いまはあまり読まれなくなってしまったが、F.L.アレンというジャーナリストが書いた『オンリー・イエスタデイ──1920年代・アメリカ』(筑摩叢書)という本がある。具体的には、アメリカ人の生活が大きく変化した1920年代の出来事を詳細に記した本だ。
この時代からアメリカの女性は誰でも化粧をして外出するようになったし、映画やラジオといったメディアが日常の一部となり、日常を広告が占めるようになった。つまり、現代では世界中の中間層と呼ばれるような人々の生活は、この時代のアメリカで産声を上げたのである。
本の冒頭は、こんな具合である。
「この本は、アメリカ史において、将来、特異な時代と見なされるであろう一時期について述べ、それに多少の解釈を加えようと試みたものである。その時期とは、一九一八年十一月十一日の対独戦争終結の日から、一九二九年十一月十三日の株式相場大暴落で最高潮に達し、急激かつ劇的に『クーリッジ(フーヴァー)景気』を破綻に追いこんだ大恐慌までの十一年間である」
アレンの手法とは、1920年代という「デケイド(10年紀)」に目を付け、その間にアメリカで起こった出来事を徹底的に掘り起こすというものだ。
ちなみに、前の引用の中に登場する「対独戦争終結」という言葉だが、これは、第一次世界大戦の終戦のことだ。この時点においてすでに「世界大戦(World War)」という言葉は存在したが、むしろ当時のアメリカ人にとっては、「対独戦争」「欧州戦争」といったニュアンスが強かったのだろうと想像することができる。
この本が刊行されたのは1931年、1920年代が終わって間もない時期に書かれているのだ。1920年代という時代が歴史として語られるようになる以前にアレンは、その記述に着手した。歴史家が記した歴史の本ではなく、ジャーナリストが記した考現学、日本で言うところの今和次郎なんかの仕事に近いといったところだろう。
まったく話は変わるが、僕は数年前にこの原稿と同じ「デフレカルチャー」という題名の連載をしていたことがある。基本的な著者の関心は、経済不況と文化の関わりについて考察するというものだ。そのかつての連載では、日本が長い不況に陥り、気がつけば不況以外の状態を知らない世代=「不況ネイティブ世代」が登場しているということに目を付けた。
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