイスクールに通っていた頃だ。
確かあの婦人は『心残りを救えるように』なんて言っていたが、なんの心残りがあるというのか。
友恵が学級委員長をしていて、アントニオやネイサンと結構楽しくやっていたようには思うが、考えても何か心残りのようなものは思い出せない。
「ん〜…?」
椅子をぎしぎし言わせて、レジェンドコーラを啜る。
流石はシュテルンビルトで、11月末日であろうとさして寒くはない。
一応トレンチを着ていてよかったなと思う。
幸運にも財布には給料日後だったから、おろしたばかりでそこそこ金も入っていた。数日くらいならなんとか泊まるところにも困らないだろう。
けれど、こうしていてもらちがあかない。
心残りを救うためにとこの時間に飛ばされたのなら、その心残りを探さなくてはならない。そうしなければ元の時間には戻れないだろうし、バーナビーもきっと心配している。
戻ったら「貴方は本当に、いいことをしてもしなくてもトラブル体質ですね」なんて叱られるだろうか。
でも、叱られてもいい。
一年もそばにいなかったのに、2部に戻ってきてコンビとして復帰して、すっかり横に落ち着いてしまった。
「バニー」と呼べば「はい」と間髪入れず声が帰ってくる。
…だから、いないと少しばかり、落ち着かない。
あの眩しいくらいに鮮やかなクリアレッドのヒーロースーツに、真っ白なライダースジャケット。
それが翻る残像を思い出し、虎徹は少ししんみりとして残りのポテトを齧った。


05:19 AM - 2 Feb 14 via Twishort

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