まちづくり/巨大防潮堤の足元(2)漁、景観「ないがしろ」
<仕事にならぬ>
海が、遠くなる。巨大事業見直しの扉を開いたのは地元の危機感だった。
大小の島が点在する宮城県塩釜市浦戸諸島。宮城県は当初、民家がある桂島など4島で、高さが海抜4.3メートルの防潮堤建設を計画した。4島の区長連名の申し入れなどを受け、ことし2月、内湾に限って1メートル引き下げる見直しに踏み切った。
「海の状況を見て出漁の可否を判断するのが漁師。防潮堤に遮られたら仕事にならない」
桂島区長の内海粂蔵さん(73)が力を込める。自身もかつて漁師として海と向き合った。
県から一定の妥協を引き出した後も、住民側は納得していない。「できる限り低く」。粘り強く要望活動を続ける。
内海さんは「建設前提で話が進んだから行政もわれわれも苦労している。まずは地元の意見を聞くべきだった」と振り返る。
<砂浜また窮地>
巨大防潮堤は浜のなりわいとともに、景観にも影響を及ぼす。
温暖な気候、遠浅の広い砂浜から「東北の湘南」と呼ばれる福島県いわき市。市民に親しまれてきた海岸で今、重機がコンクリートの壁を築く。
「砂浜をなくして、行政は海岸をどうしたいんでしょうか」。市内でサーフショップを経営する小林祐一朗さん(52)が問い掛ける。
20年以上前、護岸整備による砂浜の侵食に危機感を抱いた。市民団体をつくって行政に対応策を求めてきた。その砂浜が、今度は防潮堤の下に消えようとしている。
小林さんは「きれいな浜には人が集まる。貴重な地域資源が、命を守る大義の前でないがしろにされている」と徒労感をにじませる。
<未知数の植樹>
防潮堤そのものの見た目にも批判がつきまとう。灰色の壁が周囲に与える圧迫感は想像以上だ。
国は「緑の防潮堤」を提唱し、景観と減災機能の両立を模索する。陸側斜面に植林することで環境との調和を目指すものの、整備が順調とは言い難い。
東北地方整備局は昨年、宮城県岩沼市内で広葉樹の苗約7400本を植樹した。立案者でもある宮脇昭横浜国立大名誉教授(森林生態学)が指導に当たった。
鳴り物入りの事業として注目を集めた現場では今、塩害によるとみられる枯死が相次ぐ。「生態系の特質を踏まえた整備が必要」。ことし4月には、日本学術会議から注文が付く事態となった。
「絶対とは言えないが、うまくいくと確信している」と宮脇氏。成否が判然とするまで、年単位の時間がかかるのは避けられそうにない。
2014年07月16日水曜日